第14話バカンス?いえ、事件です
「がははは!バカンスだ!連休を3日も取ってしまったぜ!」
「まあ俺は、仕事が無かったら毎日が連休みたいなもんだからね」
「それだと身体がなまるぞ。そらあそこの木まで競争だ!」
先に馬にムチを振るうバルク。
「馬なら負けないぞ!」
遅れて俺も足で馬の腹を蹴り、手綱を叩いた!
怒涛のように走り出す双方の馬。
後から加速した俺がグイグイ追い込む。
残り1/3でバルクを逆転!そのまま俺が逃げ切った!
「くそう!」
「あははは、体重の差だよ。今のバルクじゃぁ重りなんだよね。この辺で一度休憩にしようよ」
久しぶりの旅行を兼ねた仕事。
騎士団より宿泊費と飯代は出るとあって気分はウッキウキだった。
この前グレイスからは、打ち上げでコチョコチョから突然、抱き着かれたけど、アレは事故だ。もらい事故。しかもラッキーな貰い事故だった。柔らかい身体と凄く良い香りに包まれて……思わずギュッとしちゃった。
バルクもニースも見ていなかったので、心の中に最高の思い出として仕舞った。
そしてこの旅行だ。
少しは自然に距離を縮めたいけど、グレイスはいつも護衛を付けているお金持ちの子…………だと思う。
もしかしたら公爵や伯爵の子供かもしれない。貴族マニアでもない俺には顔を見たとか、この名前はどこどこの貴族だとかは分からない。
ただ、貴族の可能性が高いグレイスと付き合うのも簡単ではないと言う事ぐらいは分かる。
グレイスも、俺の事を可愛い子分だと思っている可能性もあるし……
最近ではこの王都でも25歳の晩婚が流行ってきているし、グレイスには行き遅れてくれないかなぁ。
そうしたら俺にもチャンスが巡てくるかもしれないのに。
何て、バカだなぁと思いながら水袋から水を飲み、馬にも水を飲ませた。
ふと、グレイスを見ると目が合ってしまった。
そしてニースとごにょごにょと内緒話を始める。
キャッキャッ あははあはは ちがうってー そうじゃん! キャッキャッ
俺の噂を話してるな。何を言っているんだろうか……
すると隣の黒武者姿のバルクが寄って来た。
「アレは俺の話をしているに違いない。多分こうだ、『キャーカッコイイ武者姿、私も同じ鉄兜をかぶりたいわー』ってね」
「そうか?」
「ああ、そうだ」
いや、絶対にない。
これだけの物を説明書も無く作らせたのは見事だが、完全に浮いてるじゃん。
しかも西洋甲冑は暑いと言いながら
ある意味自己満足、これは趣味の世界だね。
だが、バルクを見るとその面頬から見える眼には喜びが浮き出ていた。これから人の多いバザールへと行くので、この鎧兜を見せつけるので嬉しいんだろう。
グレイスとニースを見ると、相変わらずキャッキャッ、うふふ、うふふと楽しそうだ。
いつも張り付いているノアさんと言う護衛がいないが、どこに行ってるんだろう?
この前の事件のモヤモヤが残り、バザールに行って何か手掛かりがないかという事でこの旅になったはずだが、完全にみんなはバカンス気分だった。
でも、俺のスローライフにはこれも必要かと、今回は7:3で楽しもうと思っていた。
休憩が終わりバザールへ向けて出発する。たかだか、速足の馬で1時間程度の距離。あっという間にたどり着くと馬を騎士団詰所へと預け、誰も相談しないまま足は海へと進んで行く。
徐々に早歩きとなり、俺らは港を外れ、松林を抜けて出ると白い砂浜に出た。
熱さ対策のグレーのローブを脱ぎ捨てる!
「あ、コラっ、ちょっと待てって……!」
バルクの言う言葉を無視し、青い海へと走ってゆく。
だらしない一人暮らしの時のように、走りながら麻で出来た涼しい貫頭衣を脱ぎ、長ズボンの腰紐を解き転がるように脱ぎ捨てた!
そこからダッシュッ!
