第17話 老いの村
ハンナは先ほどの事を考えながら歩き始めた。
「ねえ、お父様。さっき不思議なお方が私達を助けてくれたのです。」
「そうか。何となくは覚えているが詳しく教えてくれないか?」
「はい。数十人の山賊を一瞬で消し去ったのです。煙の様に消えて行きました。」
「…消えたのか。となると相当の魔力の持ち主だな。」
「それに、私の不死鳥の力を知ってたみたいでお父様の傷の手当てをする様に誘導してくれました。」
「何だと?まさか、皇帝側の追手の者ではないのか?」
父は少し取り乱した。
「確証はないのですがそれは無いと思います。その方が“父が死んでしまったら私の力は効かなくなる”と仰ってました。恐らくこの不死鳥の力の事を良く知る方ではないのかと思います。」
五人は不安と期待が入り混じっていた。
「この辺だな。」
父が分厚い曾おじい様の書いた本を見ながら皆に言った。そこには細い獣道が一本続いていた。
「ここを進んでいくと老いの村だ。じゃあ、行くぞ。」
ここまで来ると不安で皆、無口になっていた。受け入れてもらえなければ絶望的だ。
一時間程、歩いたら獣道から歩きやい道に出た。緑が生い茂って空気が澄んでいる感じがした。
「ここが老いの村か…。よし…村長に会いに行こう。」
道をズンズンと進んで行くと民家の中からこっちを見ている視線に気付いた。
「よそ者が来たと思われているから気をつけなさい。」
父の忠告に皆気が引き締まった。
「ここだ。村長の家だ。いいか行くぞ。」
その村長の家は何故かどこかで見た事のある家だった。父も緊張してるみたいだ。扉を開くと一人の可愛らしい老婆がちょこんと座って居た。
「こんばんは。夜分遅くに失礼いたします。不死鳥の巣の近くの村から来ましたサラと申します。村長さんとお会いする事はできますか?」
父が恐る恐る聞いた。その可愛い老婆はニコニコとしているだけで特に何も答えない。
「こんばんは!サラと申しますが村長さんはいらっしゃいますか?」
もう一度大きな声で聞いてみたがやはりニコニコしているだけだ。
「どうしょうか。とりあえずこのままで待とう。」
父が困った様な笑顔で言った。
“ガチャ”
その時、扉が開き一人の初老の男性が入って来た。
「どうもこんばんは。私はメドックと申します。そちらのお方は村長の奥様です。」
「こんばんは。」
ハンナ達も挨拶をした。
「どうも、夜分遅くに申し訳ありません。私達はここより南の村から来ましたサラと申します。村長さんはいらっしゃいますでしょうか?」
父がメドックに挨拶をした。
「村長は今、野暮用で出ておりますのでどうぞお掛けになってお待ちください。」
“老いの村”の住人は偏屈者多い言っていたが至って普通の老人という感じだ。
「では、お言葉に甘えて。」
そう言ってハンナ達はソファーに腰を下ろした。ソファーは二人掛けが二つだったのでサーブルがあのニコニコして座って居るおばあちゃんの近くに立った。
「ここに来るまで大変でしたでしょう。今、お茶を入れますから。」
そう言うとメドックはお茶を入れ出した。
「あ、どうぞお構いなく。」
父は申し訳なさそうにしている。
「こちらのお客さんが立ったまんま可哀想だが。メドック!気が利かんな!」
それまでニコニコしていたおばあちゃんがいきなりメドックに注意した。急に大きな声を出したのでびっくりしておばあちゃんの方を見ると、おばあちゃんはサーブルに自分が座って居た椅子を譲ろうとしていた。
「私は、大丈夫ですので奥様が椅子を使って下さい。」
サーブルはおばあちゃんの優しさにニッコリ笑っていた。
「え、え、なん、で…」
微笑ましい場面なはずなのにメドックの顔は驚きで強張っている。違和感のあるその態度にそこにいた全員が戸惑った。
「あの、メドックさん?」
父がメドックに声をかけた。
「そ、そ、そ、村長―――!!!」
