第35話 忽然と

 ダンジョンに潜って1時間が経とうとしていた。

 その間に、遭遇した魔物は7体。

 レイネたち曰くどれもが小物であり、ユウトが創造した銃などによって簡単に蹴散らされていた。

 弾が切れると補充したり、銃の交換などをユウトは担っていて、戦闘の際はこのような役回りになるのかな、なとど考えもする。

 地下に進むにつれて、内部の温度も大分下がってきたような気がする。

 恐怖が薄れたユウトにとっては奥から吹く風も、涼やかに感じられた。


「さっき魔物の話をしてくれたじゃないですか?」


 と、レイネに話しかける。


「はい」

「この世界って魔王はいないんですか?」

「魔王ですか……」

「ほら、物語には必ず登場する、悪の親玉って言うか、それを倒すために勇者が冒険に行くとかよくあるじゃないですか」

「うーん、いないと思いますよ。先ほどお話したように、魔物は人間のような知能を持つ個体はいませんから、組織的に動くこともなかったようですし。狼のように群れを作り、リーダーのようなポジションの個体もいたようですが」


 薄々、そんな気はしていた。

 魔王がいないとなると、恐らく勇者もいないのだろう。

 ここはユウトが思っていたようなファンタジーのような世界観ではないらしい。


「そうですか」


 ユウトはそう返す。

 自分は誰と戦うために召喚されたかと言えば、相手は人間なのだろう。

 確かノールもそんなことを話していたような記憶がある。

 魔物が自分のスキルで討伐される様子を見ても特に罪悪感を覚えるとかはない。

 が、もし相手が同じ人間だったのなら、どうなんだろうか。

 また、戦場に行けと言われた場合、やはり人間を殺さなければならないのだろうか。

 こんな思考に至るから、出来れば人間と魔物が戦っているような世界が良かった。


 などと、戦場のことを何も知らないのに、もう狩る側の思考でいたユウトだったが――


 ――突如、視界が暗転した。


 ◇


「なっ――」


 最初に異変に気付いたのは、ユウトの後ろを歩いていた兵士だった。

 彼が上げた声に気づいて、バグとレイネも振り返り、ユウトの横にいた魔術師も緊急事態に動転する。


 ユウトが消えたのだ。


 忽然と。

 何の前触れもなく。


「ど、どういうことだ!」


 兵士が困惑に顔を歪ませ怒鳴る。


「バグ!」


 レイネが名前を呼ぶ。

 この事態に即座に対応できるのが彼であることが分かっての呼びかけだ。


「ああ、こっちだ」


 バグはダンジョンに入る前、ユウトの体にあらかじめ極小の蜘蛛型魔物から伸びる糸を取り付けていたのだ。

 普通の蜘蛛に比べて体は極端に小さいながら、放出する糸は驚くほどに細く耐久性を誇る。

 カベルの逃走の際にも使用した手段だ。

 当然、周りに詳細を伝えることはしない。

 追及されれば魔物の操作まで明かさなくてはならないのだから。

 しかし、今の状況でそんなことを聞く人間などいない。

 そして、意外なことに糸はダンジョンの奥の方に伸び続けている。

 つまりは、ユウトを攫った存在が奥に逃げているということである。

 あえてすぐに出入り口に走らなかった辺り、入り組んだ内部でバグたちを撒いてから逃走するのか、外に続く秘密の通路的なことを知っているのか。

 どちらにせよ、早急に捕縛しなくてはならない。

 バグたち一行はダンジョンの奥へと駆けた。

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