第20話
とある魔法少女side
「はーあ。やんなっちゃうなぁ。よりによって、シオウ先輩が休みの日に怪人が現れるだなんて」
「ぶつくさ文句言ってんじゃねーよ。さっさと終わらせてしまえば済む話なんだからよ」
パートナーである藤岡香織の愚痴を聞きながら、歩みを進める。
今日の任務の内容は、担当区域に出現した結界の発生原因の調査。
私はここに居ますよ、と誇示している馬鹿な怪人の駆除の仕事だった。
本来、結界は対象を閉じ込めて、外部の存在に内部の事象を認識できないようにする術。
要するに、結界外にいる人に気づかれる事なく、ボコしたい奴をボコすための手段なのである。
それなのに、私達の担当区域に発生した結界は、結界としての役割を果たせていない。
外部の存在である、あたし達に認識できている上に魔力もダダ漏れ。
結界内に、怪人が潜んでいるのは明白だ。
「結界内にいる怪人が雑魚そうなのが救いかな。とは言え、ダルいのはダルいけど」
ようやく、目的の場所に到達する。
私達の眼前にあるのは、廃墟と化している工場。
如何にも、穢らわしい怪人が好みそうな薄汚れた場所だった。
「……いくぞ、警戒を怠るなよ」
「はーい、わかってます〜」
結界を潜り抜けて、工場へと足を踏み入れる。
心なしか、瘴気は薄い。
やはり、怪人はさほど強い個体ではないようだ。
これでようやく、何にも縛られずに怪人と戦う事が出来る。
そう考えると、嬉しくて仕方がない。
あたしや藤岡は、シオウ先輩と常日頃から行動を共にしている。
プライベートの時も……任務の時も。
戦闘の際には、シオウ先輩にサポートしてもらっているのだ。
そのため、彼女が居ない状態で怪人と戦う事に恐怖感を覚えていたが、心配しなくても良さそうで一安心。
結界の張り方すら知らない馬鹿な相手なら、余裕で勝てると断言できる。
……シオウ先輩は、強い。
どんな怪人と対峙しても負けやしない。
そんな彼女と一緒にいれば、少なくとも死ぬ事はない。
だからこそ、あたしは媚び諂っていた。
あの人に、見捨てられないために。
「もしかして、魔法少女の人ですか……?」
そんなことを考えていると、工場に置かれた機械の物陰から、ボロボロの衣服を着た少女が現れる。
最初こそ、怯えた様子を見せていた彼女だったが、あたし達の服装を見た途端に涙を流し始めた。
どうやら、心の底から安心したのか、泣きながらも笑みを浮かべている。
そんな少女の姿を見ていると、無性に腹が立ってくる。
他人に縋るしかない弱者は大嫌いだ。
シオウ先輩の小判鮫である自分の姿を見せられてる気分になってくるから。
……あたしが魔法少女になった理由は、正義のためでも何でもない。
ただ、力が欲しかったってだけ。
普通に学校に行って、普通に仕事をして。
社会の歯車になって死ぬなんて嫌だったから、魔法少女になりたかったのだ。
それなのに、今のあたしは……シオウ先輩の子分として、媚び諂っている。
彼女の機嫌を損ねないよう、必死になっている。
本当は、自由になりたいと思ってるのに。
「よ、良かったあ。私、怪人に連れ去られて。ずっと一人で怖くてぇ……」
民間人を助けるなんて面倒くさい。
戦う時に足手纏いにしかならない上に、気を遣わなきゃいけないのも怠い。
でも、放っておくわけにもいかない。
もしも、あたし達が少女を見捨てて。
その事が魔法少女協会にバレたら、もっと面倒くさい事になってしまうから。
嫌でも、助けなくてはならないのだ。
「おーよしよし。もう大丈夫だからね。善良な魔法少女である私達が保護したげる」
あやすような言葉を投げかけながら、藤岡は少女に近づいていく。
討伐対象である怪人を見つける前に民間人の保護をしてどうするんだ、と言いたい所だが……危険地帯である結界内で、放っておく訳にもいかないので、口は出さない。
どこに怪人が潜んでいるか分からない所で放置するより、あたし達の側に居た方が安全だと思うしな。
……呑気に、そう考えていたら。
「助けてくれて……ありがとうなァ。怪人が変身してるリスクを考慮しねぇ、お間抜けな魔法少女さん」
少女は懐から紫色の針を取り出し、勢い良く藤岡の脇腹を突き刺した。
あまりにも予想外の出来事。
理解が追いつかないあたしは、ばたりと音を立てて倒れたパートナーの姿を呆然と眺めるばかり。
「ククク……たっぷりと麻痺毒を注入した。これで相方は動けなくなっちまったなぁ。さぁてどうするよ、一人残されちまったお前さんは」
そういう、事だったのか。
少女の正体は変身の能力を持つ怪人。
あたし達は、嵌められた。
ぶら下がっていた餌に飛びついた結果、まんまと釣り上げられてしまったのだ。
もしかして、不完全な結界を張っていたのも魔法少女を誘い込むための罠?