口をパクパクさせながらメドックはその部屋を出て行った。ハンナ達は茫然とするしかなかった。それよりも今夜の宿はどうしたらいいかという不安が大きくなった。
「本当だめねえ。メドックは村長の秘書としてはまだまだだわ。」
そう言いながらメドックが準備していたお茶を入れ始めた。おばあちゃんは手際が良くとてもいい香りのするお茶が出て来た。
「どうぞ。もう少ししたら村長も帰って来るだろうから待っててね。」
おばあちゃんはそう言うと椅子に座りまたニコニコとしていた。
ハンナ達はおばあちゃんの淹れてくれた美味しいお茶を飲んでひと時のリラックスタイムを楽しんだ。
“ガタガタ”“バタン!”ダダダダ“
何だか慌ただしい音が響き渡ったかと思うと部屋のドアが勢いよく開いた。そこにはメドックと後ろにもう一人老人が居た。
「村長!おおおお、奥様がしゃべりました!」
メドックが必死で村長にさっきの流れを説明していた。
「こらこら。客人の前ですぞ。」
そう言いながら村長が部屋に入って来た。
「これはこれは、どうも。」
ニッコリ笑って挨拶をした。
「貴方は!」
ハンナは驚き立ち上がった。そこに居たのは先ほどの不思議な老人であり、宿の主人だった。
「おお、お父様の傷は完全に治った様ですね。良かった。」
顎髭を触りながらハンナ達の顔を見回した。
「先ほどは本当に助かりました。ありがとうございます。」
ハンナはお礼を言った。
「遅れまして、申し訳ありません。クロード・サラと申します。この度は色々とありがとうございました。」
父も前に出て丁寧にお礼をした。
「少し早いが底なしの沼の怪物の餌をあげてきたのでお待たせしてすいません。今日はたくさん餌にありつけたので怪物も満足して夜中に暴れ出す事はないだろう。ところで、あんな危険を冒してまでここに来たのには何か理由があるんだろ。聞かせてもらっていいかな。」
村長はキセルに火をつけた。
「はい。ありがとうございます。実は娘のハンナがデグラス皇帝の第二皇子アンベスの妃になったのですが、皇帝がハンナが小さい頃に不死鳥に触れられた者という事をなぜか知っている様なんです。私達の命の危険を感じてここまで逃げて来たのです。娘から先ほどの話も聞きました。村長は、娘…ハンナの力についても知っておられるようで知恵をお借りしたいのと、少しの間こちらに宿をお借りしたくこの村に来ました。」
父は丁寧に村長に説明した。
「そうか。そうか。不死鳥に触れられた人間を実際に見たのはわしも初めてだ。それと、この村で宿を借りたいという事はデグラス側には呪術を使える者がおるんじゃな。」
「はい、今のところは上手く逃れられてるのか、追手はまだ来てないのです。」
村長は煙をぷかーっと吹いた。
「そうだなあ…」
皆、村長の答えをドキドキして待っている。
「もー!あんたは昔からそうやって間が長いのよ!あんまり長いと何かがポッカリ抜けてるみたいじゃないの!そしたら間抜けよ!間抜け!」
またおばあちゃんが厳しいお言葉を投げかけて来た。そのおばあちゃんの態度に村長は目をまん丸にしてパチパチさせた。
「村長!ほらやっぱり!奥様が怒ってます!まるであの日の様に!」
メドックがビクビクして村長の後ろに隠れた。
「あ、あの、どうぞ宿は用意しますのでゆっくりしていってください。」
村長はそう言いながらもまだ呆気に取られていた。
「そうそう!最初からそう言えばいいのよ!」
おばあちゃんはようやくニッコリとした。
村長は直ぐに宿を用意した。今日は遅いのでゆっくり疲れをとって明日、話をしようという約束をした。
部屋は狭いが一人一人用意してくれてお風呂にも入れた。
「けど、何だか変わった所ね。」
ハンナは湯船に浸かって考えていた。お風呂から出ると疲れが出たのかベットに入り直ぐに眠ってしまった。
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