幕間3 少女の願い

マイラがハリーに婚約者がいると知ったのは貴族の女生徒達に囲まれた時だった。


「ハリー殿下には公爵令嬢の婚約者がいらっしゃるのよ!」

「アイリス様に迷惑がかかるでしょ!」

「平民の分際で調子に乗らない事ね!」


突き飛ばされたマイラはその場にいた全員から鋭い視線を向けられる。

ハリー殿下に婚約者?

しかも相手は公爵令嬢?

貴族に疎い自分でも少し考えたら王太子であるハリーに婚約者がいないわけがない。どうして婚約者がいる考えに至らなかったのか。マイラはその時激しく後悔をした。


「今後ハリー殿下に近寄らない事ね!」

「全くこんな子を相手にするなんて馬鹿殿下はどこまでいっても馬鹿ね」

「アイリス様が可哀想だわ」


言い返す気にはならなかった。マイラは自分のやらかしの重大さに気がついたから。背筋がゾッと凍りつくような感覚に陥る彼女をさらに追い詰めるように貴族令嬢達は言葉を吐き出した。


「ふん、もうハリー殿下には関わらないでちょうだい!」

「そうよ。平民は平民と仲良くしてるのがお似合いよ!」


吐き捨てるように言葉を放って立ち去って行く姿をマイラは黙って見ていることしか出来なかった。泣きたくなったのは囲まれたのが怖かったからじゃない。王族と公爵家という雲の上のような人達に不敬を働いてしまったから。その罪で裁かれる事が怖かったのだ。

どうしよう…。私はどうしたら良いの?

このまま過ごしていたら家族にも迷惑がかかってしまう。そう思ったマイラはハリーを避けようと決意をするが全てを無駄にする存在があった。


「やぁ、マイラ」

「殿下…」


マイラの気など知らないハリーは相変わらず呑気な顔で彼女に近づいた。嫌な顔なんて出来ない。必死に取り繕った笑顔はどんな風に見えていたのだろう。マイラは自分が見せている表情が酷いものであると察していた。


「あの、殿下」

「どうしたの?」

「で、殿下には婚約者の方がいらっしゃると聞きました。私と二人で会うのは良くないのではないでしょうか」


将来を誓い合った相手がいるのなら金輪際関わらないでほしい。

強い気持ちを込めて言ってみたがハリーからの返事は気味が悪いほどの笑顔だった。


「婚約者?あぁ、アイリスの事か。気にしなくていいよ。彼女はみんなに愛されてるから僕が大事にする必要はない」


どうでも良さそうに婚約者の事を話すハリーにマイラはなにを聞かされているのかさっぱり分からなかった。困惑している彼女に気が付かないハリーは満面の笑みを浮かべる。


「僕はアイリスよりマイラといた方が楽しいんだ」


幸せそうな笑顔で言われるがマイラには理解出来なかった。素敵な婚約者がいながら他の女性にこんな事を言えるハリーが気持ち悪くて嫌な気持ちでいっぱいだ。


「ああ、そうだ。今度お城でパーティーがあるでしょ?マイラの事は僕がエスコートしてあげるから」

「でも、アイリス様は…」

「気にしなくていいってば!」


マイラの言葉にハリーは声を荒げた。怒りに狂った表情を見せる彼に怖くなりすぐに頭を下げる。平民に出来る事は少ない。マイラが出来たのは早く彼が自分に飽きる事を願う事。


「も、申し訳ございません」

「いいよ。ああ、ドレスも贈ってあげるからね。全部僕に任せて」


マイラの立場をどんどん悪くさせるハリーに彼女は心の中で叫び声を上げた。

誰か助けて。

願いは誰にも届かずパーティー当日を迎えてしまった。

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