たとえこの身が滅びようとも、学校とシャワーを(あとトイレも)実装してやる! この異世界に! ~独り身イズミの転生譚~

あんぜ

第一章 王都の少女

第1話 転生ガチャ大勝利

『あなたにチャンスをあげましょう。一度や二度の失敗にくじけてはなりません。素敵な相手と結ばれるその日まで、貴方は27歳から齢を取ることもなく、たとえ死んでもやり直すことができるのです』


 そう言った女神さまは、日本で独り身のまま死んだ私――金城 泉かねしろ いずみ――を異世界へと転生させていくれた。おまけに、恋人を作るのに失敗しても生まれ変わらせてくれるという特典付き。ただ、そのってのが何というか……酷い。27歳から齢を取らない不老不死ではあるけれど、ではない。つまり、恋愛にとかじゃなく、普通に死ぬ……。



 最初に転生してからもう1000年以上経っていた。その中での死因。最初の内は私に与えられた『賢者』の『祝福』の力で、周りの人の『祝福』を目覚めさせていた。ただその『祝福』、人を超えたすごい力を授かると共に、老化を防ぎ長寿を授けられる。そのせいで私の力は特別視された。


 時におだてられ、大事にもされた。だけど大抵の場合は私に価値を見出した人間によってさらわれ、独占され、囚われ、協力しないと酷い目にあわされた。力を使わないと使わないで、貧困で死んだり、身分の差で殺されたり、怪物に襲われたこともあった。中でも特にマズいのが『魔王』と『勇者』。



 魔王は時々この世界に降臨し、魔族を率いて人間の住む領域へ襲い掛かる。魔王は根城を構えていることが多いけど、街中へ突然降臨することもあった。そういうのに巻き込まれて死ぬわけだ。とにかく、魔王が降臨した時代に転生すると碌なことがない。


 勇者は勇者で面倒。彼らは幼いながらもその使命に翻弄され、いずれは魔王を討つことになる。ただ私は、その勇者の使命にたびたび巻き込まれて死んでいた。だから、無闇に他人を『鑑定』しないようにしていた。勇者を見つけた途端、私の運命は決まってしまうからだ。



 そう。この世界にはきっと物語のような運命がある。それは神さまたちが紡ぐ物語。その物語を何もかも覚えていられればいいんだけど、残念なことに私、生まれ変わると記憶の大部分が無くなっちゃうんだよね。特に、過去の転生で関わった人のことは覚えてない。死に戻れないのだ。



 ◇◇◇◇◇



「やっば! 転生ガチャ大勝利! 女神さまありがとおぉぉお!」


 何度目かの転生かはもう憶えてもいないけれど、生まれと生まれた土地のことは大体憶えていた。その生まれた場所の中でも、『王都』は格別恵まれていた。私が生まれ変わる、この女神さまが統べる土地の北半分を占める『王国』の首都で、これ以上ないくらい恵まれた土地。少なくとも野たれ死ぬことはない。


 そして生まれは貴族だった。貴族と言っても、領地持ちの領主だとか、名士だとか、文官・武官、いろいろある。要は上流階級だけど、貧乏貴族だって珍しくない。ただ、今回ばかりは大当たりっぽい。なにしろ元王族の大領主の血族だからだ。元居た世界風に言えば、公爵様の又又姪になる。



 だいたいいつも、4歳くらい――数えなので日本でなら3歳くらい?――で物心がつき、。そうすると『賢者』の力である『鑑定』も使えるようになるんだよね。


 この『鑑定』、他人の祝福を見抜いて顕現させる以外にも、物の情報だとかを詳しく調べることができる。たとえばそう……


 紅茶――『エリックよ。あなたが青臭いと言ったこの茶葉が、熟してかぐわしき紅茶となるように、あなたの若さゆえの憧れもまた、恋心へと変わるのでしょうか……』


(誰よ、エリックって……)


 こんな感じで女神さまは、鑑定結果におかしなフレーバーテキストをご丁寧に斜体で付け足してくれていた。ときどき、その内容に何か思い出せそうなこともあるのだけど、大体は意味のないテキストだった。


