電炎の咆哮



燐&真白 VS 氷室&土岐

の戦いが激しさを増す一方


-------柏木大牙 vs 雷堂虎


濃密な空気が、火花と熱気で歪む。


「ハッ……まさか炎で俺に挑むとはな!」


雷堂虎がにやりと笑う。体中に電流をまとい、肩から腕にかけてビリビリと音を立てて光が走る。


対する柏木大牙は、その両拳に炎を灯し、ぐっと拳を構えた。


「上等だ……電気だか何だか知らねぇが、全部まとめて燃やし尽くしてやるよ!」


拳と拳の応酬が再び始まる。


――バチィッ!!


雷堂の右拳が柏木の炎をまとった拳と激突した瞬間、閃光と爆音が周囲を揺らす。


「ちっ……!」


柏木が後退する。拳が軽く焼け、わずかに焦げ目を帯びていた。


「炎は電気を通す。それをわかってなかったとは言わせないぜ?」


「チッ……知ってたよ。だけど……!」


柏木は拳を握り直すと、地面を蹴った。炎を纏った肘打ちが雷堂の腹を狙う。


「――だからこそ、力で押し通すまでだろ!!」


ゴッ!!


今度は雷堂が吹き飛ぶ。数メートル先の壁に背を打ちつける。


「……っはは、マジでバカ力かよ……おもしれぇ……!」


雷堂は立ち上がり、口元の血を拭う。


(たしかに、炎の温度が高まれば、空気の絶縁が破れる前に俺の電流も暴走する。下手に近づけば、こっちも危ねぇ……)


「くそ……あいつ、突っ込むばっかかと思ってたけど……案外考えてやがる」


互いに一撃を浴びせたまま、再び距離を取る。


「じゃあ、今度はこっちから行かせてもらうぜ。加減は……しねぇ!」


雷堂の全身に稲妻が走る。電気が筋肉を増幅し、踏み込みとともに爆発的な速度を生み出す。


その一撃――音速に迫る拳が、柏木の目の前に迫る。


「オラァッ!!」


「ぬぉおおっ!!」


炎と雷がぶつかり合う。


――爆音。


地面が割れ、周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。光と熱の交錯に、視界が一瞬白く染まった。


だが、倒れた者はいない。


拳と拳がぶつかり合い、火花を散らす二人の巨漢が、真正面から睨み合っていた。


「……まだ、終わりじゃねぇよな?」


「当たり前だ……“負けられねぇ理由”があんだよ、こっちにもな」


拳が、再び握られる。


熱気と電気の火花は、なおも鳴り止まない。


――



地面が焦げ、空気が震えていた。



雷堂 虎。

その肉体を電気が這うように流れ、筋肉が膨張するたびバチッと火花を散らす。

全身から立ち上る蒸気のような熱気は、まるで変電所がそのまま歩いているかのような異様さだ。


対する柏木 大牙は、足元に焦げ跡を刻みながら立つ。

拳に宿すは《ブレイジング・フィスト》。

拳を握るだけで、周囲の空気が陽炎のように揺らめき、肌を焦がす灼熱の“気”が渦を巻いていた。


「へっ……近づいただけで熱いな。さすがに電気通しやすい相手だぜ、お前の炎は」


雷堂が口角を上げる。

だがその余裕の笑みの裏に、確かな警戒があった。


(炎の温度が高けりゃ高いほど、空気中の分子運動も激しくなり――絶縁性が下がる。つまり、オレの電撃が火花を飛ばす前に、あいつの熱で暴発しかねねぇ)


それは、“熱イオン化”と呼ばれる現象。

空気が一定以上の温度に達すると、分子が電離し、プラズマ状態に近づく。

通常は電気を通さない空気すら、炎の熱によって導電性を帯びるのだ。


「だけど――面白ぇじゃねぇか。だったらこっちは……その炎ごと貫くだけだ!!」


雷堂が突っ込む。


「《雷迅強化(サンダーフォース・ギア)》――最大出力ッ!!」


筋肉が膨張し、電撃が四肢を駆け巡る。地を蹴るたびに破裂音のような爆発が起こり、彼の身体が残像を描きながら加速する。


一方の柏木も拳を構えた。


「上等だ……“熱さ”なら――誰にも負けねぇ!!」


「《烈拳噴打(レッケン・バースト)》!」


彼の拳から立ち上がるは爆風のような火炎。

腕を振るだけで、炎の衝撃波が空間を押し返す。


「らぁあああッ!!」


「オラァアアッ!!」


衝突――。


《電撃》と《爆炎》。

二つの力が、真っ向から激突した瞬間、衝撃波が球状に拡散し、地面がめくれ、空気が閃光に裂かれた。


ゴオォォン……!


一瞬、時が止まったかのような轟音。

柏木の炎が生んだ高温と、雷堂の電撃が引き起こしたプラズマが融合し、まばゆい閃光が空間を覆い尽くす。


(電気と炎がぶつかれば、プラズマが生まれる)

(しかも……炎の帯電で、雷堂の電撃が偏向されて――!)


爆心地に生じたのは、音速を超えるプラズマ衝撃。

その熱は破片が空中で蒸発して煙になるほどだった。


「クッ……!」


柏木が咄嗟に腕で顔を庇い、後方へと飛び退く。

服の袖が焦げ、肌の一部がうっすら赤く染まる。


「ちっ……マジで電気の出力だけは一級品かよ」


だが――雷堂もまた、左の拳から煙を立てていた。


「……クソ、炎の熱圧、想像以上だ。拳が焼けるかと思ったぜ」


その視線に、恐れはない。

むしろ、互いの“攻撃が通じる”ことへの歓喜があった。


そして。


「だったら……技(これ)でいくぜ」


雷堂が、肩をグルンと回す。

電撃のエネルギーが腕に集中し、雷の蛇のように巻きつく。


「《雷腕轟砕(らいわん・ごうさい)》――こいつは、拳に電荷を圧縮して叩き込む一撃必殺だ」


「お前の炎がどんなに熱かろうが……殴り抜けるまでさ」


「……なら、こっちは」


柏木も拳を振り上げる。


「《爆炎重撃(ばくえん・じゅうげき)》――拳の内側で熱を凝縮し、打ち出した瞬間に炸裂させる。お前の電撃ごと、燃やし尽くす!!」


拳と拳が構えられる。

互いのコードが極限まで高まり、周囲の空気がピリついた。


そして――


「いくぞ、筋肉バカ!!」


「おうよ、雷ねこ!!」


ドォオオオッ!!!


激突――!


炸裂したのは、まさに“熱と電撃”の融合。


地面が陥没し、鉄骨が熱で融解し、音速を超える雷鳴が響き渡る。


炎によって生まれたイオンが雷の導線となり、拳と拳の衝突箇所でプラズマ爆発が発生する。

一瞬、視界が真っ白になり――


何かが爆ぜた。


熱と電撃。

どちらが優勢か、誰も分からない。


だが――


決着は、まだ先だ。


二人の影が、土煙の奥で再び向き合っていた。


「……ハァ、ハァ……」


「……へっ、まだまだ……止まる気ねぇよな」


拳が、再び握られる。


勝負は、まだ続く。


----


一瞬、場に重い沈黙が降りた。


その空気を裂くように、氷室紅が静かに右手を掲げた。


「まずは――あなたから消えてもらいますわ」


その視線の先にいたのは、天音真白。


(来る……!)


真白はすぐに構えを取り、前へ一歩。


「《響盾律壁(きょうじゅん・りつへき)》!」


彼女の手元から光の粒子が広がり、半透明の防壁が空間に展開される。氷室の放つ氷弾が空間に溜められ、その一点へ向けて打ち放たれる寸前だった。


――氷室の狙いは明確だ。

回復能力を持つ真白は、この戦場における“最大の不確定要素”であり、“勝利を削ぐ因子”。


その真白自身もそれを感じ取っていた。


(……分かってる。私の力は、守る力。けど、それだけじゃ足りない)


全身を刺すような冷気。氷室の術式によって支配されたこの空間で、防戦を続けることは、決して簡単なことではなかった。


だが。


「リンくん、今のうちに!」


真白は叫ぶ。盾を重ね張りしながら、氷室の視線を引き受ける。


その一言で、燐の動きが変わった。


「真白、無理はするな……!」


そう言いながらも、燐は即座に動いた。氷室と真白の間に現れたのは――土岐。


「回復役を守るのも、立派な戦術だが……」


土岐が拳を地面に突き立てる。


「それをさせるわけにはいかねぇ!」


地面が波打ち、鋭利な岩槍が真白に向かって伸びていく。


「っ!」


だが、岩の直進を阻むように――燐が飛び込んだ。


「止まれ!」


燐の光剣が岩を裂き、土岐の動きを封じる。


その立ち姿には、焦りも、ためらいもない。むしろ静かな決意と闘志が、その瞳に宿っていた。


(時間がない……このままじゃ、真白が狙われる。だから……)


その声に、土岐が目を細める。


「……あ?」


次の瞬間、燐の身体から、粒子の風が吹き上がる。


光の粒が身体に巻き付き、爆発的な輝きを帯びていく。


「あまり時間掛けれないのでね」


土岐の背に冷や汗が流れる。


「なんだ、この……オーラ……?」


淡く、青白い光。だがその密度は、目視できるレベルで空間を揺らすほどに濃い。


燐はその場に立ったまま、ただ一言、力強く告げる。


「《叛逆・光纏装(こうてんそう)》――発動」


――その瞬間。


藤宮との訓練の記憶が、燐の脳裏にフラッシュバックした。



「この技、かなり強力だよ。でもね――」


「ハァ....ハァ」


叛逆・光纏装を解除した燐は息をあげていた。



藤宮るるは手元のぬいぐるみを地面に置きながら、真剣な目をして言った。


「リビドーの消耗、すっごく激しいみたい。光を細かく操るってことは、それだけでエネルギー使っちゃうの」


「……だから?」


「だから、これは“切り札”。いざって時にだけ使うの」


少しだけ目を細めて、るるは微笑んだ。


「使ったら――倒れる前に、敵をぶっ倒せ! それが、この技の鉄則っ!


---------



「悪いがこの技を使ったからには、すぐに決着をつけさせてもらう」

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