切符のない駅

【ブログ記事の抜粋】

『消えた駅と消されたホーム』

2022年3月8日 by 路線未成都市伝説資料室(仮)


1972年に廃止されたはずの“浮牧駅”について、近年「通学途中に乗車した記憶がある」と語る若者の証言が複数集まりつつある。この駅は旧国鉄・久留線(未成線)に属していたというが、路線自体の開通実績がなく、正式な資料では“架空”とされている。


地元自治体はこの件に関し沈黙しているが、旧浮牧村(1975年合併)における郷土誌では“駅”という単語が繰り返し登場しており、かつて“浮牧社(ふぼくしゃ)”という無人の神社の近くにホームらしき構造物があったという。


調査を続けるうち、以下のような証言を得ることができた。



***


【オカルト板ログ】

◆「浮牧駅の夢、見たことありますか?」

2024/01/13 20:48:01 ID:xFeD6n99


子どもが、最近「変な駅から電車に乗ってる夢」を毎晩見ると言い出した。

曰く、「浮牧(ふぼく)って、なんであの駅名前ないの?」と。


でもさ、駅名標が“浮”の一文字だけって……それ、たぶん昔の国鉄フォントじゃね?


◆Re: 浮牧駅の夢

2024/01/14 03:21:47 ID:Popo67qq


俺もあるよ。ホームに誰もいないのに、背中に人が立ってる気配してた。

降りようとした瞬間、腕を引っ張られて…気づいたら目が覚めてた。

でも、手首に“切符の痕”みたいな線ついてたんだよ。


◆Re: 浮牧駅の夢

2024/01/14 09:15:00 ID:SasS99om


自分の弟(小4)も“夢で毎晩電車に乗ってる”って言ってた。

しかも「駅から降りられない」「切符ない子は降りちゃダメなんだって」って。


たまたま弟の絵日記見たら、ちゃんと“浮牧”って書いてある。

家ではそんな言葉使ったことないのに。



***



【記事筆者のメモ】

2024年2月4日

浮牧駅について調査していた●●(筆者名)です。

もしこれを見ている方がいたら、以下のことを必ず守ってください。


・夢の中で「次は浮牧〜」というアナウンスを聞いたら、絶対に電車から降りないでください。

・切符を持たないまま降車しようとすると、“車掌”が来ます。

・子どもを守りたいなら、夢の中で必ず「一緒に乗っていた」と記憶してください。

・浮牧駅の場所を特定しようとしないでください。地図が壊れます。


もうひとつ。


切符の痕が手首に現れたら、次は「招かれる」番です。



***



【中学生の作文:発見されたノート】


『わたしは、きっぷをもっていません』


二学期の途中から、何度も同じゆめを見ます。

朝、しらないえきのホームにいて、電車がきます。


いつも“浮”という漢字だけかかれたえきのまえにいて、

なかにいるおとなたちが、みんなマスクみたいなかおをして、

「つぎは、ふぼく〜。ふぼく〜」といいます。


お母さんにゆめのはなしをしたら、

「それは記録するべき夢よ」っていわれました。


わたし、きっぷをもっていません。


でも、あるひホームのしたからしろい手がのびてきて、

わたしの手首に、きっぷみたいなあざをつけました。


それから、ゆめじゃなくなったきがします。

電車がとまると、ゆかがぐらぐらして、

マスクのおとなたちが「きみ、きっぷあるね」って。


こわいけど、わたしはおりません。

おりたら、かえれないきがするからです。



***



【教師の報告書:学校関係者の証言】


▪報告者:A市立第三中学校 教諭(匿名)

▪対象生徒:2年B組 ○○○○さん

▪内容:自宅で倒れ、その際に上記の“夢日記”を所持。


○○さんは現在、意識はあるものの失語状態。

左手首に、定期券のようなサイズと形状の痕が確認されている。

保護者は「幼少期にそんな駅へ行った記憶などない」と証言。


同級生3名も同様の“浮牧駅の夢”を断続的に訴えており、

教育委員会への報告後、医療・心理ケアに繋げている。



***



【“浮牧駅”特定を試みた人物の記録】

2025年4月23日(録音データ書き起こし)


こんにちは、森田です。

今日は、例の廃線跡の“浮牧駅跡”とされる場所に来ています。


ここ、めちゃくちゃ変なんですよ。

地図には一切駅の記載がないのに、昔の航空写真を見ると、

明らかにホームっぽいコンクリの長方形の影が見えるんです。

1974年の写真にだけね。75年から、もう無くなってる。


それが、地元の郷土資料館の館長に聞いたら──


「ああ、あそこはね、“切符のない子”が降りた場所ですよ」


って言われた。

──え? ってなりますよね。何それって。


で、資料室で昔の地域新聞を閲覧したんだけど、

昭和46年の記事に、“切符を持たない子が次々失踪”って書いてあるの。

でも不思議なのは、それ、全部“夢の話”として書かれてる。


地元の小学校では「夢に出てきた電車からは降りるな」って

道徳の時間に習ってたって。

意味わからない。いや、怖い。


……あ、今なんか踏んだ? 音が変だ。土じゃない……

え、コンクリ……? 誰か、いる……?(以後、音声が途切れる)



***



【都市伝説系Twitterアカウントの投稿】

@rail_mythos

2025年4月25日 17:12


浮牧駅の話、完全に実在の線路跡で矛盾が多すぎる。

・廃止された記録なし

・でも駅構造だけ航空写真に写る

・手首に“切符の痕”がある者が複数


いまDMで、こんなメッセージきた。

「あなたの手首にも、ありますよ」

──送信元、不明。



***



浮牧駅は、“人が降りたがる場所”だ。


夢であっても、現実であっても、

そこにホームがあると、足が向いてしまう。


ホームの端に立ち、電車の扉が開く瞬間──

降りた足は、もう戻らない。


わたしの手首にも、いつの間にか、

あの“切符の痕”が浮かんでいた。


でも──

わたしはまだ、降りていない。

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