異能ランク0のダンジョン配信者、裏では人知れず世界守ってます
銀髪卿@書籍発売中
第1話 同接0人の配信者
日の光が届かない、地に穴を穿った深い
物陰から飛び出した一匹の黒狼が、俺の喉仏を食い千切らんと低い唸りを上げた。
存在に気づいた俺は右手に短剣を
「えっと、動物骨格のモンスターは基本、急所も動物と同じです。なので、こうして頭をヤッちゃえば楽なんですよね〜」
虚空に向かって話しかけた俺の言葉に誰かが反応することはない。
飛散する青い血糊を避けた俺の視線の先で、受け身も取れずに地面に全身を強打した黒狼が一度大きく痙攣して絶命した。
まもなく肉体は青黒い煙へと蒸発して、異臭を撒き散らす。
「こういうのは毒って相場が決まってるから落ち着いて避けます。知ってたら怖くありません」
洞窟という逃げ場のない空間で、最悪の残しっ屁。
鼻の奥に突き刺さる異臭に顔を顰めた俺は、ふと、襟に付けたブローチ型の小型端末を操作した。
すると、目の前の空間に“配信画面”が投影される。
画面に映るのは、明度補正を通してもなお薄暗い洞窟の中に一人立つ、迷彩柄の救助服を着た黒髪の男。
何を隠そう俺——
「あ、コメントありがとうございます! えーと『そんな雑な攻撃で倒せる訳ないだろ、釣り乙』………………同接減った」
——そして、画面左端に映る同時視聴者数は、たった今ひとつ減って、迫真の『2』。
一人は配信主である俺。そして、もう一人は提出用の録画端末。
つまり、実質視聴者数は貫禄の『0人』だ。
「さっきまで同接4人だったじゃん!……はあ〜あ」
つい、大きな溜め息がこぼれた。
見に来てくれた二人は、きっと単調な戦闘に飽きてしまったのだろう。もしくは、俺のトークがつまらなさすぎたのか。
「……お前らがもう少し歯応えがあればなあ?」
トーク力だったら悲しいので、すでにこの世を去ったモンスターたちに責任を押し付けることにする。
こんな事をすれば祟られそうなものだけど、既に視聴者数0とかいう呪いとしか思えないような数字を叩き出しているから今更だ。
「
帰ってくるのは、洞窟内に響く自分の足音と、どこかに潜むモンスターの仄かな息遣いだけ。
「ん゙ん゙っ……。こんな
…………………………………………。
……死にたくなった。いっそ殺せ。
その後も俺は薄暗い洞窟型の
しかし、その間も視聴者数が安定することはなく、ついぞ同接が5人を超えることはなかった。
「どうやったら視聴者って増えるんだ……?」
チャンネル登録者数は11人。
これ、全部身内のお情けだから実質0人みたいなものなんだよな……おかしいな、目から汗が。
「あーあ。俺もなんかをキッカケにバズらないかなあー!」
◆◆◆
——なんてノリでバズれたら俺は苦労してねえんだよ、と。
「いっそ笑えてくるほど“凪”だ……」
チャンネルのライブ配信履歴に並ぶ大量の迷宮攻略配信。再生回数は、軒並み二桁前半。
17歳の時にチャンネルを開設してから四年が経つってのにこの始末。最早貫禄すら感じさせる。
「どうしたもんかなあ……?」
同居人が全員外出中で閑寂としたシェアハウスに俺の嘆く声だけが響く。
「やっぱりアレか? もっと見栄えのいい戦いした方がいいのか? でもなあ、俺の“異能”って地味だしなあ……」
俺は右手を空中にかざし、体を巡る血液とは違う
すると、骨の中を雷が駆け抜けるような刺激を経て、白雷が右手のひらに収束。次の瞬間、白銀の刀身をもった
「使い勝手は良いけど……地味だ」
俺の異能は武装の鍛造。
イメージした武器を形にする、シンプルで使いやすい力だ。
俺自身はとても気に入ってるのだが、いかんせん、配信業とは相性が悪い。
あと、具象化系能力は割と珍しくないから集客に向かないとか。
やれることと言えば相手に合わせて適切な武器を選び、的確に急所を突いて仕留めることくらい。
はっきり言って、画面映えに欠ける。
ド派手な魔法でモンスターを吹っ飛ばしたり、超人的な身体能力で圧倒したりする方が、どうしたって見栄えがいい。
「……『小中学生に聞いた憧れの職業ランキング』で
脱力してソファに沈み込んで悲しみを表現……なんて浸っていると、スマホに一件の着信があった。
連絡元は——マネージャー。
「うげぇ」
今一番関わりたくない相手からの電話に辟易しながら通話ボタンをタップした。
「もしもしマネージャー。チャンネル登録者数の件には触れないでください許してくださいこの通りですぅっ!!」
『うわビックリした。どうしたんですか急に。あとそれについては諦めてるので触れもしないですよハハハ』
「は、ははは……そっすか」
一番心に来る返しだった。死にてえ……。
『まあ元気出してください、貴方の実力は僕がよくわかってます。それにレンさん、別にバズることが目的じゃないでしょう?』
それはそうなんだけど。
コンスタントに
それに、あの人は……師匠は、配信が好きだったから。
「でも隣の芝は青い……っ!」
「まあ、気持ちはわかりますよ」
「で、颯太さん。要件は?」
『急に冷静になるじゃないですか。えっとですね』
電話先のマネージャー、
『仕事です、
