第7話 囚われの甘さ

――抗えば抗うほど、絡め取られる。


紗羅はようやく、その事実に気づき始めていた。

外の世界に想いを馳せても、レオンはすぐに現れる。

逃げ出そうと試みても、彼の視線に射抜かれれば足はすくむ。


結局、何もできない。


「……顔に出てるな」


気づけばレオンが目の前にいた。

彼の声は低く、しかしどこか楽しげでもある。

金の瞳に捕まれば、心を隠すことなどできなかった。


「俺から逃げたい、と考えていた」

「……べ、別に」

「別に? その“別に”が嘘だと分からないと思うか」


言いながら、レオンは紗羅の手を掴む。

熱を帯びた掌に囚われ、思わず抵抗しようとするが――。


「……っ、離して」

「嫌だ」


瞬きも惜しまぬほど真剣な瞳で告げられ、息が詰まる。

そのまま、レオンは紗羅を引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。


「抗うたびに分かるだろう。俺から逃げられないって」


耳元に落ちる囁きは甘く、熱を孕んでいる。

それは檻の音なのに、なぜか心臓は甘く震えた。


「レオン……」

「紗羅。君が俺を嫌おうと、拒もうと、俺は離さない」


頬に触れる指先は優しく、囁きは恋人そのもの。

だけど、その奥にあるのは――狂おしいほどの執着。


「俺は君を独り占めするために、この城を用意した。

鳥も風も、人間も、すべてから君を守るために」


「……守るっていうか、閉じ込めてるだけじゃない」

「同じことだ」


真顔で返され、紗羅は言葉を失う。

――もう、この人には理屈なんて通じない。


「紗羅」

「……なに」

「君が俺から逃げたいと思ったときは、俺をもっと愛してほしいときなんだ」


その勝手すぎる言葉に、思わずクスリと笑ってしまった。

「……なにその理論」

「俺の理論だ」


あまりに真剣な顔に、怒る気力すら奪われる。

抱きしめられたまま、心は抗うのを諦めていく。


――この人からは、逃げられない。

――そして、ほんの少しだけ……怖い以上に甘い。


それが、紗羅にとって初めての“敗北”だった。


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