第25話 いざ開戦

準決勝の舞台。スタンドを埋め尽くす観客のざわめきが、ピッチに立つ選手たちの胸を震わせる。

両チームが円陣を組み、互いに声を張り上げた。


宮下「絶対に先にやらせねえぞ! まず一本、最初から全力で行くぞ!」


 円陣を解いた清川の選手たち。その背後から、原田の声が低く飛んだ。


原田「相手のデータは頭に入ってんだろ?」


 一ノ瀬が短く頷き、淡々と口を開く。

一ノ瀬「はい。ボランチの木南と、CBの中山・芹沢を軸にした守備が最大の武器です」


 宮下が続ける。

宮下「得点パターンは主にカウンターからの速攻。木南がリベロみたいに顔を出して点に絡んでくる。……そういう意味じゃ、ウチの松井に似てるな」


原田「それでいい。今日の相手は格上だ。お前らの持てる全てをピッチに出してこい」


「はい!!」


 緊張と冷静さが入り混じる会話。選手たちの視線の先には、すでに整列を終えた東武学園の姿があった。


試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

準決勝の空気は独特で、スタンドを埋め尽くす観客の声援が波のように押し寄せる。


 立ち上がりから、清川は果敢に仕掛けた。

 一ノ瀬が中央でボールを持ち、鋭い縦パスを通す。


松井「行け、朝倉!」


 スピードに乗った朝倉が前を向く――だが、その瞬間、中山が寄せ、体ごと弾き飛ばすように奪い取った。

 こぼれ球は芹沢がカバーに入り、さらに木南が冷静に回収して前へ展開する。


美里「うわっ、全然抜けない!」


 清川の攻撃はことごとく潰され、逆に東武学園のカウンターの起点にされていた。

 黒いユニフォームが一斉に押し上げ、清川の最終ラインを脅かす。


宮下「戻れ! ライン下げろ!」


 必死の戻りでなんとか食い止めたが、攻撃は跳ね返されてはカウンターの繰り返し。


美里「あの中山って人の守備、ヤバすぎ……」


原田「中山の潰しもだが、それ以上に芹沢だ。やつの完璧なカバーで穴がない。加えて木南が高い回収率で拾ってくるから、清川の攻撃は単発で終わっちまう。……敵ながら良い守備だよ」


 開始10分。スコアは動かない。

 だが――清川の攻めと東武学園の守り。両者の色が、早くも鮮明に浮かび上がっていた。


攻防の応酬が続く中、ふと朝倉が隣の一ノ瀬に声をかけた。


朝倉「一ノ瀬、俺にボールを預けてくれないか?」


 一ノ瀬が一瞬眉をひそめる。

一ノ瀬「さっきからそうしてるけど?」


 朝倉は小さく首を振り、真剣な眼差しで続けた。

朝倉「あ、いやそうなんだけど……試したいことがあって。監督、言ってただろ? “やれること全部やれ”って」


 一ノ瀬の口元にわずかな笑みが浮かぶ。

一ノ瀬「ああ。あれね。……分かった。その代わり一回で決めてきてよ」


 観客席のざわめきが遠のいた気がした。

朝倉「そのつもりだよ」

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