第19話 静かな警告

祷雨とううを行ってはいけません。危険です」


 静かに、でもはっきり言う謎の青年。


「あの、あなたは……?」


「私は…」


「セイラン!!」


 静かな空間に突然響く大声、それに青年はビクッと体を震わせた。


 声がした方を見ると、そこにいたのはリョウガさんだった。


「リョウガさん?」


 私たちの姿を目に止めるとリョウガさんは軽く会釈をしたが、すぐにキッとセイランと呼ばれた青年を睨んだ。


「セイラン、もう業務に戻る時間じゃないのか」


「はい、そろそろ片付けようと思っておりました。申し訳ありません」


「早く戻れ。ケイドが頼みたいことがあると言っていたぞ」


「承知いたしました」


 広げていた本のようなものをササっと片付け、彼はあっという間に資料室から出て行った。


 思わぬ展開に私たちが呆気に取られてると、リョウガさんはいつもの落ち着いた微笑みを見せてきた。


「あの者はセイランと言う私の従者です。失礼な態度を取りませんでしたか?」


 リョウガさんが、あんな大声を出すんだ。


 今はすっかりいつものリョウガさんだけど、意外な一面を見て戸惑う。


「いえ、大丈夫です。あの方はよくここにおられるんですか?」


「どうも本を読んだり古い文献を調べたりするのが好きなようです。仕事は真面目で頭もいい方なのですが、たまに出すぎたことを言うので困っています」


「出すぎたって……?」


 リョウガさんは、いつもの口調でさらりと言った。


「あの者は身分が低いので。本来ならここで働ける立場ではないんですよ。ただ学校を優秀な成績で卒業したので、特別の計らいで傍においております」


「身分ですか……」


 高坂さんの呟きにリョウガさんが頷いた。


 当初は高坂さんに冷たかったリョウガさんだけど、龍がかつてないほど懐いてると言う話を聞いてからか、高坂さんへの態度も柔らかくなっていた。


「地方の村の出身です。そのせいか古い慣習に縛られて少し頑固なところがあって。もっと現実的なことにも目を向けてほしいのですが」


 そんな話をしながら、私たちは自然と資料室から出るように促された形になった。


「ここに来られるのは構いませんけど、特に面白いものはないと思いますよ」


 それは穏やかな口調だったけど、リョウガさんにとってはここに入って欲しくないみたいと言うのが伝わってきた。



─────────────────────



 リョウガさんに資料室から出るように促され、仕方ないので宿泊舎へ戻るために雨の中を歩く。


「祷雨が危険って言ってたね、あの人。何か知ってるのかな」


 私が小声で尋ねると、高坂さんも考え込むように呟いた。


「あそこで色々資料を見たけど、実は祷雨のことを書いたものが見当たらないなと思ってたんだ。たまたまかと思ってたけど、もしかしたら何か秘密があるのかもしれないな」


 おまけにあのセイランさんという人のことを、リョウガさんは身分が低いとバッサリ切り捨てていた。


 一夫多妻制度のこともそうだけど、シオガではけっこう差別意識が強いのかもしれない。


 重苦しい空気の中、ほぼ無言で私たちは歩いた。





「お二人でどこへ行かれてたんですか?」


 宿泊舎に近付いたところで突然声をかけられビックリして振り向くと、そこには傘を差した斎藤さんがいた。


「さ、斎藤さん……」


「? どうかしました?」


 ユイさんから色々話を聞いたあとだから、つい斎藤さんにたいして顔がこわばってしまう。


 まずい、不審に思われると焦っていると、隣の高坂さんがいつもの口調で明るく答えた。


「休みで時間があったので、資料室で龍のことを調べに行ってたんですよ。でもなかなか新しい情報はないですね」


「龍はまだ分かってないことが多いですしね、それに……」


 と斎藤さんが続けようとした時、横を1メートルくらいのケージのようなものが通りすぎた。


 中には少し大きめのウサギみたいな動物が何びきも入っていた。


 まるっとした体に長い耳、クリクリとした目がかわいい。


 ここで飼ってるのかな? でもケージが窮屈そうだけど、と思っていると、斎藤さんが事も無げに言った。


「あれはオイハルですよ。こちら原産のウサギです。多分、今夜の夕食のメインでしょうね」


「え……」


「オイハルは新鮮だと生で食べられるんですよ。美味しいですよ、オイハルのタタキ」


 言葉もなく絶句してる私を見て、斎藤さんは少し苦笑した。


「日本ではあまり見ないですよね、こういう光景。私はもう慣れましたけど」





 その日の夕食は斎藤さんの言葉通り、オイハルのタタキが出た。


 表面を軽くあぶった肉が薄く切られ、きれいに盛り付けられている。


 斎藤さんは普通にそれを口に運んでいた。


 隣の高坂さんも、いつも通り「いただきます」としっかり手を合わせ食べ始めた。


「いただきます……」


 いつも習慣のように言っている言葉だけど、私は今日はこの言葉を噛み締めた。


 オイハルのタタキをゆっくりと口に運ぶ。


 そのお肉は柔らかくあっさりとしていて、臭みもなく本当に美味しかった。


「オイハルは低脂質高蛋白で栄養価も豊富なので、昔からシオガでは良く食べられてたそうですよ。ただ高級な食材らしいので、ここで出てくるのはまれですけど」


 斎藤さんの説明を複雑な思いで聞く。



 私たちは命をいただいて生きていると言うこと、それを目の当たりにさせられた出来事だった。


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