第17話
「ここから出せや! 今なら、顔面一発ぶん殴るだけで許したるから!」
「お、落ち着いてください、先輩。そんな事言ったら、絶対に逆効果ですよぉ……」
「…………」
紆余曲折あり、私は今……悪の組織のアジトの牢屋に入れられている。
それも、二人の魔法少女と共に。
ツバメちゃん達にまんまとしてやられた彼女らは、きゃんきゃんと吠え続ける。
正直、物思いに耽りたい気分なので、ちょっと静かにしてほしいが、口には出さない。
……結局のところ、ツバメちゃんは悪の組織の一員になっていた。
その原因には心当たりがある。
間違いなく、パートナーだった一浦カナミの再起不能が、大きく影響しているだろう。
噂によると、彼女は自殺しかけたらしい。
何故、自らの手で死ぬことを選んだのか。
明確な理由は分からないが、心当たりならばある。
カナミちゃんは、人間と怪人のハーフというだけで、一部の魔法少女に虐められたり、民間人に心ない言葉を言われる事があった。
それらによって精神的に限界が訪れた、と考えれば辻褄は合う。
要するに、彼女もまたクソみたいな社会の犠牲者の一人だったかもしれないのだ。
もしかしたら、ツバメちゃんは……そんな世界に絶望して、悪の道を進むことを決めたのかもしれない。
「ククク……元気そうでなによりだなァ」
なんて事を考えていると、浅黒い肌と筋肉質の肉体を有する男が部屋に入ってくる。
こちらを嘲笑うようにニヤニヤ笑う彼は、悪の組織の怪人に違いない。
一体、何の用があるのだろうか。
そもそも、どんな目的があって、私たちを捕獲したのだろうか……?
「俺は前置きが嫌いでな。単刀直入に言わせてもらおう。貴様らも悪に染まらないか?」
疑問は、即座に解消する。
ツバメちゃんを仲間に引き入れたように。
私達も、悪の組織の一員にしようとしているのだ。
「寝ぼけた事抜かすな! ウチらを誰だと思っとんねん!」
「そ、そうですよ。私達は魔法少女。怪人に手を貸すわけないじゃないですか……」
真っ先に拒否反応を示したのは、二人の魔法少女。
どちらも人一倍正義感が強いのか、提案を飲む選択肢すらなさそうだった。
双方共に鋭い目つきで怪人を睨みつけ、反骨精神を丸出しにしている。
手足が拘束されている上に、魔封じの結界が張られているにも関わらず、闘志を燃やしているのだ。
皮肉でもなんでもなく、凄いと思う。
ツバメちゃんが虐殺をした時。
憧れを抱きながらも怯えてばかりいた私には、決して出来ない事だから。
「本当にいいのか? 仲間にならなければ、俺は魔法少女としての力を奪う。これからは、普通の民間人として生きてくことになるんだぜェ?」
「だからって、従うわけないやろ。あんまり、ウチらを甘く見るなや……!」
「そ、そうです。私達は悪になんか、屈したりはしません……!」
怪人の脅し文句も、既に覚悟を決めている二人には全くもって意味を成さない。
なんというか、正義を重んじる魔法少女の鑑過ぎるな、この子達は。
色々と下衆な真似をしている奴らに、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
「取りつく島もない……か。そういう事なら、仕方ない。大事な話の邪魔をされちゃあ困るから、しばらく黙っていてもらおうか」
「……? …………!」
「ククク……魔法が使えない魔法少女は無力だなァ。ちょっと能力を使うだけであっさりと無力化出来ちまう」
怪人がパチンと指を鳴らすと、二人の魔法少女が押し黙る。
いや、奴の能力によって、口封じされているのだろう。
しきりに口をパクパクさせてはいるものの、一向に声が聞こえてこない。
「それでお前はどうすんだ? 悪に堕ちるのか、堕ちねェのか。二つに一つだ。これからの人生に関わる大事な選択だから、じっくり悩んで決めろよォ」
怪人の口調はチンピラみたいだけれど、随分と親切であった。
待ってくれるというのならば、お言葉に甘えて思考に耽るとしよう。
魔法少女の力を失ったらどうなるか。
間違いなく、碌な事にならない。
ヒステリーババアこと母親はブチギレて、否応なしに私を殺そうとするだろう。
それに、ただでさえ不安定な世の中で、社会経験がなく、さして賢くない私が、まともな仕事に就けるとは思えない。
最悪の場合、体を売る事になるのかも。
……それだけは、嫌だ。
次に、悪の組織の一員になったらどうなるか。
これもまた、碌な事にならない。
警察や魔法少女からは追われる身となり、大手を振って街を歩けなくなる。
それに、犯罪を犯すのも忌避感があるし、その過程で民間人を傷つけたら、罪悪感で眠れなくなるだろう。
最悪の場合、精神を病んでしまうかも。
それも、嫌だな。
……体を売るよりはマシだけれど。
こうやって考えると、どっちも無理。
本当に、無理、だけれど。
脳裏には、オークション会場で虐殺の限りを尽くすツバメちゃんの姿が。
何者にも縛られず、己の欲求に従って、暴れ散らかす悪人の姿が浮かぶ。
私はあの時、彼女が羨ましいと思った。
きっと、それは……誰よりも、自分に素直に生きているように見えたから。
環境や親に縛られて、歩むべき道を流されるままに決めてきた私と真逆だったから。
故に、羨望したのだろう。
私も、自由の身になりたいと思ったから。
その事を踏まえて、考えてみると。
すぐに、答えは出た。
私は、強くなりたい。
不条理に振り回され、強者を前にして怯える自分とは訣別したい。
今まで積み重ねてきた全てを捨ててでも、生まれ変わりたい。
それこそ、悪に染まってでも。
……ツバメちゃんのような強さが欲しい。
「私は、悪の組織の一員になりたいです」
「!?!?!? ………!!!!」
「………? ………????」
「キミの決意に敬意を表する。歓迎するぜ」
何か言いたげに暴れ回るオレンジ色の髪の魔法少女と、紫色の髪の魔法少女を無視して、怪人の元へ歩みを進める。
すると、カチャリと音を立てて手足の拘束が外れるのと同時に、牢屋の扉も開かれた。
これからの人生。
波乱万丈という言葉では済まないくらいに大変かもしれないが。
「他のメンバーとの顔合わせは、もうちょっとだけ待ってくれ。どうせなら、サプライズ的な演出をした方が盛り上がるに違いねぇ」
ツバメちゃんも配下の怪人も。
今までに会った悪人と比べると、そう悪い人には見えない。
母親のように、ヒステリーじゃないし。
わざわざ母親の前で勧誘したクソマスコットみたいに、打算的じゃないし。
割と数が多い性悪魔法少女達のように、ネチネチとしてないし。
元パートナーのように、土壇場で見捨てたりしなさそうだし。
一般的な悪の組織のように、人身売買なんてしなさそうだ。
……だから、きっと何とかなる。
自分でも楽観的だと感じるが、不思議とそう思えてならなかった。
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