第14話「sound」

今日の英単語:sound(サウンド)/意味:音、響き、健全な、聞こえる



 廃都グレイヴ・ルーンを後にして、俺たちは山を越え、森を抜けて、静かな村へとたどり着いた。

 名前はあった。だが、誰もその名を口にしない。


「……静かすぎる」


 ミアが囁いた。


 その言葉通り、そこには“音”がなかった。

 鳥のさえずりも、風の葉擦れも、子どもの声も、まるで――この世界から音という概念が消えてしまったように。


 村人たちは生きていた。井戸を汲み、畑を耕し、家族と食卓を囲む。

 だが、誰も言葉を交わさず、誰も声を出さなかった。



「……この村、何かがおかしい」


 広場に掲げられた木製の看板には、擦れた古い英語が残されていた。


SOUND IS DANGEROUS

(音は危険)


 その下には、錆びた鐘と、壊れた楽器。

 まるで“音そのもの”が、この村でタブーとなった証のように。



 俺たちは村の長老のもとを訪ねた。

 彼もまた、声を持たない。意思は、筆談で交わされた。


「昔、この村には“音を喰らう魔物”がいた」

「誰かが音を立てると、その方向から現れ、命を奪った」

「音は奪われ、言葉は消えた」

「以来、私たちは“沈黙”の中で生きている」


「そんな魔物が……」


 ミアが息をのむ。


 長老は、こちらに紙を差し出した。


「お前たちが持つのは、“言葉の記録”。ならば、音を取り戻す力もあるだろう」



 夜、村の広場で、俺は“Key”と“Grave”のスキルを発動した。

 言葉の墓から得た“忘れられた響き”を呼び起こすために。


「sound」


 俺は、そっとその言葉を口にした。


 次の瞬間――


 風が吹いた。

 草が揺れ、葉が擦れ、どこからともなく、小さな“音”が生まれた。


「音が……戻ってきてる……!」


 ミアが驚きの声を上げた。

 だが、それは“呼び水”に過ぎなかった。


 地面が揺れた。



 森の奥から現れたのは、影のような魔物だった。

 輪郭は曖昧で、音の発生源へと這うように近づいてくる。


「こいつが、“音喰い”……!」


《スキル【Sound】を覚えるには:音を乗り越えること》


「試すしかない……!」



 俺は地面に手を置き、口を開く。


「sound――これは、言葉の力だ!」


 魔物が襲いかかってくる。

 そのとき、ミアが懐から取り出したもの――それは、小さな鈴だった。


「私、これ……リゼから預かってたの。音が怖くなったら、思い出してって」


 彼女が鳴らす。


 ちりん、と。


 小さな、小さな音だった。だが、確かに“誰かの想い”が宿っていた。



《条件を満たしました》

【スキル取得:Sound】

──“響き”に関わる魔力・言語を操作可能。音の発生・遮断・伝播・記憶などを制御できる



 魔物は、音に込められた“感情”に戸惑い、そして……静かに消えていった。

 まるで、何かを思い出したように。



 夜明け、村に初めて“笑い声”が戻ってきた。

 子どもたちが鈴を振り、老人たちが歌を紡ぐ。


 失われていたのは、音だけじゃない。

 言葉と、心と、繋がり――すべてだったのだ。



「音って、ただの物理現象じゃないんだな」


「うん。誰かの気持ちが重なると、それは“言葉”になる」


 そう、soundとは、ただ聞こえるものじゃない。


 “伝える”ことそのものなのだ。



✅ 今日の英単語


sound(サウンド)

意味:音、響き、健全な、聞こえる

例文①:The sound of laughter returned to the village.

(笑い声が村に戻ってきた)

例文②:She sounded brave, even when she was scared.

(彼女は怖がりながらも、勇敢に“聞こえた”)



次回:


第15話「voice」


(声とは何か。感情を伝える“言霊”が、次なる試練の扉を開く)

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