その
『今から3分前、17時41分。墨田区京島にて協会未登録の異能波形が観測されました。よって現時刻をもって、現場対応の全権限をシロガネに付与します』
「了解。現場に急行する」
通話を切って、リビングを後にする。
俺は素早く自室のクローゼットから灰色のコートを取り出して、フードを目深に被った。
◆◆◆
大都会東京。
しかし、そんな東京にも光の届かない場所はある。
いや、むしろその明暗はより濃くなったと言えるだろう。
「同じ異能者だったみてえだが、相手が悪かったな」
京島の一画。文明の光が弱い路地裏で、スキンヘッドの大柄な男が細身な少女の顔面を容赦なく踏みつけた。
「あぐっ……!?」
頭から流れた血が、コンクリートの上に散らばる少女の艶やかな銀髪を醜く汚してゆく。
「ランク3同士……戦闘経験の違いってやつだ」
体表に薄く氷を纏う男の気配は尋常なものではなく、春先の夜といえど、吐く息が白く輝く様は異常の一言に尽きた。
「こんなところをほっつき歩いてたテメェの運の無さを嘆けよ、女」
「がっ……あ゙あ゙っ!?」
少女の右手が動き、反撃を試みようと指先が震える。
生成されたのは、小さな手のひらサイズの火球。
「つらぬ、け……!」
精一杯の抵抗で少女が射出した火球は、しかし。執拗に繰り返されるスタンピングに意識が明滅して狙いが逸れ、男の左肩を掠め、Tシャツを焦がすだけに留まった。
少女の綺麗な蒼い虹彩が濁り、焦点がブレる。
「ぅ、ぁう……」
「人質も邪魔になる任務だからなぁ、とっとと死ね」
命乞いも遺言も許さない姿勢の男は、右足裏に氷のスパイクを生成。コンクリートごと少女を踏み砕く勢いで振り下ろした。
——直後、右の脇腹を襲った激しい衝撃に男の体がその場から吹っ飛ばされた。
「ぐっ……、なんだ!?」
転倒を堪えた男はすぐさま衝撃を受けた方向を睨みつける。
「新手——?」
そこには、フードを目深に被った灰色の人影があった。
人影はポケットから取り出した
(…………な、に?)
割れるような痛みが引いていく感覚。
ほんの少しだけ焦点を取り戻した少女は、薄れゆく意識の中で、自分を守るように立ち塞がる灰色の影を見た。
(だれ、か…………きた、の?)
間もなく、少女が意識を失う。
それを確認してから、灰色の影……シロガネこと|月城レンが昏い眼差しを男に向けた。
「パスポートはあるか?
「異世界人? 何を根拠に」
スキンヘッドの男は両手のひらを上に向け、肩をすくめてとぼけてみせる。
「何を見たか知らねえが、俺は襲われたのに対処しただけだぜ? そっちの女の方が——」
「その左肩のタトゥー、“ウェリオン”のものだろ」
「っ!?」
シロガネの指摘に男の顔色が変わる。
慌てて左肩を見ると、シャツが焼けたことで男の所属を表すタトゥーが露出してしまっていた。
「あの女ァ……!」
「足下を掬われたな」
「よくも……いや、そもそもテメェ知って…………そうか。テメェが『執行者』
男の全身から冷気が噴出し、両手両足が獣を模した氷の爪に覆われた。
「ってこたぁ、ここで殺しちまえばいいって事だよなぁ!?」
突貫する。
コンクリートにひびを入れるほどの脚力で飛び出した男に対して、シロガネはゆるりと前へ。
「死ね、執行者ァ!」
「——『想造摘出』」
シロガネの右手に白光が弾ける。
目を焼く閃光の内側から生み出されたのは、三節棍。
交錯の刹那、最大遠心力で振り抜かれた棍が男の顎を痛烈に撃ち抜いた。
「カッ…………!?」
突進の勢いのまま半回転した男が、背中からコンクリートに叩きつけられ苦悶の声を漏らす。
ぐらぐらと揺れる男の視界は辛うじて、三節棍を振り抜いた姿勢で静止するシロガネの姿を捉えた。
「なに、が…………?」
自らの敗北を理解する間も無く、男は白目を剥いて昏倒した。
「……任務完了。現時刻をもってシロガネが保持する権限を司令部に返還する。なお、捕虜の拘束権限は引き渡しまで保持するものとする」
『了解。回収班を手配したよ』
「あと一人、民間の異能者が巻き込まれた。救護班を要請する」
『そちらも了解した。シロガネは引き渡しまで待機を』
「了解。通信終了」
通信を切ったシロガネは、深呼吸をひとつ。
気絶した男を精錬した鎖で雁字搦めに拘束し、その上にどっかりと腰を下ろす。
フードの内側の表情は、月城レンに戻っていた。
「……すまない。もう少し早く来れてたら、お前に怖い思いをさせずに済んだのに」
意識のない少女はレンの言葉に答えない。
レンは静かに、地上を見守る月を見上げた。
——数十年前、突如として地球に出現した、
自然災害として、恵みをもたらす資源の宝庫として認識されるようになった
水面下で行われる侵略に人類が気づいた時には、
これに対して出された結論は、隠蔽。
——月城レンは、その一人。
うだつの上がらない底辺
その二つが、月城レンの変わらない日常。
今日の仕事も、その一幕に過ぎない。
……その、はずだった。
「——
助けた少女がまさかの
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