第2話転生者の苦悩

 俺が連れていかれたのは王都の中でも貧民街だと言われる第七地区の路地裏。そこで雑貨屋を営むエルモと言う男が自分の店の前で死んでいたと言うものだった。


 現場に行くまでにバルクを迎えに来た近衛兵が説明してくれた。



「近衛兵も大変だな」


 いつもの砕けた感じではなく、真面目で凛々しい顔に変わっているバルクへと言った。


「この王都を守れる栄誉の為だ。大変とは近衛として名誉な事である。大勢の民がいる中、何も無い方がおかしいのだ、我に続け―!」



 急に変な言葉使いになるのはバルクの昔からのクセだ。

いったいどこの方言かと思うが、こいつは貴族の方でも上に当たる王都内にあるアイゼンシュタイン公爵家の五男に当たる貴族様だ。


バルクの腰には非番だと言うのにガチャガチャと帯剣してある剣が音を鳴らしていた。


だが、その190cmの大柄で、『筋肉剣士』『公爵家の脳筋砲台』と言われる二つ名を持っているが、意外にも剣の音しか鳴らさないような身体能力を持っている。

俺なんかぜえぜえ言いながらついて行くだけでもやっとの状態だった。



 現場の路地裏にある雑貨屋は近衛騎士が数人集まっており、私服のバルクが到着すると一言「へへへ、鑑定士を連れてきやしたぜ」と、再び変な言葉で麻縄で通行止めになっている現場に入っていく。



「アイゼンシュタイン殿、非番の所申し訳ない。少し人出が足りなくて……」


「ああ構わないさ。コレが近衛の仕事だからな!」



 上司と言っていたはずだが、公爵家の息子だからか、口調が部下に対する言葉では無かった。そしてバルクも上司に対する言葉では無かった。


「バルク。仮にも上官だろっ。言葉使いが変だぞ」


「お?ああ、近衛の任務でありますから、問題ないです!」



ふむ……まあ、及第点って所か。


俺はオーダーで作ってもらったワイシャツの首を絞めていたネクタイを緩め、ボタンを開けて空気を胸元へと取り込んだ。



「おい、あの鑑定士、何で自分の首を紐で絞めてんだ?」


「俺に分かる訳ねえだろ?鑑定士様の趣味じゃねえか?」



 近衛兵が俺のネクタイにワイシャツ姿が変だと内緒話を始めた。


 まあいい。俺だって多分こんな感じの服を着ていたはずだとニホンと言う国で働いていたと言うぼんやりとした記憶しかないのだ。



 そう、俺はこのグランヴェル王国に広がる王都セレスティナで生まれたチキュウからの転生者だ。

 所々と言うか、ぼんやりとしか覚えてないが、サラリーマンと言う仕事をしていた気がする為、仕事をこの王都でするにはやはりスーツ姿が戦闘服になると思い、お金に余裕ができ始めた所で思い切って服屋にオーダーして作らせた物だった。



 しっくりするような来ないような。

だが、このスーツのおかげで鑑定工房リクの名前が売れた事は確かだった。


変な服を着ているが、腕は確かな鑑定士がいる、と。


今は少し暑いから上着は着ていないけどね。



 別に神様に会った記憶も無いし、特別なスキルを貰っている訳でもない。


ニホンの活動映像とか言う物では俺は『間違って転生した巻き込まれ』だと言う者のはずだ。


 したがって俺は魔王討伐や悪魔退治などと言う危険極まりない仕事をしなくても良いと言う事で認識をした。

当然、転生組という事など、他の誰にも言うつもりはない。

俺のモットーは『細く長く、旨いものはたらふく』だ。


危ない橋は渡らないのさ。




「では現場で聞き込みをした話を伝えます」


簡易甲冑を着た近衛が説明を始めた。


「遺体は雑貨屋を営むエルモと言う人物。この死んだ場所の店主でした。

雑貨屋に来た客がドアが閉まっている事で、開店している時間なのにと怪しんだ客が、窓から中を覗いてみた所、店内で血を流して倒れている店主を発見。巡回中の近衛騎士に報告したと言う経過です」


「詳細は?」


バルクが追加の情報を求めた。


「はい、報告があってから現在まで30分経過してます。部屋の中は全て鍵が掛かっており、自殺の可能性もあったのですが、首に刺さっていたナイフの角度、出血していた血の量が少ない事もあって捜索人員の増加と鑑定士の派遣を決定したと言う流れです」



 成る程、密室殺人事件と言う事だな。

遺体は仰向けで、右側の首にナイフが刺さっていた。

そして良く分からんが、出血量も少ないらしい。


これの何処どこを鑑定しろと?


全て現場状況と聞き込み、後は推理をしてから御白州の上でお代官様に…………アレ?変な記憶が…………



「リク、鑑定してみろよ」


「どこをだよ。ナイフか?身体か?それとも血か?」


「色々だよ、色々。何かおかしな所があるかもしれねえだろ?」


全く…………人使いが荒いんだから。




「さて、この事件の『真実』とやらを、鑑定させてもらおうか」


半ばヤケクソ。少しいい加減。

こんな普通の鑑定士である俺を連れてきて一体どうするんだよと言う感じだった。



そして俺はどうにでもなれと言う気持ちで、静かに手を遺体の上にかざした。

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