第9話 城の奥の低い声

昼下がり、紗羅は窓辺に座り、再び城の奥から響く唸り声に耳を傾けていた。


「……一体、あれは何なの……」


声は低く、地面を揺らすような響きがある。

昨日までただの不気味な音だと思っていたのに、今日は何か意図があるように感じた。


「紗羅」


背後でレオンの声が響く。振り返ると、いつものように彼が立っていた。

金の瞳が真剣に紗羅を見つめている。


「またその声を気にしているのか?」

「……うん。昨日より、近くに感じるんだもん」


レオンは軽く眉をひそめ、廊下を歩きながら彼女の手を取る。

「その音は……俺の管轄する城の奥に潜むものだ。君に危害はないが、決して近づけるな」


「でも……少しだけ見たい」

「それは駄目だ」


レオンの声は低く、頑なだ。

しかしその瞳の奥には、先ほどまでの束縛とは少し違う“何か”がちらりと見えた。


「紗羅。君が好奇心を抱くのは当然だ。だが、それを許すわけにはいかない」

「……好奇心も駄目って、私本当に子供扱いされてるみたい」


紗羅の小さな冗談にも、レオンは眉一つ動かさない。

その代わり、彼の手は軽く紗羅の肩に触れ、逃げられない圧力を与える。


「紗羅、君の安全は俺が守る。あの声も含め、城の奥に潜むものも――」

「……も?」


紗羅が問い返すと、レオンは少し目を細めた。

「まだ話す時ではない。ただ、君には危険は及ばせない」


その瞬間、唸り声がまた、低く、地を震わせるように響いた。

紗羅は思わずレオンの腕にしがみつく。


「……やっぱり怖い」

「怖がるな。俺が傍にいる」


腕の中の温もりは安心感そのものなのに、唸り声の正体を知りたくなる好奇心は消えない。


――城の奥、謎の唸り声。

――そして、紗羅の胸を締め付けるレオンの独占。


この二つが絡み合い、物語はさらに深く進んでいく。

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