観測ログ31:猫と魔女

王都に来て、ひと月が過ぎた。


 歓迎会の翌日、ライガとミアは教会を訪ね、ミニーに会おうとしたが…


──王都・聖神教会


 荘厳な雰囲気の中、ステンドグラスから差し込む光が床に模様を描く。


「すげー……でっけー……」

 

と、見上げながら呟くライガ。


「うわー、音が反響してる。ここのお祈り、ぜったい声キレイに聞こえるよ!」


 ミアは無邪気にキョロキョロしている。


 正面の受付には、落ち着いた雰囲気のシスターが座っていた。


「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いしても?」


「えーと、俺たち《咆哮の剣》ってパーティーのもんで……ミニーさんって人、いませんか?」


「はい。ミニー?ああ、ドミニク枢機卿ですね。少々お待ちくださいませ……」


 シスターが帳面を確認して、顔を上げる。


「申し訳ありません。ドミニク枢機卿は現在、遠方の依頼で教会を離れております」


「遠方?」


「はい。今は南部の辺境に向かっていると聞いております。しばらくは戻られないかと……」


「そっかー……まあ元気そうならいいけどさ」

 ライガが頭をかく。


「じゃあ、伝言お願いできますか? 王都に着いたことと、話があるから、戻ったら《双律の剣》のクランハウスに連絡ほしいって」


「かしこまりました。……念のため、ご関係をお伺いしても?」


「あっ、あたしたち! その、ベルツ村で依頼で一緒に戦って、仲間だったんです!」

 