 紅茶――イズミという名の少女が生の茶葉を発酵させることで紅茶となることを伝え、その文化も含めて大きな影響を与えた。


(なんだ私か……)


 そう言えばそんなことをしたことがあったのかもしれない。けど、その記憶は私の中には無い。前世で魔族の一団に踏みつぶされて死んだことは何となく覚えていた。でも、その時の自分の名前や、人間関係なんかは全く思い出せなかった。女神さま曰く、何もかも、特に感情を伴う記憶をいつまでも覚えていると、人間のように弱い心ではやがて耐えられなくなるのだそうだ。



 ◇◇◇◇◇



 王都で生まれた私の父親は文官で、母親は元騎士だった。王国では、南部と違って女騎士が珍しくない。私はその父親へ、早い時期からあるをしていた。


「お父さま、トイレというものの構造を新しくしましょう。今のままでは不潔ですし、何より恥ずかしいです」


 貴族のトイレは一部を除いてだった。用を足したら、下男下女に処分されるという羞恥プレイ付きの地獄のような。ただ、これをどうにかしようったって、どうにかできるものではない。けれど、王都の文官なら、王国の政策として提案できる…………かもしれない。


「お父さま、せっかくの水道橋があるのですから、水洗にしましょう。ついでに平民の街へも上水道と下水道を普及させましょう」


 そう。この王都には水道橋がある! 大昔の古代帝国の技術で、遥か北の山奥の巨大な湖から水を引いているのだ。しかもその水は軟水に近い中硬水で飲みやすい。周辺の水がほぼ硬水なことを考えると、すごいことなのだ。


「お父さま、散湯口シャワーです。シャワーのついたお風呂を作りましょう。水浴びを毎日することで、清潔で健康的な生活を維持するのです」


 水道があればシャワーも浴びられる! お湯を沸かす大窯はあるので、貴族はお風呂も入れる。昔の南部には古代帝国の技術で作られた大浴場もあった。できることならあれを復活させたい。


「お父さま、魔術学院を作るのです! 幼い頃から大勢で魔術を学べる場所を、誰もが学べる場所を作るのです。そして成人になっても学び、研究し続けられる大学院を作るのです。これまでの魔術師のように弟子を少人数取るのではなく、大きな教室で大勢を育てるのです」


 魔術師は貴重だった。何しろ、魔術を教える場が整っていなかった。そのせいで過去の多くの魔術が失われたし、魔王との戦いにおいても人間側は苦戦していた。この王国というのは、魔王と戦うために小国がいくつもくっついてできた国だ。だからきっと魔術学院も作ってもらえるはず!



 しかし、肝心のお父さまはいぶかし気にするばかり。

 そして7歳のある日、両親が話していたのを偶然聞いてしまったのだ。


「またエグゼリーヌがおかしなことを言い始めたぞ」

「いつになったら女の子らしくなってくれるのかしら……」


 私のは全く聞き入れられていなかった。そして――


「だが来月、あの噂の賢者様に祝福を見てもらえることになったのだ」

「まあ、ようやくなのですね。これでエグゼリーヌも変わってくれるわ」


(賢者? 賢者って言ったよね!)


 私は女神さまに提案したことがあった。私以外にも賢者の祝福を授けてくれと。私一人ではあまりに特別視されすぎて、祝福を授けて回れないからだ。他にも賢者が居るなら、みんなで大勢の人に祝福を授けて回れるから。


 私の賢者の祝福もその相手に知られることとなる。だけどその賢者はきっと私の苦労もわかってくれるはず。そしたら一緒に祝福を授けて回ろう。誰も彼も区別なく、等しく祝福を授けて回れば、きっとみんな幸せになれるはず。





 ひと月後、その噂の賢者に私の祝福を診てもらえる日がついにやってきた!

 そして賢者は言ったのだ――


「残念ながら、エグゼリーヌ様には盗賊の祝福が授けられていますね」


 なんでぇぇぇええ!?






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