調停の亜神<デミゴッド>〜様々な世界のエンディングを陰で守ってきた俺、雇い主の神様から休暇を言い渡される〜

檸檬sui

プロローグ

「はあ、はあ、はあ…………」


 とある世界のとある裏路地で、男は息を切らしながら逃げ惑うように走っていた。


「クソが、魔王を討伐して凱旋パレード中の勇者と王女を暗殺する…警備もザルで達成は容易とか抜かしてたのに…ッ。『あんな奴』がいるなんて聞いてねぇぞ!?」


 男は凄腕の暗殺者だった。ありとあらゆる依頼を受け、ありとあらゆる殺し方をし、依頼成功率は100パーセント。裏の界隈で知らない人はいない。

 今回の依頼内容は魔王を討伐した勇者とその冒険に帯同した第一王女の暗殺。凱旋パレード中に警備員に変装、民衆に意識を取られ警戒心が薄れた瞬間に魔法で殺し、混乱に乗じて脱出する………そういう手筈だったのに。


「それ」によって、全てが破綻した。勇者と王女に魔法を行使する瞬間、一瞬で目の前に現れた「それ」が発動されかけた魔法ごと男を切り、男は命からがら逃げ延びてきたのだ。


「クソが、行き止まりかよ!別の道を探して──「見つけた」………ッッッ!?」


 裏路地での逃走劇は、突如として終わりを告げた。


「ったく、手間取らせやがって……どうせ逃げても結末は変わんねーんだから、大人しくお縄に着いとけよな」

 そう言った「それ」は外見は人の形を成していた。すらっと伸びた長い足、一見華奢に見えるものの引き締まった肉体、街で会えば誰もが振り返るような整った顔立ち。

 どこに出しても恥ずかしくない好青年だが、纏う雰囲気がそれがヒトではないことを表していた。


「ッお前はなんなんだ!?何故俺の邪魔をする!?」

「その質問には答えられねーな。強いて言うなら、これが俺のだ」

「チッ、テメェが何者かは知らねぇが、依頼の邪魔をするってんなら殺すだけだ!!」

 そういって男は魔法を放ちながら、自分も得物を持って青年に襲いかかった。


 青年はそれを見て、ため息を吐きながら小さく呟いた。


「……浮月ふげつ[雲斎うんさい]」

 呟きと共に顕現し、引き抜かれたのは刀だった。滑らかな波打ちの刃紋、わずかに反った淡い水色の刀身。青年はそれを静かに振ると、男の首は胴体と別れを告げ、その場に崩れ落ちた。


「……お前の失態は『この世界の勇者しゅじんこう王女ヒロインを狙った事だ。……神に仕えし『調停者』として、お前はこの世界の流れを乱す異端とし、その失態を以てお前を処分させてもらう」


 そう言って、青年は刀についた血糊や油を払い鞘に納めた後、悠然とその場を後にした。


「これで今日上からお達しがあった「世界」は全部かぁ…?最後だけちょっとめんどかったけど、5つならまぁまだマシな方だな。後は帰って神様に報告して寝よ〜っと……」


 

彼の名はジン=ウィッツ=カルマー。神々に仕え、神々が作ったさまざまな世界の「調停」を行う「亜神」である。

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