ミアが一歩前に出る。


「確かに……それだけではお伝えしづらいかもしれません。ドミニク枢機卿は、王都教会内でもそれなりの立場にございますのでそう言った話も多くありまして……」


「そっかー……やっぱちゃんとした伝手じゃないと厳しい感じか」


「申し訳ありません。ただ、正式な紹介状や手紙があれば、確実にお届けできます」


「うーん、じゃあ……後で“静なる剣”の方に書いてもらうか。Aランク様の力、ちょい拝借だな」


「うぉ、エリシアさんにお願いしてみる~?」


「こういうとき冒険者ってのは辛いな」


 ライガが軽く肩をすくめると、シスターが微笑む。


「ご事情、お察しいたします。手紙をお預かりすることは可能ですので、ご準備ができましたら、またお持ちくださいませ」


「ありがとう、助かった!」


「感謝するぜ、シスターさん。」


その件、静なる剣に相談してみたところ──


「ミニーに手紙を渡すなら、私よりグラディオの名前を使ったほうがいいわね。あの教会、結構お堅いから」


とエリシア。


というわけで、リーダーであり貴族でもあるグラディオに正式な手紙を書いてもらい、あのシスターに託しておいた。


──Aランク冒険者の立場、こういう時には意外と役に立つ。


中でも、「クラン」という仕組みは本当に便利だと思う。


俺たち《双律の剣》は、一つの大きなパーティーとして扱われるから、同じクランの“静かなる剣”ともスムーズに連携が取れる。


今は、依頼ごとにメンバーを組み替えながら、経験を積んでいるところだ。



◆ ◆ ◆



──魔術師のメンバーについては、ギルドを通じて募集をかけているのだが、今のところ応募はゼロ。


 リョウカさん(いつもの受付のお姉さん)によると、「この世界では魔術師自体が珍しく、そのほとんどが国に仕えていて、冒険者になるのはごく一部」なのだという。


 そんなある日のこと。


 いつものように依頼を終えてギルドに戻ろうとした帰り道、受付カウンターから声がかかった。


「咆哮の剣の皆さん、ちょっといいですか?」


 いつも担当してくれる、仕事のできる受付嬢リョウカさんが手を振る。


ベルツ村のラナと違って、ちゃんと頼れるタイプだ。


 リョウカさんの傍らにいたのは──


 とんがり帽子に黒いローブ、まるで絵本から抜け出したような「魔女の格好」をした、10歳くらいの小さな女の子だった。


「この子、最近ギルドに登録したばかりの“魔術師さん”なんだけど……後衛で小さい女の子ってこともあって、ソロで依頼を受けてもらうのも不安でね」

「そこで、ほら、あなた達魔術師を募集してたから、どうかなー?って思って」


 にこやかにそう言うリョウカさんに、ライガが渋い顔をする。


「うーん。そりゃ魔術師は探してたけど……まだ子供だろ。大丈夫なの?」


「依頼なら考えるけど、タダで子守りはゴメンだよー」


「ふん、なめられたもんじゃな!」


 ぷくっと頬を膨らませながら、魔女っ子は声を張った。


「こう見えて、ワシはお前らよりずっと歳上じゃぞ! ちとお灸を据えてやらねばならぬようじゃの!」

「それにそこの女。ワシは魔術師じゃなくて魔女じゃ!」


 その瞬間、小さな身体からあふれ出す、異質な魔力。


「うわ、ここじゃまずいって……!」


 ヴォイドが慌てて止めに入る。


「──あー、魔女さん。とりあえずここじゃあれだし、一回落ち着いて話そっか」


「……む。ヴォイドがそう言うなら、聞いてやらんこともないがの」


(……あれ? 俺、名乗ったっけ?)


「はいはい、じゃあ一旦クランハウスで話そっか」


「お願いしますねー」


 リョウカさんは涼しい笑顔で手を振る。


 ──してやられた感がすごい。

 だが、今はそれどころではない。


「えー連れてくのかよ……」


「ヴォイドが子守りね〜♪」


 ブツブツ文句を言う二人をなだめつつ、魔女っ子を連れてクランハウスへ戻る。



◆ ◆ ◆



「で、魔女さん。まず名前は?」


「シュレイじゃ!」


「ん? なに?」


「だ・か・ら、シュレイじゃ!」


「……うちの猫と一緒だな」


「で、どんな魔術が使えるの?」


「ワシは“魔術師”じゃなくて魔女じゃ。魔術など使わん! 魔法ならなんでも得意じゃ!」


「いや、どっちも同じだろ?」と、ライガがツッコむ。


「え、魔法使い? 珍しいってきいたけどまだいるんだな……」


 会話が盛り上がってきたところで、タイミングよく静なる剣の面々が帰ってきた。


 ──そして、エリシアがシュレイの姿を見た瞬間。


「……うそ、どうしてその格好でいるのよっ!?」


 駆け寄ろうとしたが慌てたのか、つまづいて倒れ込み、ヴォイドにし抱きつく格好になる。


「(……久しぶりにありがとうございます)」


「いや、こやつらが“メンバー探してる”って聞いて面白そうだから来たのじゃ」


「“来たのじゃ”じゃないでしょ! 猫ならともかく、来ちゃダメよ!」


「エリシアさん、知り合い?」


 ライガが聞く。


「知り合いもなにも……この子──いや、この方は、《観察者》とも言われている原初の魔女よ」


「なにそれ?」とミア。

「それは強いのか?」とライガ。


「え、この魔女っ子が《観察者》?」とヴォイドも目を見張る。


「強いも何も、怒らせたら世界が滅びるわよ」


「そんなにか!」

「じゃあ合格で! よろしくね♪」


「よろしくねじゃないわよ! ダメよ、ダメ! 反則よ! あなたはこの世に干渉しちゃダメなはず。猫に戻りなさい!」


「名前一緒だと思ったら……」


どうりで目がオッドアイで、髪もツインテールで、しっぽみたいだと思った!


「大丈夫じゃ。そのへんはうまくやるのじゃ」


 キラリと金銀の瞳が笑う。


「なにより、ヴォイドは面白そうじゃからの。側で観察したいのじゃ!」


「──もー、どうなっても知らないからねっ!」



◆ ◆ ◆



こうして、突如現れた“猫似”の魔女シュレイは、《咆哮の剣》のパーティーに加わることになった。


その正体は、ベルツ村から着いて来た”猫”であり、実はこの世界を見守る《観察者》でもあった。

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