汚嫁にはめられた上に托卵されていたおっさん、自分だけが使えるチートアイテム【スマートウォッチ】で地上最強になった結果、世界的成功者に~汚嫁から元鞘を希望されるが、それより慰謝料を払ってもらおうか~
大田 明
第1話 離婚から始まる物語
「奥様は離婚を望んおります」
そう宣言するのは、家内が雇った弁護士。
俺は弁護士事務所で、弁護士と家内を前にして呆然とする。
「離婚って……そんないきなり」
「いきなりではありません。旦那様のDVを理由に離婚を求めています」
「DV!? 俺はそんなことを――」
「ですが奥様はこうして日記を付けています。病院での診断結果もあります。奥様にはDVを『やった』証拠があるのです。もし反論があるのなら『やっていない』証拠を提示してください」
「
DVをした事実など絶対にない。
俺は混乱するままに家内である雅美の名前を叫ぶ。
青い髪を伸ばしており、年相応の見た目。
昔は美人であったが、今もその面影を残している。
そんな雅美は怯えたような顔をこちらに向け、ガタガタ震えていた。
それは演技であろう。
彼女は気が強い女性なのだが、今は怯える弱い女性を演じている。
そうか……俺をはめるつもりなんだな。
「やっていない証拠はありませんけど、絶対やってませんから!」
「それでは話になりませんね。子供の話し合いじゃないんです。このままでは裁判になる可能性も出てきますよ。もちろん、こちらが勝つのは明白でしょう。あなたがDVをやった証拠が、それを事実と物語っているのでね」
雅美が書いていたという日記は嘘で塗り固められている。
俺と離婚するために、用意をしてきたというわけだ。
喧嘩もしたこともなければ、怒鳴り付けたこともない。
仲のいい夫婦だと思っていたが、それは俺だけが感じていたことなんだな。
その時、震える雅美の口元がニヤリと歪んだのを見逃さない。
分かってはいたが、俺を裏切ったんだ。
激しい衝動が腹の中を駆けまわる。
怒りで頭が沸騰しそうだ。
息が荒くなり、思考が鈍くなっていく。
激情のまま声を荒げようと俺は考えた。
しかし俺がどれだけ怒りを覚えようとも、現状は変わらない。
俺は離婚を突きつけられ、そしてそれは全てこちらの有責になろうとしている。
この罠をひっくり返すだけの材料があるか?
いや、全く無い。
用意周到の相手に対して俺は無策。
突然戦場に放り込まれた兵士みたいな状態だ。
戦う武器も術も無い。
俺は項垂れ、弁護士の言葉を黙って聞くしかなかった。
「旦那様有責、そして長年DVをしていたこともあり、慰謝料は400万円を請求いたします。それと養育費の件なのですが――」
「ちょっと待ってください! 子供たちはこいつと暮らすことはもう決まっているんですか!?」
「日記にはあなたが子供の面倒を一切見ていないことを書き示されています。親権はまず、奥様になるでしょう」
「そんな……」
お金のことは仕方ないにしても、子供まで持っていかれるというのか?
「悪いけど、子供たちも納得しているし、あなたと一緒に暮らしたくないって言っているの。暴力を振るうお父さんなんて御免だって」
「それはお前がっ!!」
テーブルを力いっぱい叩く。
そして雅美に掴みかかろうとするが、寸前に弁護士に阻止される。
「暴力はおやめ下さい。これ以上借金を増やしたくないでしょう」
「くっ……」
「それでは納得していただけましたら、こちらの方にサインをお願いします。
弁護士から見えないところで、勝ち誇った笑みを浮かべる雅美。
こうして俺は全てを失った。
財産も伴侶も、そして子供たちも。
俺は何もかも失ってしまったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
雅美との離婚が成立してから一ヶ月が経過していた。
「はぁ……孤独だ」
俺は狭いアパートに引っ越し、一人寂しく夕飯を食べていた。
食べているものと言えばカップラーメン。
雅美が毎日ご飯を作ってくれていたので、自炊をする能力は皆無である。
まぁ自炊する能力が無いからという理由だけで、カップラーメンを食べているわけではないのだが……
しかし今から考えると、最後の一年ぐらいは大した物を作ってくれなかったな。
残り物は当然で、適当に焼いた魚とか、湯通ししただけの肉とか。
作ってくれているだけで感謝。
なんて考えていた俺はバカだ、大バカ者だ。
「元気にしてるかな……」
俺と雅美は22の時に子供が出来て結婚。
それから16年連れ添ってきた。
子供は16歳の
母親に似て美形の二人だったが、俺には似ていない。
まぁ普通の容姿しか持たない俺に似たところで喜ばしいことなんて一つも無いので、それで良かったのだが。
でも少しぐらい似てる方が嬉しかったな、とも思う。
「しかし来月からどうしたものか……生活費が全然足りない」
仕事はしているが、二人分の養育費を払うとなると全然足りない。
その上、借金まで背負うことになってしまった。
今でも雅美のことを許せず、あの日のことを思い出すと
しかし弁護士が言っていたように、証拠が無ければどうしようもない。
それが司法の世界なのだ。
胸糞悪いが、それを認めるしかない。
それを理解していた雅美の方が一枚上手であっただけだ。
だけど口惜しい、認めはするが納得はできない。
そして金が必要なのも事実。
例え罠にはまめられたような状況でも、払わなければならない金がある。
このままじゃすぐに破産だ。
カップラーメンぐらいしか食べる余裕が無い。
自己破産しても、養育費の支払い義務は免除されないらしいからな。
「バイトするしかないよな……何か良いバイトでもあるか?」
携帯を操作して、適当なバイトを探す。
平日は仕事をしているので、土日辺りか隙間時間に働けるバイトとなると……
「冒険者のサポーターか……危ない仕事みたいだけど、どうなんだろう」
この世界には『ダンジョン』というものが存在している。
例えばマンションの一室であったり、教室の入り口であったり、『入り口』が突然現れる。
異空間に繋がるような渦が生じ、それがダンジョンに繋がっているのだ。
このダンジョンに挑む者こそが『冒険者』と呼ばれている。
モンスターを倒して生計を立てる者の総称だ。
そしてそんな冒険者たちのダンジョン攻略をサポートする仕事がある。
冒険者ほど危険は無いが、それでも危ない仕事ではある。
でも手取りも悪くないし、やってみる価値はありそうだな。
ダンジョンにはレベルがあり、低レベルのところなら素人でも問題無いって聞いたけど……何とかなるか。
「一度やってみるか。普通のバイトより割が良さそうだしな」
冒険者のサポーターをすることを決定し、早速スタートの仕方を検索する。
やり方が分かった俺はカップラーメンの汁を飲みほし、容器をゴミ箱に向かって放り投げた。
これが入れば俺は幸せ!
そんなバカな願いを込めて投げた容器は、見事にゴミ箱の中へと飲み込まれた。
「ま、こんなことで幸せになれるわけないんだけどな」
そんな風に笑う俺であったが――まさか本当に幸せになるなんて。
これが全ての始まり――不幸の終わりで真の幸福の始まりとは、この時の俺は当然知る余地も無かった。
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