第2話 入学式で生き残るには
入学式が始まる2週間はひたすら筋肉をつけた。生命の加護のおかげなのか、通常より筋肉の発達が速いと感じた。そして今日は入学式の日、一応腰には杖をさしているがその横には3日前に買った銀の短剣も装備している。銀出てきている為値は張ったが、生き残る為には殆どの全財産を犠牲にしても買う価値はある。
銀は魔力を反発させる性質を持っている。魔力が纏ってなくとも魔力に対抗できるのだ。まぁ、銀より魔力を反発させる鉱石は存在するが、今の手持ちじゃ買える値段ではない。
「おお桜か、確かオープニングにも映ってたよな」
そよ風でヒラヒラと靡くローブ、ワイシャツ、赤のネクタイ、そして黒のジャケットに黒いズボン。その上にはローブを羽織っている。それがこの魔法学園都市グリモワールの制服。
魔術師の宝庫と呼ばれているグリモワールは卒業をすれば将来を約束された学園。魔法を研究する者、魔術師として強くなりたい者が通う場所。
アリスは入学式会場に向かう途中、桜の様な木がずらりと並んでいる。桜吹雪が舞う様子を見て日本が少し恋しいと感じてしまった。
「やべぇな」
改めてこの目で見ると、その迫力に唖然とする。これこそがファンタジーの世界と言わんばかりの煌びやかな装飾が施された建物、まるでミラノ大聖堂を豪華にした感じだ。確かここは体育館みたいな施設だった様な。
ここの教員らしき人物達によって新入生達は案内をされ、自分の席に着席をする。新入生の数はおおよそ250ちょいは居るだろう。ゲームでは正確の数字を言っていたがそこまでは覚えていない。
新入生達はAクラスからFクラスまでと分かれている。ここグリモワールアカデミーは実力主義な学園。Aクラスは、入学試験で高得点を取った生徒が集められている。そしてFクラスは最低点を取った生徒達が集められている。せめて入学試験の時に転生したかった。それならDとは言わずともせめてEクラスには配属したかった。
「はじめまして」
原因は隣に座っている男だ。
「僕はレンヤだ」
「ああ、俺はアリス=ウィンチェスター。3年間よろしくな」
まさかすぐに主人公に会うとは思わないだろう。黒目黒髪、まさに日本人顔のようなイケメン。キラキラと輝くモノが見えるほど彼の笑顔は明るい。
「すまない、貴族のお方でしたか」
「敬語は良い。どうせ同い年だし、それにこの学園では身分なんて意味ない」
家名がない者は平民となる。
ここ名門グリモワールアカデミーでは、平民も入学が出来るが、殆どは貴族や王族。平民差別みたいな展開の話はあるが、ここはグリモワールアカデミーだ。実力が全て、身分なんて意味のない肩書きだ。まぁ、貴族達は子供の時から英才教育をされているから今の時点では平民組は勝てないだろう。
「魔法とは自由への象徴!我が道を照らし、突き進む
紫色のローポニのメガネの教員がアツアツなスピーチを語っていた。確かアイツはウィルってキャラだったよな?毒魔法に関する教員。あんな気弱そうで無害そう奴がえげつない魔法を使うとは思わないだろう。本来なら学園長が出る幕だが、この時はなんかの任務で学園にいなかったんだっけ。もしいたら、第1章のボスを簡単に解決してしまうからな。
はぁ、なんでスキップ機能ないんだろ...退屈だ。
アリスは肘杖をつきながら眠そうな表情をしていた。隣に座るレンヤに視線を移すと、キラキラと目を輝かせながらウィルのスピーチを聞いている。
「...」
おっ?あの子は確か...
教壇の前に現れる金髪ロングの少女。彼女の美貌に男達はもちろん女性までも釘付け状態になる。彼女は新入生代表、つまり入学試験で一番の成績を取った、どっかの国の第二王女のビビアン=ローゼン。このゲームのメインヒロインの1人。
それから彼女の誓いの言葉とやらを宣言し、各配属されたクラスに向かった。最弱クラスの【1-F】と書かれているプレートが吊るされている部屋に入る。ここまで向かうまでAクラスの部屋をチラリと覗いたが、それと比べる貧相な部屋なモノだ。
Aクラスの椅子はフワフワな王様が座りそうな椅子に対して、Fクラスの椅子は木材で作られた普通の椅子。
何より気になるのは入学当日にも関わらず、部屋の空気がものすごく重たい。まぁ、最弱クラスと言われてるFクラスになったんだからこれからの青春を謳歌できる保証はないからな、思うところは沢山あるのだろう。
こんな一流の魔法使いが集まる名門学園に入学できた事だけで栄光なのにな...もう諦めてる奴までいるのか
「ワタシはこのクラスを担当となるナクマティ。一応錬金術を担当している者だ...錬金に興味あるの者はワタシの所に来たまえ...」
今でも死にそうな老人は、震えた声で自己紹介をする。こんな老人は見た事ない、自己紹介イベントはあったが、その時の教師の顔は映されていなかった。俺と同じ脇役キャラだ...
