第32話「共鳴支援室、新章突入──Null-Classの灯火」
──その日、“共鳴支援室”にひとつの変化が訪れた。
新たな仲間、《一ノ瀬遥(いちのせ はるか)》の加入である。
かつて“定義ジャック”として他人の存在を奪っていた少年は、レンたちの手によって“仮名”を与えられ、共鳴を知った。
何者にもなれなかった彼は、ようやく「なにか」に向かい始めていた。
◇
「ここが……俺の、場所?」
「うん。Null-Classっていうのは、“世界に定義されなかった人たち”のためのクラス。つまり、君のことだよ」
つばきが笑う。
遥は戸惑いながらも、支援室の片隅に腰を下ろした。
「やれること、あるかな……俺、まだ“誰か”じゃないから」
「……なら、これからだよ。“誰か”になる旅は、きっとここから始まる」
ミオが優しく言った。
支援室には、かつてない“家族”のような空気が流れていた。
◇
その日の夕方。
レンのステータス端末に、新たな警告アラートが届く。
【警告:ARシステム内で“定義喪失者”が急増しています】
【件数:24時間以内に129人】
【位置:関東圏北部、未認証区域より発信】
「……これは」
“定義ジャック”の能力は遥にしか使えないはずだ。
だとすれば──
「“同じ能力”が、他にも?」
◇
支援室に戻ったレンは、すぐに分析モードに切り替えた。
ステータスデータのログを解析し、位置情報を割り出す。
浮かび上がったのは、“関東圏北部の地下迷路都市”──《クローゼット・タウン》。
「地下にある未登録都市。昔、デジタルホームレスや職業拒否者が集まって住んでた場所だよ」
遥が呟く。
つばきが小さく震える。
「定義から逃げた人たちの街……」
「いや、“定義を持たない者が集められた”可能性もある」
レンが画面を指差す。
【未認可ステータス波形:無限再定義ループ/存在ID破損状態】
【共鳴不能】
そこには、“定義不能”という新たな問題が潜んでいた。
◇
「……行こう。そこに何があるのか、見に行こう」
レンの言葉に、全員が頷いた。
つばきは、モーニングスターのチェーンを巻き直す。
「もしそこに、“まだ名づけられていない人たち”がいるなら──私たちの出番だよね」
ミオが端末にプログラムを走らせる。
「新しいNull-Classの応答準備完了。いつでもアクセス可能です」
「遥、君も来るか?」
一瞬迷って、遥は小さく頷いた。
「……俺、もう一度、自分で“名前”を名乗ってみたいから」
◇
そこにあったのは、定義を失ったまま立ち尽くす“喪失者”たちだった。
彼らはステータス画面を持たず、ただ“自分が誰だったか”を忘れていた。
その中心に──一人の少女がいた。
白髪、無表情。何も発さず、ただ見つめてくる。
「……きみは?」
レンが声をかけると、少女は小さく口を開いた。
「わたしは、“定義の始祖”。……この世界の、設定ミス」
──次章予告:《定義の外側へ》始動。
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