第5話「swift」

今日の英単語:swift(スウィフト)/意味:素早い、迅速な



 森の出口で、俺ははっきりとそれを見た。

 影が走った。まるで風のように、地面を擦る音だけを残して。


「……速い!」


 気づいたときには遅かった。

 荷車に積まれていた避難物資が、一瞬のうちに盗まれていた。


「またアイツだ! “赤い影”の盗賊!」


 村人たちが口々に叫ぶ。

 ここ最近、避難用に集めた食料や薬品がたびたび盗まれていたらしい。

 誰も姿を見た者はいない。残されるのは、赤いスカーフの切れ端だけ。


「ハルトさん……どうか、犯人を捕まえてください!」


 ルークが頼み込んでくる。けれど——


「……無理だよ、あんな速さじゃ。目で追えなかった」


 どれだけ“ignite”で火球を飛ばしても、“detect”で気配を探っても、相手が速すぎれば追いつけない。

 今の俺には、「スピード」がない。それが決定的だった。


 だけど。


(だからこそ、“言葉”を探すんだ)


 思い浮かんだのは、スピードを意味する単語。

 ゲームのスキルでもよく聞いた。けれど、本気で意味を知ったのは、今が初めてだった。


swift —— すばやい、迅速な


 それはただのスピードじゃない。

 必要な瞬間に、必要な動きを即座に起こす能力。


(覚えろ、理解しろ……!)



《条件を満たしました》

【スキル取得:Swift】

──短時間、身体能力を強化し移動速度を大幅アップ



「よし、これなら……!」


 気配を探るために“detect”を発動。微かに残る足跡、葉の揺れ、草の裂け目を追う。


「……こっちだ!」


 “swift”を唱えた瞬間、身体が軽くなる。

 足が地面から弾けるように離れ、風の中を駆け抜けた。

 視界が加速する。すれ違う木々が、まるで背景のように流れていく。


 そして——


「いた……!」


 赤いスカーフを翻し、木々の中を走る小柄な人影。

 十代の少女だった。背は低いが、身のこなしは猫のように鋭く、何より動きが速い。


「返せ! それは村の物資だ!」


「……チッ、ついてくるとはね!」


 少女は跳ねるように方向転換し、木の枝を渡って逃げる。

 だが俺は、“swift”の力で並走する。


(速さがあれば、届く!)


 茂みを抜け、彼女の肩に手がかかる。その瞬間、少女は叫んだ。


「ごめんなさいっ!」


 勢い余って二人で転げ落ち、地面に倒れ込む。



 事情を聞けば、少女・ミアは隣の村の生き残りだった。

 災害で村を失い、弟を養うために盗みを繰り返していたという。


「だからって、盗っていい理由にはならないよ」


「わかってる……でも、助けてくれた人、初めてだった」


 ミアの目には涙が浮かんでいた。

 俺は彼女を責めることができなかった。


 その夜、村の人たちはミアに食料を分け与え、住まいを用意した。

 ミアは深く頭を下げ、「働いて返します」と約束した。



「速さって、逃げるためだけじゃないんだな……」


 焚き火の前で、俺は“swift”という言葉の意味を反芻していた。

 素早さとは、正しい瞬間に、正しい行動を選ぶ力。


 その言葉を、俺はようやく自分の中に落とし込めた。



✅ 今日の英単語


swift(スウィフト)

意味:素早い、迅速な、すぐに行動する

例文:He made a swift move to catch the thief.(彼は素早く動いて盗賊を捕まえた)

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