それからゲームで省かれていた、脇役の自己紹介を挟みながらメインキャラの出番に回る。
「おっす!俺はカイザー!選択科目は魔法剣士だ、よろしく!」
筋肉ムキムキの腕を見せびらかしながら自己紹介をする金髪の大男はカイザー。今後主人公レンヤと肩を並べて学園の危機を共に乗り越える戦友となる。
選択科目とは、魔法剣士、魔術師、召喚士、錬金術師や色々とあるが、主に杖などを持って魔法専門で戦う魔術師と剣と魔法を両方を駆使する魔法剣士がメインとなる。魔法剣士だからって決して剣だけではない、槍や斧を使う者も魔法剣士として括られてしまう。魔法使いの中にも色々な種類が存在するのだ。
「わ、私はエミリー。選択科目は魔術師...です」
緊張した様子を見せる、茶髪セミロングの少女。彼女の可愛いさからクラスの男達から注目されている。彼女はエミリー、主人公レンヤの幼馴染でメインヒロインの1人。このゲームは5人パーティで構成されていて、ストーリー上の公式パーティはグレイ、カイザー、エミリー、そして後に登場する2人となっている。
まぁ、公式パーティは相性が良いがゲームを進めるとなると、色々な場面で積む事になるがな...
「...」
次の順番になったが、未だに起きないお隣の少女。この教室に来てからずっと寝ている。本来なら先生とかが起こすべきだが、ナカマティは困った様子を見せながら頬をかいていた。
「...彼女は魔術師のクロエ、次の者」
何故かナクマティが代わりに自己紹介を始めた。その後ろの男子生徒は少し戸惑っていたが、何事もなかった様に自己紹介イベントを進めるのであった。
...ん?クロエ?
その名前には聞き覚えがあった。
そうか、こいつがクロエ=マーリンか...
「?!」
「...?」
ジッと見つめていた事に視線に気付いたのか、クロエは目を開けて視線だけコチラを見た。俺はすぐに視線を逸らして、誤魔化す様に時計の方をジッと見つめるのだった。
前髪の青メッシュ、そして青色のインナーカラーの黒目の黒髪ボブ。高校生ってより中学生の様な小柄な少女だが、見た目に反して魔術師としてめちゃくちゃ強い設定だ。
多分1年生...いや、この学園の生徒の中なら1番強いだろう。学園長を除いた教員を含めても彼女には勝てないかもしれない。何故そんな化け物がこのクラスに居るのかというと、この学園は実力主義で実力がある者は恩恵が受けられる。Aクラスにいれば授業量も多く、動く事が多い。だが、Fクラスとなるとほぼ座学の授業だ。めんどくさがり屋でほぼずっと寝ている彼女にとって最高の環境になる。
そして何よりこいつは第4章のラスボスで、俺の推しキャラを殺した張本人でもある。長年やってなかったからすっかり忘れてた。
「えっと...アリス君、次は君だよ?」
「んん?ああ」
いつの間にか自分の番まで回っていた。アリスは立ち上がる。
「アリス=ウィンチェスター、魔法剣士を志望する。これから3年間共に歩むことになるだろう。遠慮なく話しかけてくれると嬉しい」
ふんっ、完璧だ
可愛いさを持つエミリーや特別扱いをされているクロエと違って少し注目をされてしまった。何故なら俺には家名を持っている、家名があるって事は貴族の証。Fクラスで唯一の貴族になる。クロエの家名を持つが、彼女は目立つ事が嫌いで特別に平民を装って家名を隠している。なら実質Fクラスで1人だけの貴族になる。他の貴族からしたら情けないかもしれないだろう。
「僕はレンヤ、一応魔法剣士だけど...僕は魔法は使えない。いや、魔力を持っていないけど、仲良くできたら嬉しいな」
あははと笑う主人公レンヤ、彼の放った言葉に教室はザワつく。一流の魔法使いの宝庫と言われているグリモワールアカデミーに置いて魔力を持たない人間がいる事に疑問を抱き始める。最初から知っているエミリー、少し興味を抱き始めるカイザー、元から興味のないクロエ以外の生徒は、魔力のない男が入学できた事にどこか嫌悪感を抱く。だが、アリスは違う感情を抱いていた。
...やっと、始まったな
グリモワールの聖剣伝説に置いて、レンヤの自己紹介はゲーム開始に合図だったからだ。
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