帰りダンジョンよってく?

第1話:JKは今日もゴブリンを殴る

「うっわ、今日のゴブリン、ちょっと臭くない?」


「それ、きのうのスライムに顔突っ込んだからだよ。なんかヌルヌルしてたもん。」


「スライムって顔に突っ込むもんだったの?」


放課後の高校。


チャイムが鳴り終わる前に、うちのクラスはすでに『帰宅部』と『寄り道組』に分かれて戦線布陣を敷いていた。


わたし、朝比奈ミユ、高校2年生、帰宅部。


だけど今は――寄り道組に混ざってる。


なぜなら、目の前にあるのは駅じゃなくて、ダンジョンの入り口だから。


いや、そう、ダンジョン。


いわゆるRPGに出てくる、モンスターがいてトラップがあって、でもなんか妙に整備されてる、アレ。


「ミユ、もうちょい前詰めて~。後ろの男子が『この角度、太もも』とか言っててキモい。」


「うるさいなレナ、じゃあ自分で盾やってよ……あ、ゴブリン来た。ちょ、はやいはやい!」


「はい、バフ入りまーす!今日も元気にフルバフ!」


そう叫んで背後から魔法陣をぶち込んできたのは、我らが魔法担当、佐倉ユイ。


つまり、こういうことだ。


現代に突如として現れた『帰り道ダンジョン』は、今や通学路の一部と化している。


最初はニュースで騒がれたけど、「あれ?倒せば問題ないんじゃね?」という発見により、平和な日常と共存を果たした。


ついでに言うと、ここでモンスター倒すと、経験値とアイテムが手に入る。


「よーし、ゴブリン片付けたし、今日の晩ごはんはアレにしよ。魔石交換でローソンのチキン買えるよね。」


「ダメ。レベル足りてないから、今月のアイテム課金ポイント上限きてるよ。」


「なんでそんなに詳しいのユイ、あんた今月いくら使ったの?」


「……しょ、消費は正義!」




「ちょっと待って、ミユのスカート破けてない?」


「え?うそ、やば、どこどこ……って、うわマジだ……!ゴブリンめ、布切れにも容赦ねぇ!」


「まぁ、今日のドロップに“ミユの羞恥”ってアイテムが追加されたと思えばいいよ。」


「それは売るなよ!? 絶対売るなよ!? 絶対だぞ!?」


ゴブリンを蹴散らしながら、わたしたちは高校裏のダンジョン第2層――通称『旧理科室ゾーン』に足を踏み入れる。


言っとくけど、ここ元々校舎の一部だったからね?


なんか一部がダンジョンに飲まれて以来、やたら床が苔むしてたり、鉄骨が“トラップ扱い”になってたりする。


「今日、先生に『放課後どこ行ってるの?』って聞かれたけど、“帰りにダンジョン寄ってます”って言えなくて困った。」


「わかる。でも体育の相川先生、レベル42の『暗黒騎士』だから案外察してるよ。」


「マジかあの人、いつも死んだ目してるのに……。」


「たぶん“カオスソード二刀流”とかのビルドだよ。リアルでも怖いし。」


そんな雑談をしながらも、手は止めない。


ユイが後方支援しつつ、レナが前衛のタンク、わたしが中衛アタッカー。


いわゆる「ちょっとレベル高いけど何とかなっちゃう」バランス型チームである。


というか、なんでうちらJKがモンスターと本気で殴り合ってるんだろう……。


「レナ、そっち!右にスライム!」


「了解~、……って、また液体飛んできた!うわ、今度はソーダ味!?」


「それレアスライムだよ!捕獲して“異能喫茶”に売れるかも!」


「あーでも溶けた~!スカートに穴が~!また買い替えか~!」




ダンジョンの奥、第2層の“旧理科室ゾーン”もそろそろ制圧完了ってところで――それは突然、響いた。


『ピンポンパンポ~ン♪ 放送部よりお知らせします。本日、生徒会室前にて焼きそばパンのタイムセールを実施中!在庫限りの大特価!急げ、急げ、炭水化物が青春を救う!』


「――っっ!? 焼きそばパンだと……!!?」


「やばい!それ今日限定のやつだよ!“もっちりソース二重仕込み”のやつ!!」


「ちょっと待って、それ昨日の生徒会の決議で“幻の焼きそばパン”って命名されてたやつじゃん!?」


一瞬で目の色が変わる、わたしたち三人。


ダンジョンよりパンが大事な日もある。


いや、むしろ日常の全てが焼きそばパンに集約されていると言っても過言ではない。


問題はただひとつ――


「……あれ?誰か、帰還石持ってる?」


「ない!!」


「わたしもない!!」


「え、ちょ、ユイ!?あるよね!?」


「……わ、私、今日、ラッキーアイテムが『ツチノコの歯』って出てて……そっち優先しちゃった……。」


「ラッキーアイテム要らんわ!!」


校内放送の「急げ急げ」の声が、今にもBGMのように鳴り響く。


わたしたちは顔を見合わせ――叫んだ。


「ダッシュだあああぁぁぁ!!」


リュックを背負い直し、杖を振り上げ、スカートを押さえながら、出口に向かって全力疾走。


途中、ゴブリンたちが「え、今スルー?」みたいな顔で見送ってくるけどそんなのどうでもいい!


「ユイ!魔法で風起こして!タイツが空気抵抗してる!!」


「了解!《疾風加速ブースト》――!」


「レナ、盾いらない!捨てて!軽量化!」


「くっ、相棒との別れがこんなにも……おお、軽い!はやっ!」


旧理科室ゾーン→空き教室ゾーン→購買前ホールへと、ダンジョン出口から現実世界へ――


三人のJKが、青春の焼きそばパンを求めて走り抜けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る