仮にそうだとしたら、この怪人は並の怪人の何倍も賢い。
いや、それどころか、人間よりも狡猾で。
パートナーは身動きが取れず、あたしは戦闘が得意という訳でもない。
その上、怪人の実力は未知数。
こんな状態で、勝機は皆無。
戦って勝てないのであれば、取るべき行動は一つ。
「……仲間を見捨てて、どこに逃げるつもりなの?」
こちらの思考を読み取ったような発言を耳にした瞬間、心臓がどくんと跳ねる。
即座に振り返ると、小柄な体躯の金髪の少女。
能面のような面をした宇井森燕が、こちらをじっと見ているのに気がつく。
もしかして、こいつ……。
「テメェ……魔法少女協会を裏切って、悪の組織に入りやがったな!」
「うん」
悪びれる事なく、ツバメは返事をする。
何故、裏切ったとは聞かない。
理由なんて、とっくに分かりきっている。
こいつは……カナミを虐めた、あたし達に復讐するため。
そのためだけに、怪人と手を組みやがったのだ。
才能が認められつつあり、周囲から期待されていた自分の立場を捨てて。
「つらっとしてんじゃねぇよ! お前、自分の立場分かってんのか!? こんな事が協会にバレたら、そこら中の魔法少女がテメェを始末しに来るぞ! くだらねぇ理由で反旗を翻したばかりにな!」
「くだらなくないよ。命を捧げて、貴女達みたいな連中を殲滅できるなら、安いくらい」
「……えっ?」
本当に、イカれているとしか言いようがない。
ツバメの目には感情が籠っていなかった。
奴の発言に嘘偽りはないと、確信できるくらいには目が据わっていたのだ。
……故に、怖かった。
こいつは、あたしとは違う。
自由になりたいと思うばかりで、行動に移さない臆病なあたしとは違って。
自分の目的を果たすためならば、迷う事なく行動に移せてしまう。
だからこそ、あたしは……今日この場所で、こいつに殺されてしまうと、理解した。
恐怖のあまり、全身が動かない。
ガクガクと足が震えて上手く動けないので、逃げるなんてもっての外。
ギロチンの刃が落とされるのを待つ死刑囚のように、怯えることしか出来なかった。
「あ、あた、あたしをどうするつもり?」
「利用させてもらう。シオウを殺すために。それじゃ、あとはよろしく。怪人一号さん」
「…………ああ、任せとけ」
民間人の少女の姿をした怪人が、あたしの頭に手を当てて能力を発動する。
その瞬間、脳みそと心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて。
あたしは……奴らの思い通りに動く傀儡になってしまった。
薮をつついて蛇を出す、という言葉がある。
シオウ先輩はともかく、取り巻きのあたし達は、何も考えずに薮をつついてしまった。
その結果、出てくるのが蛇だったら、どれだけ良かったか。
……シオウ先輩は、強い。
こいつらよりも、強いと断言できる。
けれども、きっと、勝てはしないだろう。
何故なら、薮をつついて出てきたのは……目的を果たすためなら、手段を選ばない。
純然たる悪なのだから。
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