第14話 不思議な宿屋

「おはよう。二人とも!さあ、出発するわよ。」

ハンナは二人に声をかけた。

「お早うございますお嬢様。」

「私、昨日はとても良く眠れたんです。お陰で疲れも取れました。」

エクラはとてもスッキリしている様だった。

「そうね。サーブルは大丈夫?床に寝たのできつかったのではない?」

「いえ、それが今までの自分のベットで寝るよりも熟睡してしまいました。」

そう言うサーブルは少しバツが悪そうだ。本当は寝ずの番をしようと思ってたみたいだった。三人は支度をしてフロントへ向かった。


「どうですか?昨日はよく眠れましたか?」

不愛想な主人がぶっきら棒に聞いて来た。

「はい。とてもよく眠れました。ありがとう。」

取り合えずお礼を言って宿を後にした。


宿の主人はハンナ達が出て行ったのを確認してどこかに電話を掛けた。

「旦那、言われた通りに三人を宿に誘導して宿泊させました。今、出て行きましたがこれで本当にこんな大金頂いていいんですか?」

「ああ。ありがとう。その金は報酬として受け取ってくれ。」

電話の相手がそう答えた。宿の主人が電話を切った後にボソボソと何かの呪文を唱えるとその宿ごと煙の様に消えてなくなった。



「何だか不思議な宿だったわね。」

ハンナは主人の顔を思い浮かべ二人に問いかけた。

「部屋は空いてないという割に他に誰もお客さんを見なかったですよね。でもこれでお金がだいぶ減ってしまいましたね。今後は野宿になりますかね?」

エクラがお金の入った袋を開けて中身を確認した。

「とりあえず私の家に急ぎましょう。これから暮らしていくには、何か仕事を探さないといけないわね。住む所は私の家の部屋が空いてるからそこに寝泊まりすればいいし。もうあの城には戻りたくないわ。」

「いいんですか?住む所があれば何とかなりますよ。」

エクラは何だか楽しそうだ。

「私は何の仕事なども出来ますので何なりとお申し付けくださいませ。」

サーブルも乗り気なのが可愛らしい。

「二人とも、ありがとう。」

ハンナは心から感謝した。この二人が居なかったら一人でこの旅をしなければいけないと思うとゾッとしてしまう。

「さあ!頑張って歩くわよ!」

三人はひたすら歩いた。






「今から、ハンナ達の居場所を探すわ。」

そう言うとコットは呪文を唱え始めた。五分ほど呪文を唱えていたら、昨日は全く反応しなかったコットの前に置いてある方位磁針がグルグルと動き出した。

「ん?見えて来たぞ。ここから行くと南東の位置に居るわね。」

コットは呪文を唱え続けた。

「行先はハンナの生家だな。」

コットの呪術は凄かった。ハンナの居場所と行先を見事に当てた。

「皇帝はどこだ!すぐに皇帝に伝えなければ。」

コットが皇帝にハンナ達の居場所と行先を伝え様としたその時に、部屋の扉が開いた。

「誰だ!?誰の許可で入って来た!」

コットは鬼の様な顔で入って来た人間の方を見た。

「あ、ごめんね。取り込み中だったかな。」

そこに立っていたのはロスタル侯爵だった。

「侯爵!いらしてたなら早く言ってください!」

さっきまで鬼の様な顔をしていたがふっといつもの美しいコットに戻った。

「侯爵、今日は私の部屋にまで来てどういった用件ですか?」

コットはロスタル侯爵の首筋をスッと爪でなぞった。

「こんな朝早くから呪術をやってるなんて珍しいね。」

ロスタル侯爵はコットの腰に手を回した。

「ネズミ退治ですわ。」

コットはフッと笑った。

「ネズミ?気にしなきゃいいのに。」

ロスタル侯爵がコットの耳元で囁いた。

「今日はずいぶん積極的なんですね。」

コットが色っぽく迫った。

「そう見える?いつもと同じだけど。ネズミは見つかったのかい?」

「ええ。チョロチョロしてるので早く駆除したいわ。」

「それは僕に出て行けと言ってるの?」

ロスタル侯爵はコットにキス出来る位の距離まで顔を近づけた。

「いいえ。そんな事は言いませんわ。その代わり私をこんな気持ちにさせて責任を取って下さるの?」

コットはもっと積極的にロスタル侯爵に迫った。

「責任?まあ、話し相手位にならなってあげたいけど。」

ロスタル侯爵はコットに顔を近づけた。


ロスタル侯爵がコットの部屋を出たのは、それから三時間近く経った後だった。ロスタル侯爵が城を出る時に、まるで見計らって居たかのようなタイミングでアンベス皇子に会った。

「何か御用だったのでしょうか?」

アンベスが睨むように聞くとロスタル侯爵はニヤリと笑った。

「何かの御用だったかは、皇子が入れ込んでる聖女様に聞いたらいいと思うよ。」

ロスタル侯爵はそう言うとアンベス皇子の肩をポンと叩いた。その態度にアンベスは妙な胸騒ぎがしてコットの部屋に急いだ。

「コット!大丈夫か?」

部屋に入ると甘ったるい匂いが充満していた。その匂いはアンベスの脳を刺激した。

「コット!まさか、あいつと……」

アンベスは嫉妬で身が千切れそうになった。

「アンベス、今から皇帝の所へネズミの居場所を伝えに行かないと…」

嫉妬からかコットが憎らしくもいつも以上に美しく見える。

「コット!!」

この甘ったるい匂いのせいなのかアンベスはもう歯止めが効かなかった。

コットの腕を引き、奥の寝室に強引に連れて行った。

「え?なに?ちょっと!」

なんて言いながら満更でもなさそうなコットだった。



結局、コットが皇帝の所へハンナ達の居場所を伝えに行ったのは半日以上経ってからだった。皇帝は遅すぎる報告にイラ立ち怒り狂った。

「すぐに騎士団と馬を用意しろ!エクラは殺してもいいがハンナは生け捕だ!」

そう言うと、皇帝自ら先導を切ってハンナほ生家へ出発した。


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