膝に当たる小波の圧と冷たい海水を感じると、そのまま頭から突っ込んだ!!
ザッパーン!
「ぷはっ!きもちいい――――!」
砂浜を見ると、今だに黒い重くて暑そうな鎧兜を外しているバルクがいた。
そして俺の脱ぎ散らした服などを笑顔で集めているグレイスと、どこで売っていたのか何かの革を白と桃色に着色したビキニの水着を服の中に着込んでいたニースは、俺よりも早いダッシュで怒涛のように走り、俺を飛び越え「キャー」っと言いながら着水した。
グレイスは、俺のやニースの服を纏めると、トロピカルな生地を結び、首から下げるとパレオのような布を身体に巻き、パレオで見えないようにしながら服を脱ぎ、身体の横で布生地を結びながら暴れるお胸を押さえながら「キャー」っと言いながら腰まで海水に浸かり、俺に向ってパシャパシャと海水を掛けて来る。
三人で水の掛け合いをしていると、漸く鎧を脱ぎ終えたバルクが機関車のように走って来た!
「俺も混ぜろおおおおおおおお!」
「キャー!」
「イヤー!」
「うわぁぁ!」
一斉に避けると、バルクは一人大波の中へと突っ込んでいった!
ああ……楽しい。
この何も考えない無意味な時間が楽しい。
いつまでもこの時間が続けばいいのに…………
軽い疲れと、身体が冷えて来たので、みんな揃って砂浜へと戻る。
グレイスは、鉄の棒に細い骨組み、そしてリング等を組み合わせ、そこにリザードの革を張った傘……これはビーチパラソルとでも言うのか、グレイスとニースが持ってきていたマジックバックと言う空間系の魔法が込められたポーチから出す。
それを力自慢のバルクが砂浜に刺すと、大きな日陰が出来た。
更に、どこかで作ってもらった折り畳み型の木製ビーチチェアーをテッテレーと出すので、俺が広げて設置する。自分のともう一つ同じパラソルの下に置くと、バスタオルを敷いてその上に座った。
「日焼けしちゃう」
何処かの女子と変わらない発言に、ここは日本かと回りを見てしまった。
だーれもいない海岸。
基本的に毎日を生きる糧を持たない人が多く、俺たちみたいに海で遊ぶ人など殆ど居ない。
人口も少なけりゃ、排泄やゴミ等はスライムに消化させると言う裏技がある為か、海はきれいだ大きいな。
たまに海獣が出るけどこんな浅瀬には殆ど出ない。
正に貸し切り状態!
「ねえ、リクくん。背中にスライムゼリー塗って」
「え?」
そう言うと、グレイスは結んでいたパレオを解き、腰から上をおっぴろげて、ビーチチェアーモドキにうつ伏せになる。
華奢な背中と細い腰、そしてなだらかに盛り上がるお尻は……見えなかった。
「うし!俺が全身隈なく塗ってあげよう! うげっ!」
「後ろだよ!背中!お前は何処に目を付けてんだよ!」
声にビックリして隣を見てみると、バルクが蹴り飛ばされ、ゴキブリのように這い上がっていた。
鼻血を出しながら俺にグッ!っとサムズアップするバルク。
いつの間にニースとそんな仲になったんだ?
いや……アレはバルクのごり押しか?
「ねえ、リクくん……」
少し恥ずかしそうなグレイスがこっちを…………
ようし!いっちょやったるか!
バカンス効果ってあるんだと実感した瞬間だった……
余りにもバルクが念入りにニースに塗りまくり、時間を沢山取った為に、俺がニースに変わってバルクの背中にゼリーを塗ってあげた。
その隙に女子の二人はこっそりと海へと逃げる。
結構直ぐにバレたので、俺も逃げる。
ああ、バカみたいだなぁと思いながら、みんなの笑顔は尽きる事がなかった。
直ぐにお昼近くになるので、お昼は焼きそばが良かったのだが、麺がどうしてもなく、代わりにタコ焼きをしようと、思い切って鍛冶屋に作らせていた秘蔵の鉄板をマジックバックから出した。
後はタコを釣るだけだと、同じく鍛冶屋に作らせた針をお手製の疑似餌に装着した物を釣竿モドキに付けて岩場へと向けてキャスト!
