第49話 最近流行の異世界童話
「アメ姫のあちらでの話を聞きたい」と朝食の時に言われたからだった。
「少し緊張するなぁ・・・」
「物書きはいましたか?」
「え、普通にいたよ。投稿サイトとかもあったなぁ」
「とうこうさいと?」
「お話を公開できるの」
「ああ、『物語屋』か」
「そういうのがあるの?」
「あるんですよ」
「そうなんだ・・・」
「あちらでは、有名な童話とかあったりしますか?」
「あ、あるある。今日はそのお話をしようかな」
「はい。旅路、楽しみです」
「うん!」
選抜された一般兵を交えた特別な朝食を終え、兵士たちからはすでに拡散された「向こう側の童話」の期待が見て取れる。
軍人の鏡、ラクは呆れていた。
三人兵が「どんなお話?」と訪ねて来た。
「うーん・・・タロウ」
「「タロウ?」」
「うん、タロウ、つながり」
「「タロウ、つながり?」」
ラク「なんとなく聞いたことがあるような・・・異世界転生者ってタロウものが好きなんですか?」
「うーん・・・別に、嫌いじゃないけど・・・無難かなぁ、って」
「「無難・・・?」」
「うんうん。有名なお話なの」
「「ほーう」」
――
――――・・・
風魔法を使って、兵士たちにも聞こえるように肉声で喋っている。
桃太郎、浦島太郎、金太郎。
覚えている限り、発音にも気をつけて話してあげた。
反響は上々。
作業が楽しい、と感想が多かった。
問題は「設定がおかしい」と言う感想からの、皆の話合いだった。
話合いの結果、桃太郎は鬼が魔王って言い方に。
浦島太郎は、魚が人魚に。
金太郎は、金太郎がケモノビト、ってことになった。
――ケモノビトって、『ケモ耳』とかのやつ?
どうも取り入れられた「タロウシリーズ」は、異世界版になった。
こちらとしても、なかなか筋の通ったことのような気がする。
異論を唱える余地がない。
うん、まぁ、いいや。
ちなみに「タロウ壱」「タロウ弐」「タロウ参」って言い方になった。
桃太郎、浦島太郎、金太郎の順に。
「自分はタロウ参が好みであります」
「うんうん」
ルシーナ兵は個人的にかなり可愛い。
可愛いは正義。
今はそれでいい。
――そうか。これから戦いがある。
全員では帰れないかもしれない・・・
ラクとサクラ君に打ち明けてみると、意外そうな顔をされた。
「当たり前や」
「それはしょうがないこと・・・皆、覚悟しているんです、アメ」
泣きそうになってしまった。
それをこらえていると、サクラ君が背中からそっと抱きしめてくれた。
「勝手に触れて申し訳ありません、姫」
いつもとは違う喋り方・・・兵士としてのサクラ君の口調。
しゃくりあげている私を、そのあと何も言わずに抱きしめてくれた。
サクラ君はその続きをしない、と言って、泣き止んできた私のほほにキスをくれた。
「いつかお前を抱く」
――喋り方が戻った。
思わず微笑すると、サクラ君が意外にもにっと笑った。
「ションファの種、苗にする作業、皆、楽しそうや」
「はい。意外なほど」
「俺はタロウ壱が好みや」
「そうなんだ」
「うんうん。リアルってやつだろうに」
「ええっ?そうなんだ・・・?」
「なんで?」
「いえ・・・リアル??」
「お前が教えたんだぞ」
「そうでしたね。あちらにいた時から不思議な響きです」
「まさか変な意味合いなのか?」
「知りません!違うと思います」
「なんで焦ってる?」
「知りません!」
「ほぉん・・・」
氷魔法で兵士たちに涼しい風を送る役割のサクラ君は、案外とひまをしている。
自分がどこかのんきになってきたのを、悪い気分はしない、と言ってくれた。
自分にできることがあってよかった、と。
サクラ君、素敵。
――
――――・・・
余命告知を受けた。
ラク・フレイアの。
技師たちが、そろそろだ、と言った。
ラク本人が、「ギリギリまで作業をする」と言っていた。
もう、彼にしかできない技がある。
機械化された軍人ラク・フレイアにしかできない技。
それに賭けるしか突破口はない、と言われた。
それを聞いて、三人兵は動揺していた。
砂糖と塩を間違ったりしていた。
ラクがメンテナンスを終えて、三人兵に言う。
「しっかりしなさい」
弾かれたように三人兵の表情が変った。
「でも・・・」
「でも、じゃない。お前たちは任務中の兵士だ」
「「はい。ラック」」
「――・・・アメ、お見苦しいところを」
「い、いえ!大丈夫」
「「心配かけてごめん、アメ・・・」」
「きっと大丈夫。皆で魔女を倒して帰りましょう!」
「ありがとう」
「ありがとう」
「本当にありがとう、アメ。君に会えて良かった・・・」
それから三人兵はしくしく泣き始めた。
ラクは呆れている。
「ラックが死んだらイヤだよ!」
「ラックは・・・いつになったらパーパーって呼んでいいの?」
「ラック!あなたは頑張ってるからきっと天国に行けます」
ラクは苦笑して、分った、分った、と言った。
「色々あったけど、お前たちが一番可愛い」
三人兵たちは大泣きをして、医療班が医療テントに運んだ。
どうも泣きすぎで鼻がつまったらしく、呼吸ができなくなっていたらしい。
まさか倒れるまでそれに気づかないとは思っていなかった。
不測の事態。
あちらでは、泣いたら鼻をかむのあながち当たり前だった。
試しに兵士たちに聞いてみたら、知らなかったと言われた。
こちらには、「ティッシュ」がまだない。
ハンカチはあるけど、貴重なものだ。
それで鼻をかむなんて、もったいないことらしい。
「姫、今、だから兵士は泣かないのかしら、って思ったでしょう?」
「は?」
風魔法通信のあちらこちらで、ちょっとした笑いが起きた。
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