第五話 中学卒業まで

 キサちゃんは、私を「ネー」と呼ぶ。


 これは幼いキサちゃんが、だれかに話しかけるときの「ねえ」がいつしか、「お姉ちゃん」を縮めた「ネー」になったもの。

 「より」の「ね」にもかかってる……と思う。


 幼いときは、「お姉ちゃん」か「より」って呼んでほしかった。

 でも、あるとき気づいた。

 キサちゃんは、私以外の人には絶対「ねえ」を使わないことに。

 「あの」「ちょっと」で話しかけてることに。

 「ねえ」は私を呼ぶときだけの、特別な言葉。

 キサちゃんの中のルール。

 それに気づいて、私は「ネー」を受け入れた。


 キサちゃんは、小学校を卒業する辺りまで夜泣きをした。

 夜中に突然わんわん泣き出す。

 夜中に「ママ!」と叫ぶ。

 隣で寝てる私は、そのたびにキサちゃんをぎゅっと抱き締めた。

 背を丸めて縮こまるキサちゃんの顔を、自分の胸に埋めた。

 そして少し、一緒に泣いた。


 虐待がフラッシュバックしてたのか。

 それでもやっぱり、お母さんが恋しかったのか。

 それはわからない。


 中学に上がって、私達はに戻った。

 お父さんもお母さんも、他人のようによそよそしくなってた。

 ううん、過去形じゃない。

 いまでもそう。


 私達には、別々の部屋が用意されてた。

 キサちゃんの夜泣きも減ってたから、思いきって部屋は別々にした。

 少しずつ、キサちゃんに自立していってほしかった。


 そして私とキサちゃんは、少しずつ分かれていった──。

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