第19話 所沢中央の対策

宮下「今日は夏の総体で負けた所沢中央高校だ! 夏の借りは返す! やるぞ!」

部員たち「おうっ!」


 気合のこもった声がグラウンドに響き渡る。あの夏の悔しさを胸に、全員の目が燃えていた。


美里「今日も指示出さないの?」

原田「指示なら出した」

美里「え? うそ?! どんな指示?!」

原田「いつも通りやれってな」

美里「それ指示ないのと一緒じゃん……」


 ベンチのやり取りとは裏腹に、ピッチ上の緊張感は高まっていく。

 リベンジを果たすための90分が、いま始まろうとしていた。



 試合開始直後から、所沢中央の狙いは明らかだった。


 一ノ瀬がボールを持てば、すぐさま二人が寄せ、前を塞ぐ。

 得意の縦パスも、横パスもことごとく潰される。


一ノ瀬(全然……前を向けない)


 清川はリズムを作れず、前線の朝倉と米田も孤立していた。


 逆に所沢中央は、中央で細かくボールを回して清川の守備を揺さぶる。

 動かないディフェンスを尻目に、じわじわとリズムを掴んでいく。


 やがてボールは中央のゲームメーカー、西川の足元へ。


西川(……ここだ)


 誰もがパスを予測したその瞬間――。

 西川は迷いなくゴールへ向かって右足を振り抜いた。


 ――ズドンッ!


 鋭いロングシュートがゴールを襲う。

 GKの指先をかすめ、ボールはクロスバーを越えていった。


観客「おおおっ!」


 スタンドがざわめき、清川ベンチにも緊張が走る。


美里「な、なに今の……! めちゃくちゃ怖いよ!」


 宮下が前へ出ようとした――だが、横の松井が小さく首を振る。

 宮下は奥歯を噛み締め、その足を止めた。



 ――その数日前。所沢中央高校、部室。


部員A「西川、清川を倒す方法ってやつを教えてくれよ」


西川「いいか。清川は確かに格下だ。だが今は勢いがある。油断するな」


 部室の空気が一瞬で張り詰めた。西川はホワイトボードに名前を書き出す。


西川「まず攻撃の核は三人。

 一人目はFW・朝倉。あいつはどんな形でもゴールを狙える“点取り屋”だ。勢いに乗せると厄介だ」


部員B「確かに、あの11番は怖いな」


西川「二人目は米田。運動量があって、やたら走り回る。馬鹿みたいに走るからマークが外れるんだ。フィジカルもある。派手じゃないが無視できない」


部員C「……厄介だな」


西川「そして三人目が一ノ瀬。清川の心臓だ。

 朝倉や米田を活かすラストパスは、全部こいつを経由している。だから俺たちが狙うのは“一ノ瀬の封じ込め”。ここを潰せば清川は攻撃できない」


 西川の声に、全員が頷く。


西川「次に守備。

 キャプテン宮下。守備は宮下を中心に上手く統率されている。おまけに高さと守備範囲は、かなりのものだ。だが欠点もある。――肝心な場面では人に任せられない」


部員A「……つまり?」


西川「中央で細かくボールを回せば、宮下は必ず食いついて前に出てくる。その瞬間、清川はゴール前の司令塔を失い、スペースが空く。そこを突けばいい」


 しんと静まり返った部室に、西川の言葉が突き刺さった。


西川「いいか。清川は変わった。前の総体の清川じゃない。――だが、それでも倒す方法はある。

 一ノ瀬を潰し、宮下を釣り出す。勝負はそこだ」



 再び現在。埼玉県選手権準々決勝、清川vs所沢中央。


 ピッチ中央では、西川が余裕を漂わせながら味方へボールを散らしていた。

 清川は一ノ瀬が封じられ、前線にボールが入らない。

 宮下も飛び出すのを堪えながら、後ろを必死に統率している。


 一度、二度とボールが回される。宮下の視線が揺らぎ、足が前に出かける。


西川(……いいぞ。宮下の我慢もそろそろ限界だろ)


 観客席からも「清川、押されてるぞ!」とざわめきが広がる。


美里「清川……全然攻められてない……!」

原田「……」


 原田は腕を組んだまま何も語らず、ただピッチを見ていた。



 前半終了。スコアは依然0-0。

 だが、主導権は完全に所沢中央にあった。

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