第47話 選択という名の既定路線

 自分がシオガ派遣のメンバーに選ばれたのは、龍神神社の血筋だったからだと自嘲的に笑う高坂さん。


 今までのイメージとは真逆の表情に、私は言葉が出なかった。


 私も高坂さんがシオガ行きに選ばれたのは、動物飼育の知識が豊富だからとしか思ってなかったから。


 でも確かに、最初から龍がなついてケイドさんが驚いていたのを思い出すと、やっぱり龍たちは何かを嗅ぎ取っていたのかもしれない。




 しばらくの沈黙の後、斎藤さんが口を開いた。


「それで、早川さんはどうされますか?」


「え?」


 突然話を振られ、一瞬戸惑う。


祷雨とううですよ。今すぐ決めろとは言いません。もちろん早川さんのご判断を尊重します。早川さんは民間人ですから」


「……」



 私が答えられないのを見て、堀江課長が笑顔で続ける。


「斎藤さんの言う通り、私たちに強制はできません。でも祷雨が現在の日本にとって喫緊の手段であることは、お分かりいただけたと思います。

もちろん圧をかけるつもりはありませんが、できれば前向きにご検討いただけるとありがたいです。ちなみにこの祷雨計画は、すでに私たち外務省と防衛省、内閣官房、首相官邸とも共有されています。そして先ほども言いましたが、青嶋総理も興味を持たれている」


「……」


 圧をかけるつもりはないと言いながら、じわじわ退路を断たれているのを感じる。


「最近与党の支持率が落ちていますしね。正直青嶋総理は対応が後手に周りがちで、首脳会談でも成果を出せていない。なので祷雨を世界に発信すれば、他国への威圧と国内での人気回復、一石二鳥だと考えておられるようです」


 堀江課長は、軽くフッと笑った。


「まあ、総理なりにお考えはおありなんでしょう。……我々には窺い知れませんが」


「あ、あの」


 話が勝手に進んでいきそうな気配を感じて、私は堀江課長の言葉を遮った。


「すみません。私は今すぐ祷雨を行うか決定はできません。せめてお時間をいただけますか?」


 私の言葉に、堀江課長と斎藤さんはチラッと視線を交わしたあと、斎藤さんは「分かりました」と軽く息を吐いた。



「ただ、どうしても早川さんにご協力していただきたいことがあります」


「な、なんですか?」


「先ほども言ったように400年使われていない龍穴が、今も使えるか確認していただきたいんです」


「それは、どうやって……?」


 斎藤さんは、少し表情を緩めた。


「実際に龍を呼んで、あの龍穴が今も機能するかどうか、確かめてほしいのです。我々と共に、神羅儀かむらぎ神社へ行っていただけますか?」



─────────────────────



 龍を呼ぶために神羅儀神社へ行く……。


 大丈夫かな。


 龍を呼んでしまったら最後、祷雨を行わざるを得ないようまたじわじわやられるんじゃないだろうか……?


 多分その考えが表情に出ていたらしく、斎藤さんは軽く苦笑した。


「心配なさらなくても大丈夫ですよ。今回はシオガの女性たちは呼びませんから。彼女たちがいないと祷雨の成功率は極端に下がるので、そんなリスクは犯しません」



「……分かりました。龍を呼ぶこと自体は構いません。でも、祷雨を行わずに龍にまたシオガへ帰ってもらうことは、本当にできるんですか?」


「できると思いますよ」


 斎藤さんはあっさりと言った。


「龍穴は一方通行ではないみたいですから。昔はしょっちゅう龍が出入りしていたようですし」


 ……また、うまく言いくるめられてる気がする。


 でもこれといって拒否する言い訳も見つからない。



 思いあぐねて悩んでいると、黙っていた高坂さんが口を開いた。


「……それは、俺も同行するんですか」


「もちろん、先ほどから何度も申し上げてますが強制はできません」


 斎藤さんは少し目を細める。


「でも高坂さんがいないと、早川さんは一人で龍穴開放を行うことになるでしょうね。高坂宮司にも協力は仰ぎますけど、やはりここまで一緒にシオガで祷雨を見守ってきた高坂さんが同行された方が、早川さんは心強いでしょう」



 ……まるで最初から、私が龍を呼ぶのは当然の流れになっていたみたいだ。


 全て既定路線に乗って話が進んでる気がする。


 あくまで、私の意見を尊重するかたちにはなっているけど。



 私の名前を出された高坂さんはグッと息をのみ、しばらく考えて答えた。




「……分かりました。俺も行きます」

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