麻糸で丸見えだが、エビに似せて作った疑似餌に一瞬でヒットした!
「俺に任せろ!」 ジャッパーン!
いきなりバルクが横から飛び込んだ!
違う!これは釣りなんだ!
だが、ナイフ片手に飛び込んだバルクはそんなことも分からずに何かと格闘しだした。
糸もプツンッと切れ、背後ではバインバインと何かを揺らしながらニースが応援している。
グイッっと反対方向を向けられると、そこにはグレイスが!
「ほら!タコパの為に応援しなきゃ!頑張って獲って!」
やはり綺麗どころの女子とは言え、タコパには負けるらしい。何かの為にと持ってきていたロープを投げると、形勢は一気にバルクへ。身体にくっついたまま、もう片手でロープを握り、俺たち三人でバルクとタコを引き上げる。
その内逃げそうになるタコの足をグニグニと切り裂き、足一本を身体に巻き付かせて引き上げられた。
「タコだ」
「鑑定するね」
【鑑定対象:マンマタコ】
詳細:足が8本ある食用のタコ。最大5mまでなる。
備考:毒無し、タウリン配合(疲労回復)、モンモン配合(精力増強)
「うん…………タコだ、毒は無いね」
何かを悟ったのか、三人がジト目で見ていた。
何も無いんだって、みんな一人もんなんだからさ。余り食べ過ぎないようにね…………
バルクの持ってきていたまな板で、ビッタンビッタン叩き、皮を剥いて包丁でぶつ切りにしていく。
ニースが集めて来た流木を削り、石で竈を作った俺らは小麦粉と水を1:3の割合で混ぜてタコパを始める。
まあ、四人も居れば何とかなるもんだ。
鉄板の穴が少しデカかったが、何とかタコ焼きを作れた。だが、ソースがダメだ。醤油味で鰹節で誤魔化している気がする。ここはやはりソース味を開発しなければ……
だが、昼間のタコパは大成功と言っても良いだろう。
タコ、チーズ、ウインナー、エビ、カニをグレイスがマジックバックに入れていたので、種類が増えて美味しかった。
「私っていいお嫁さんになるかなぁ?」
「うん、成れると思うよ。気遣いも出来るし、料理も上手だし……」
「返事はそれだけかい!」
何故かニースがうがあ!と言いながら俺の頭を揺さぶりだした。
何?何!グレイスを褒めたらダメな訳?!
ちょっと意味が分からないっす。
暑さも中々なので、それぞれが持っていたマジックバックの中に入れている水の袋を頭からかぶって塩っけを流し、港町を散策しながら今日泊まる予定の騎士団御用達の高級宿に早々とチェックインに来た。
「白亜のホテルみたいだ…………って言うかココにいた訳ね」
高級は、真っ白な豪華ホテルのようだった。
そしてその前に護衛をいつもしているノアさんが待っていた。
「お待ち致しておりました。お嬢様は3階の一番奥でございます。オーシャンビューのスウィートでございます。
隣は……ニーナ様、バルク様、そして階段を登って直ぐがリクだ」
「俺だけ呼び捨て……まあ良いけどね」
グレイスは多分どこかの貴族様。そしてバルクは公爵家、ニーナもあの大金を使う姿を見たらどこかの貴族に違いない。俺だけ気軽な平民だもの。しょうがないさ。
少し疲れたので、しばらく休憩にして、夕方から外へ出ようと言う事になった。
階段を登り、三階へと着くと直ぐに俺の部屋。結構長い廊下の先にはグレイスの部屋。
ああ、廊下が長いという事は、それだけ部屋が広いという事だ。
大丈夫、俺は狭い部屋に慣れているから。寝られれば問題ないよ。
ガチャ おい、グレイス鍵が掛かってたか?
「キャー!誰か倒れてるー!リクくん来てぇ!」
グレイス。なんで俺よりも先に入っていったのよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます