正しい小説の捨て方

夏野夕方

一 存在しない(1)

 僕らは点と点だ。

 それぞれ教室の隅にいて、決して交じりあうことはない。

 何かに例えるなら、『磁石』。反発しあう者。

 交じりあったところで、化学反応が起こるとも思えない。だってそんな予兆はどこにもないから。

 接点がなければ、例え三年間同じクラスにいたとしても、話すことはないし、卒業した後に会うこともないだろう。

 性格、趣味、学力、部活……僕らは接点がなかった。

 きっと小学校から一緒だったとしても……いいや、例え隣に住んでいたとしても、僕らは会話することなんてきっと一生ないだろう。

 ――そう、なかったはずなんだ。


 七月上旬。高校生になって、最初の期末試験が終わった三日後。梅雨も明けてまとわりつくような熱気が、アスファルトからせり上がってくる日に、一年一組の教室は、熱い話題で持ちきりだった。『夏休み』というワードが、蝉が羽化するように湧いているのだ。

 そんな中、持田鈴もちだすずは、これから返って来るであろう期末テストの答案のことしか頭になかった。他の人が騒いで楽しみにしている長期休暇のことも、あまり期待していない。むしろ憂鬱に思っているくらいだ。

 鈴は大きくため息をつき、学校鞄の中に筆記用具などを投げ入れ、またため息をついて、椅子を机の中にしまった。これからこの涼しい教室を出るかと思うと、また鬱屈した気持ちが湧いてくるのだ。

「あっ、鈴! また明日な!」

 前席で喋っていたグループのうちの一人が、振り返って明日を約束してきた。グループの中では一番目立たない存在であろう奴は、気まぐれなのか、今まで見たことのない屈託のない笑みを向けてくる。

 鈴は苛立ちをさらに膨らませつつ、顔に出さないように注力する。男は笑顔を崩すことなく鈴の返答を待っていた。

 ――正直、僕はこの人が嫌いだ。村田直人むらたなおと

 彼ら特有の『気まぐれ』に付き合わされている気がして、虫唾が走る。それに茶髪で明るい印象があるのに、周りに人一倍空気を合わせているような自己主張のない奴のことが、一番嫌いなのだ。

 持田は返事をせず、教室を立ち去った。廊下は人間から出る熱気によって空気が生温くなっていた。思わず舌打ちをしてしまいそうになる。鈴は今出た教室を振り返って中を覗く。

 村田直人は再びグループの会話に混じって、楽しそうに相槌を打っていた。

 鈴はその様子を見て心の中で舌打ちをし、教室を素早く離れた。

 クラスの人気者には、近づかないことにしている。人気者とお近づきになっても、さほどおいしい思いをしたことがないからである。

 ――人気者って、人気になりそうな人を周りが持ち上げてるだけだよな。

 持田鈴は、靴を履き替えながら鼻で笑った。


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