第2章 不意に滑り落ちて 第1話

第1話



 学びの園の裏庭にある湖のほとりの丘には、露出した石が点在している。


 外界へ繋ぐ道を辿ると、いくつもの岩が連なって、それが急勾配の山を切り立った峡谷を形成していた。


 雲のない空の下で輝く湖は、巨大な銀色の鏡のようだった。


 私のお気に入りの場所で、休日利用しよく散策していた。


 賑わう市場をうろつくのも好んでいたが、私にとって爽やかな風が肌に気持ちいい自然の森が一番お気に入りとしていた。


 私は、相変わらず一人ぼっちだった。


 それは、幾度となく私に会いに来てくれるファルが原因で、いわゆる周囲からの妬みであるのは気づいているが、彼さえいればそれでよかった。


 私は、十一歳になっていたが、魔術は覚醒出来ずにいた。


 自らの力のなさを実感していたので、自分を卑下する気持ちは痛いほどわかっていた。


 私は、誰よりも思慕するファルに、よくやったなと褒めて欲しいと心底想っている。


 努力すればきっと報われることを信じて、私は人の倍以上頑張ってみた。


 しかし、努力しても埋まらない欠点が、私自身から浮彫にされている現実がある。


 私の学問としての実力は、記憶が戻らなくとも、猛勉強により着実に底上げされていた。


 魔術がわずかであっても覚醒不可という、拭いきれない欠点がある。


 私の努力の甲斐はなく、日々が無情にもすぎていた。


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