ああ、まあ

なつろろ

松田瞳(仮)さんからの依頼

都内某所のカフェにて、松田瞳さんからお話を伺った。

 軽く各々の自己紹介を済ませて、早速本題へ移ろうとしたが松田さんの左目に医療用のアイパッチがつけられているのを見て。「もしかして左目、ものもらいとかですか?」と聞くと「ああ、まあ……」と彼女は言葉を濁し、運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、あのもう始まってますかと慎重に聞いてきたため、菅井にカメラの用意が出来たか耳打ちすると、できているとの事。事前に音声記録も残したいと双方の意見が一致し、カフェにも許可を得て松田さんの話を聞くことになった。

「斎藤さんには、メールでお伝えしたのですがもう一度お話させて下さい」菅井の撮影用iPhoneのカメラフォーカスが自然と松田さんをズームし、菅井が調整している間、彼女は話し始めた。

「小さな頃から夢見が悪くて、芸能人が夢に出てきたとかは全くなくて」「変な夢を見ることが多かった」松田さんは他の人がよく見るいい夢とは裏腹に自分は変な夢ばかりを見ていて、不安で夢を見たら夢占いのサイトをいくつもサーチするような日々を送っていたとの事。

「それはいつから?」「いやもう、学生時代……いや子供の頃からですかね……」「ちなみにその中で印象深かったものとかってあります?」斎藤がそう問いかけると彼女はしばらく固まっていたのだが、メールに書いたあの話をしてもいいかと。「それが本題なんです。」彼女は静かにそう言った。

 彼女はまたコーヒーを飲んで、一息ついて俺と菅井を見つめながらこう言う。

「私の見た夢、どの夢占いサイトにも載っていないんです、なので私と似たような夢を見て悩んでいる方の力になりたくて」「私たちに依頼をしたということでいいんですよね?」「私1人だと何も出来なくて、あまりにも不気味すぎることなので」

 彼女は苦笑いしながらなんてことのないように言うが、世の中の大体の夢については夢占いサイトに掲載されているはずだが……私はそう思ったが、聞いたことがない事象だ。菅井も準備が整ったみたいだ「松田さん、録画の用意できたのでどのタイミングでも大丈夫ですよ」「わかりました、じゃあ」と彼女は2つ、奇妙な夢の話をし始めた。


「夢の中の私は、その……なんと言ったらいいのかな自分だけど自分じゃない、私が例えばその時中学生だったとしたら夢の中のその子は私よりも全然年齢が下の子なんですよ」「そこだけ聞いたらいい夢な気がしますよね、菅井さんもそう思いますよね?」「まあ、小さい頃の自分なのかなぁとかなりたい自分の姿なのかなぁとか思いますけど。」彼女は気になるところであまり言いたくないような顔をしていた、「顔色が悪いですが切り上げますか?」「い、いや大丈夫ですただ、人が多いところでこういう話したことが無くて……話戻しますね」

 彼女の奇妙な夢の1つ目は、夢の中の自分の意識はそのままで体は全く知らない幼女や少女となって、自分の意思とは関係なく、幼女や少女なのにいとも容易く自身の眼球を取り出し、ピアノ線のようなもので綺麗に切るという夢であった。

「当然、びっくりして飛び起きて夢占いサイトを巡ったんですけど、情報がなくて」「いやぁ……これは私も初めて聞きました、怖いですねそれ」「僕、少し手に汗かいてきましたよ」菅井がカメラの前に手を出すもそれは分からなかった。

 私はパソコンに1つ目の夢を記録していった。私の手が止まるのを待ってから彼女は2つ目の奇妙な夢について語り始めた。

「1つ目とは全く繋がってはいないんですけど、舞台は私が住んでいた実家で……多分季節は冬で、吹雪いていたのを覚えていて、夜なのに空が気持ちの悪い色だったのを覚えています。」私の実家、呼び鈴が壊れていたのでノックして不在かどうかを調べることしか出来なくて、その夢の中で目が覚めた彼女は玄関のドアがノックされる音で起きたらしいのだ、家族が真っ先に起きるはずなのに選ばれたかのように私だけが起きるようになっているようで「気味が悪かったんですけど、ノックは鳴り止まないしドアノブもガチャガチャし始めて、家族が起きる前に対応しようと思って、私、玄関開けちゃったんです。」「……誰かいたとか」私がそう言うと彼女はまあまああっていると言いたげに頷いた。

「男の人で、少し太っていたかな……でも全く身に覚えがない男が私の名前を呼んで迎えに来たよって笑って近づいて来たところで目が覚めちゃって」「当然のごとく夢占いサイトを見て回ったけど」「はい、そんな夢ないっぽくて、当時高校生だったんですけど……同級生にその夢の話をしたら」「……どうなったんですか」「眉唾だったのかもしれませんが、夢の中に出てくる人は顔見知りじゃないと出てこないよ、と言われてしまって」

 あはは、と彼女は笑うとコーヒーを飲みきりおかわりを貰っていた。2つ目の記録も終わって、1日目のインタビューは終わることが出来た。

 私と菅井は松田さんと別れてこの奇妙な2つの夢は他に見たことがある人はいるのか、本当に夢占いサイトに載っていないのか片っ端から私がサイトを調べていると菅井は菅井の方で少し問題があったらしい。

「映像編集していたんですけど、松田さん異様に左側を見ないようにしてませんか?」「アイパッチしてただろ、ものもらいでメニューが見ずらいとか」「……にしても、そんなレベルじゃないと思うんですよね」

 私は菅井に2日目のインタビューの時に確認してもらおうと菅井のことを宥めて納得してもらった。

 一方、私の方も松田さんとメールで逐一やり取りをしている1つ目の夢の話と、気になったのは2つ目の夢の話の男について、似顔絵や見た目について覚えていることは詳しく教えて欲しいとお願いしたら。

「絵が得意ではないのですが私が描いた絵でも大丈夫ですか?」と返信が「大丈夫ですよ、次回会う時か完成したらメールに添付して送ってください」と松田さんにメールを返す。

 菅井は編集がそこそこ終わったのか、持ち帰って細部まで確認すると言っていたので帰してやった、私は松田さんが描いたあの男の絵が送られて来るまで寝ないぞと意気込んでいたのだが、気を弛めてしまったのか寝てしまったようだ。

「…………」ガバッと体を起こすと、時計は夜中の3時を回っていた。

 パソコンのブルーライトだけが照らす私の顔だけが異様だった、つい2時間前くらいに松田さんから添付ファイルのついたメールが届いていた。

 

 「描けました、本当に力になれるか分かりませんが」

 【添付ファイル】image_data_1111.zip

 解凍作業をして、送られてきた画像をクリックする、読み込みもきちんとされているが表示されるまでが長く感じた。読み込みが全て終わって、カク……カク……と上から彼女が描いた人物像が露わになる。

 私はそれを見て絶句した、彼女が送ってきた画像の人物は、私も全く知らない人だった。

「……どういうことなんだ」私は考えながら画像の男と対峙した。

 男は、体型は小太りを通り越してもう肉が垂れているそんなレベルの太さなのだが、顔は何人もの人の顔のパーツを組み合わせて作られたような気持ち悪さがあるのだ。

「コラ画か……?」私はそう思い画像検索にこの画像を検索にかけてもヒットする人物はいなかったのだ。

「松田さんの知り合いがごちゃ混ぜになっている可能性は」とか「This manのような存在か」そんなことをぶつぶつ言いながら作業をしていると。

 空が白み始めてきたのが見えてきたため、私は作業を中断し、ベッドに入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る