第27話 刺繍教室と農業教室
その後セシールが刺繍教室をするとセギュール家で働く者たちに告知されると、多くの女性たちが休み時間にセシールの下にやって来た。ブリジットを初め侯爵家の皆が刺繍入りのシャツを着ているのを見て、皆興味を持ったようだ。
私には分からないが、刺繍のステッチ自体は難しいものでは無い様で、模様が細かい事と、色を三色使う事で少し難易度が上がっているそうだ。
そこで刺繍が得意な者と、好きだけど上手では無い者と初心者のグループに分け得意な者には最初から三色の刺繍を、苦手な者と初心者には最初は一色での刺繍でハンカチに練習をすることになったようだ。しかし一色の刺繍でもそれなりにかわいい出来上がりで、練習作品にしては上出来な仕上がりだった。
母上と義姉上も使用人に交じって刺繍をしたようで、最初の作品を旦那様に渡していた。つまり父上と兄上がハンカチを貰っていた。
「これは慣れたらサクサク刺せそうね」
「そうですね。商品にするなら、得意な人がまず枠組みをぐるっと刺して、少し不安な人が内側に色のパーツを刺していけば良いかもしれないですね」
「そうね上下の枠がズレずにきちんと出来ていれば内側は所定の位置に刺せばいいからやりやすいわね」
図案もそう複雑な物でもないので、少し練習すれば領民達でも商品を作れるようになるだろう。この冬の間の内職には持って来いかもしれない。しかし、簡単だと来年には模倣されてしまう事になるだろう。一年だけの収入減にならなければ良いのだが。と、思っていたら、
「まだ今年の分も収入にどこまで繋がるかは分からないわね」と母上言った。そしてその後、
「多分大儲け出来ると思うけれどね」と続けた。
母上と義姉上は細々としたことをセシールとその他の侍女やメイドたちと決めていった。これは、女性が中心の事業になるから貴方たちは自分がやるべきことをしていればいいわ!と張り切っている。
「商業ギルドに行って、登録を済ませておいた方がいいわね」
「細かい事で漏れがあると困るから、弁護士を呼んで相談しておきましょう」
「そうね、ここの領地で使用するのは無料にして、その他の人が使うときの使用料も決めておかないといけないわね」
そうすると相場とか調べて貰っておいた方が宜しいですわね」
凄い大事になっているように思うが、考案者の意見は聞かなくても良いのだろうかと心配になる。
「大丈夫よ。不労所得が増えて嫌な人はいないから」
「そうね、不労所得で儲けた分から、きっちり税金は納めてもらうからセギュール家としても損はしないわ」
仕方がない。もう母上と義姉上は止まらないだろうから、いざというときは私が謝るくらいはしよう。
その頃タウンハウスの離れでは、アルノーさんが二回目の農業ギルドの講習会から戻って来ていた。
「草花を育てるのと似てはいますが色々違いもあるんですね。勉強になりますよ」
「庭師のプロでも知らない事があるのですね」
「そうですね。私はセギュール家の皆さんの為に草花を育てますけど、野菜は大勢の人の口に入るものですからね心構えからして違いますな」
「そういうものですか?」
「そういうものです」
畑の事について話すうちにアルノーさんとは大分気安く話が出来るようになってきた。まだ正式に許可が下りてないので、机の上だけの話だが、それは私の得意とするところなので、問題は無い。
勝手に講習会などに参加してもらってよかったのか心配して尋ねると、タウンハウスの使用人は社交シーズン以外は王都の情報を集めて領地に知らせるのも仕事の一部なのでなんの問題も無いとの事で、少し安心しました。
「今回初めて農業ギルドに行ってみて、色んな発見があったから、他のギルドも順番に行ってみないといけないなぁ」
「じゃぁそれぞれの得意分野に合わせて派遣しましょう」
とセバスチャンさんと話していた。
私は、アルノーさんが聞いてきた話をまとめたものと、前世で家庭菜園をしていた時の記憶のすり合わせをしていく。野菜の種類はやはり少しずつ違いはあるものの、全く知らないものにはまだ出会っていないので、ある程度は向こうの知識を役立てることも出来そうだ。
とは言っても、肥料も窒素リン酸カリだったなぁとは思い出すが、それぞれが何かがはっきり分からない。それなら牛糞とか鶏糞の肥料や葉っぱなどから作る腐葉土って事になるのだろうが、詳しい作り方なんかは解らない。一応検索をした記憶はある。家畜のふんと藁や籾などを混ぜ込んで時々空気に触れるように混ぜて発酵させていき、匂いが無くなったら出来上がり、と言う簡単な記述だけで、実際に作っている所を見た訳ではない出来上がるまでの匂いは尋常じゃないので個人で作るのは無理と書いてあった。周りに迷惑が掛からない場所に専用の建物を建て作る必要があるようだった。都会では絶対無理だねー。
と言う中途半端な知識でどこまで知識チートが出来るのか、全く役に立たないかもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます