第41話「何か力になれたらいいんだけどな」




「今日のHR終わり、解散」


「きりーつ! 礼!」


「寄り道せずに帰れよ、ガキ共」


 楽しかった夏休みも終わり、また騒がしい日常が戻ってきた。


「あーやっと終わった! 今日も行くわよ!」


 緩やかに集まってきたメンバーに対して、耀がそう先導する。来たる戦いに備えて、引き続き全員、《機関》施設での特訓を続けているのだ。



 が、しかし。



「俺は今日もパスで」


「あ、あの作戦だね」


「おう、まだしばらくは試してみるつもりだ」


「もう始めてから一週間くらい経つよな。ホントに効果あんのかよ?」


「わからん、正直怪しくなってきた」


 俺は最近、合宿の際に話していたに挑んでいる。少なくともリスクはないのだが、その分成果もない。かなり無である。


「危なくないならそれに越したことはないんだけど、何もないならもう、諦めてもいいんじゃない?」


「んー、まあもう少し粘るよ。別に無駄な時間って訳じゃないしな」


 例の、おじさんからの贈り物をこねくり回すには十分である。試運転できないのだけ問題だが、


「じゃ、また来週な」


「何かあっても、なくても、何でもいいから連絡しなさいよね!」


「はいはい」


 裏山の方へと向かう耀たちに手を振り、俺は反対方向に向かう。今日こそは、どちらかに進展があると嬉しいのだけれど。




 *




「上手くいかねえ……」


「難しいのう……」


 夕暮れの中、スピリットたちと並んで帰路に着く。賭けも実験も、どちらも進展なしである。


「すみません、わたくしたちが力不足なばかりに……」


「いや、みんなのせいじゃないよ。そもそも、おじさんの試みが変なんだし」


 デッキケースを触り、その中にある実験品について考える。

 それが何かと言えば、ある白紙のカードである。それだけ聞くと、TCGアニメでありがちな、どんな物になるかが持ち主次第な無限大の可能性を秘めたご都合主義アイテムみたいに見えるが、問題はその出自である。


 なんとこれ、マッドデッキケースの機構を元に作られている。


「普段やらないことをやろーとしてるからさ〜〜〜、上手くできなくて難しーんだよね〜〜〜」


「そりゃそうだよな」


 仕組みは単純である。解析の結果、マッドデッキケースはその中に埋め込まれた闇のスピリットの肉片が、本来スピリットが持つ本体とカードの繋がりを妨害ジャミング侵食ハッキングし、魂のないガワの上から塗替アップグレードしていると分かった。


 このうち、前者二つは強力なスピリットだからこそできる特殊な技術らしいが、最後の一つは一般的なスピリットでも理論上可能らしい。


 前にも軽く触れたが、スピリットの本体が成長し、進化した場合に、では元あったカードはどうなるかといえば、進化前のまま残り続ける。カードはスピリットの分体ではあるが、その力の動き方は流動的であり、カード側が得た経験値は本体に流れるが、本体からカードに対してのパスはほとんどない。


 一応、ビーストとしてするカードを決めていない、スピリットそのままの段階であれば、特定のカードを窓口に《アナザー》から地球へと顕現することもできる。大晶の《デストロイヤー》なんかがそのケースだ。


「例えるなら、切った爪のようなものでしょうか? わたくしたちの一部というより、、という方が正しいですね」


「どちらかといえば、外したネイルじゃない? 直接触れれば付け直すこともできるしね〜」


 直接カードに触れれば、カードを消して取り込み直すことができるらしい。ただ、それで増す力などしれたものらしく、ほとんどやる意味はないとか。

 逆に、カードを現在の状態にすることもできる。理屈としてはそれが塗替アップグレードに辺る。


塗替アップグレードの理屈自体はわかるが、そもそもカード化システム自体が感覚的な物じゃからのう……」


人間おれたちが、腕の動かし方を魚に伝えられないのと似たようなものか?」


龍種あたしたち的には、ますたーに尻尾や翼の感覚を伝えられないようなモンかな〜〜〜」


 それでいうと多分、今回の要求は『他人の身体を自分の手足みたいに動かせ』って言ってるようなことになるか。おじさん曰く、この白紙のカードに一般的なスピリットが塗替アップグレードできれば、スピリットの能力を得た強力なウェポンを作れるはずだとか。


「やれやれ、俺が何か力になれたらいいんだけどな」


 歯痒さを抱えながら嘆息すると、アンがポンと手を叩いた。


「じゃ、デートしよう!」


「え?」


「考えてばかりだと気が滅入っちゃうじゃん? 一旦息抜きした方がいいって!」


「んー……」


「あたしも賛成〜〜〜」


「お前は働きたくないだけだろ」


 ふに子はてへ、と舌を見せて笑った。どうしようか、とフェルとリザにも視線をやるが、二人は少し悩んでいるようだった。


「たしかに進捗がないのは事実ですが、ここで課題から逃げるのはよくないのでは?」


「一週間向き合ってわかんないんだから、一日くらい休んでも関係ないよ〜〜〜」


「それにさ、アタシたちだって強くなったんだから、どうなるかわかんない秘密兵器に頼らなくても何とかなるって!」


 それは──そう信じたかった。

 でも俺は、心のどこかで不安に思っている。あの圧倒的な、蹂躙するためにあるような恐ろしい力に、またコイツらを傷つけられてしまうんじゃないかって。

 閉口していると、悩ましげに唸っていたフェルが「それでは駄目じゃ!」と目を見開いて言った。


「フェル……!」


「一日しか休めないんじゃったら、誰が主とデートするんじゃ!!!」


「え、それで悩んでたの?」


 思わず肩を落とした。と同時に、悩んでたことが少し馬鹿らしくなってきて。たしかに、一度休んだ方がいいかもしれないと思えた。


「そんなの悩む必要ないだろ──明日、仲良く出かけるぞ」


 全員で。と、大事な一言を加えた。何名か微妙な顔を浮かべた。文句ある子は置いていきますからね













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