第25話 畑の許可 

 私もあまりの事に言葉を失う。私も毎日の引継ぎでしんどい思いをしているが、週に一日は休みがあり、剣の稽古に出かけたり、街に出て気分転換をしている。


 それにもまして顔色が悪いのが義姉上だ。

 「私は、週に一日はお休みを貰って実家に帰らせていただいていましたし、時々お友達を呼んでお茶会なども開いていただきました。勿論こちらから出かけることもありましたし。それにサミュエル様に観劇やお買い物に連れて行ってもらったりしましたわ」

 「ロッテンは解っていると思ったけど・・・」

 「奥様に任せて頂けたと大変張り切っておられまして、ロッテンさんにも休息をして下さいと進言するくらいでした」セシールの声はだんだん小さくなっていった。

 「あぁ、私と交代で授業を受け持っていたから、自分が他の仕事をしている時はすべて私が何かしら教えていると思っていたのかもしれないわね」

 「あの頃、侍女頭としてお忙しかったですものね」

 「ええ、サミュエルが戻って来るので新しい使用人を増やしたからその教育もありましたからね」

 そう言って母上と義姉上は二人してため息をついていた。


 「それでこの間セバスチャンさんとロッテンさんが用意したカリキュラムを全部終わらせたので、朝アドリーヌ様が今日の予定と誰が何をするかと言う指示をするという実践になりまして、午前中がぐっと暇になったのです」

 「お医者様が言うにはそれで今までの疲れがどっと出たのだろうと」

 「環境に慣れる前に色々詰め込み過ぎたのも悪かったようです」


 ティボーとセシールは自分が悪かったかのようにシュンとしてしまっている。

 「あなたたちのせいでは無いわ」と母上が声を掛ける。

 「取り敢えず、一週間はのんびりとするようにという事で、その間を利用して私共がご報告に参りました」

 「ですがアドリーヌ様はじっと出来ないたちの様で、離れの庭に畑を作りたいと仰って・・・」

 「「「畑?」」」皆の疑問の声が重なる。

「それはこの手紙を読んだ方が早いだろう」と父上が先程シャツと一緒に入っていた手紙を此方に渡した。母上と兄上の三人で顔を寄せ合って手紙を読む。


 時候の挨拶に始まるその手紙は、まずはシャツの事に触れていた。『お会いしたことが無いのでどの色が似合うか分からないので、ご夫婦瞳の色に一色足した三色にした事、私の分は父上と母上の瞳の色にしたことが書かれていた。私の瞳の色は母上と同じなので、私の色でもある。後の一色は彼女の色かと思ったら、あったことも無い自分の色が入っているのは怖いかと思い使っておりません』とご丁寧に書いてあった。確かに肉食女子が、自分の瞳の色の小物を送ってきたら即効捨てると思う。


 そして『プレゼントは本当は合って直接お渡ししたかったのですが、半袖を選んでしまったので、社交シーズンまでお会いできない事も考え今回お届けすることにしました』と書いてあった。確かにそれまで会うつもりはなかったが・・・。


 それからやっと畑の話に入る。『自分は基礎魔法で水と土を授かり、スキルで育成を授かりました。父によると、人を育てるのスキルだという事で、弟と自分の侍女候補と弟の従者候補の三人に勉強を教えていた事。皆の成績は上がったのだがそれがスキルによるものか本人たちの努力によるものかははっきりわからない事などが書いてある。スキルを貰った時に水と土で育成とくれば、私は農業をするって事かなと考えた事を思い出したので、この機会に一度農業に挑戦したいと思っている。この試みが上手く行ったら、きっとセギュール家の領地で農業を始めるヒントになるかもしれないのでぜひ許可をしていただきたい』と書かれてあった。


 「父上畑づくりやってもらいましょう」兄上が言った。

 「そうね、令嬢がやる事ではないかもしれないけど、スキルがあるのですから問題ないでしょう」母上も言う。

 「そうだな。タウンハウスから見えない所にのみ畑にすることを許可すると伝えてくれ」


 「それから畑をする前に一度ご実家に帰って休養をしっかりとる様にしてもらってね」

 「では早速タウンハウスに戻ります」と言うティボーに

 「一度お風呂に入り食事をしっかり食べてからにして頂戴。そうでないと倒れてしまうわ」

 「その間に、早くて体力のある馬の準備をさせておく」

 「セシールはこちらにいていいのよね」

 「はい刺繍の図案を伝えてくるように言い使っておりますので」


 やる事が決まってしまえば皆の動きは速い。皆さっとそれぞれの仕事をしに行ってしまった。私は一人談話室に取り残された。

 自分が不本意な婚約を押し付けられたと不貞腐れて、相手のご令嬢の事も今まで私に付き纏っていた肉食女子と同じだと考え切り捨てていた。私の事を良く知るテオがそんな相手を選ぶはずがない事は少し冷静に考えれば解ったはずなのに、考えもしなかった。今までに二通ほど婚約者(仮)改めアドリーヌ嬢から手紙を貰っていたが封を開けてもいない。当然返事も書いていない。取り敢えずシャツのお礼状をしたためて、ティボーに持って帰って貰おうと立ち上がり部屋へと向かった。

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