「役立たず」と追放された土属性のおっさん、実は仲間を無双させる最強の『土台』でした~辺境で世界樹の嫁と始める最強の村創造~
くま猫
第1話『土属性だから追放』
「イツキ。悪いけど、パーティーから抜けてもらえる?」
唐突に追放を告げたのは、賢者を名乗る男、ケンジだった。
彼は、動画配信で一攫千金を夢見て大学を中退し、自己啓発系情報商材に全財産を投じた末に異世界へ転生した、二十代前半の男だ。その知識はすべて、生前にSNSとゆっくり解説動画から得た知識の受け売りである。
「イツキがいるとさ、パーティーの"ビジュ"が悪くて"エンゲージ"が伸びないんだよね。俺の神プレイも切り抜きでバズんないし。それって、マジで"逆にありえない"って話。わかる?」
ケンジは、TikTokで流行りのダンスの一節を中途半端に踊りながら、スマホで自撮りでもするかのように片手を顔の横に添えて語る。
……なお、生前のケンジはSNSでもTikTokでもフォロワー1桁だったことは頑なに隠している。
「ちなみに、この件はメンバー全員の"総意"ってことで。君みたいな"おじさん"がいると、俺たちの"てぇてぇ"感じが伝わらないんだよ。君の代わりなんて、ギルドでいくらでも募集できるし。俺たちのチャンネルが伸びる"確率"を考えたら、君を置いておくのは"コスパ"的にも最悪っていう"コンセンサス"が出たわけ」
(なるほど。要するに、俺がいると勇者パーティーとして映えない、と。再生数至上主義と同じ考えか。でも、そんなに目立って何か良いことはあるのだろうか。俺にはわからない価値観ではあるが、人それぞれか)
俺は内心で冷静に状況を分析する。だが、口には出さない。
「すみません、イツキさん……。俺、リーダーとして、みんなを説得しようと頑張ったんですけど……力不足で……。うっ……」
胃を押さえながら謝罪するのは、"勇者"にして"聖魔剣士"の二つ名を持つパーティーリーダー、ユウタ。
本当に裏表のない優しい青年だが、極度の気弱さと胃腸の弱さが玉に瑕だ。転生理由は王道のトラック転生。――さすがは勇者に選ばれるだけの男である。
(ユウタ……。お前が俺のために頭を下げてくれたのは知ってる。ありがとうな。というか、おまえは本当に良いやつで、俺よりもむしろパーティーに残るお前の方が心配だよ。マジで無理するなよ……)
「てかさぁ、おじさんとパーティーとか、シンプルに"きまず~"なんだけど。空気、読めてる?あたしたち、一応"キラキラ"してなきゃいけないわけ。わかる?」
魔法少女のようなフリルのついた服を着て、冷たく言い放つのは治癒術士のチユ。まだ十代前半の、元小学生の転生者だ。
生前は病死だったという境遇を考えると、俺も彼女の背伸びした物言いを強くは責められない。
(まあ、彼女からすれば俺は父親より年上のオッサンだ。そう思われても仕方ない。悪ぶりたい年頃なんだろう)
「おい、オッサン! 大体、"
(……いや、しらんがな)
歴戦の戦士のような体躯の男は、槌使いのツチヤ。元ボディビルダーで、プロテインの過剰摂取で肝臓を破壊しこちらに転生してきた、血の気の多い青年だ。
……いや、ステロイド注射の過剰使用とかなら分かるけど、肝臓がぶっ壊れるまでプロテイン飲むとか逆に凄いぞ!? もしかして単に内蔵弱いだけなんじゃ?
(それに、その顔は俺より老けて見えるぞ。お前まだ20代後半って大丈夫か? この世界でもまたタンパク質の過剰摂取して肝臓やられてないよな?)
俺の呆れをよそに、ケンジが再びボディービルダーの決めポーズをとる。
「OK?理解した?これが俺たちの"答え"なんだよ。このパーティーに"おじさん"はいらないってこと。さぁ、荷物をまとめてさっさと出ていけ。マジで、"話になんない"から」
(答え、ね。この茶番劇が、すべてお前の根回しだってことは、ユウタから聞いて知っている。ここ数ヶ月、俺の悪評を他のメンバーに吹き込んでいたこともな。まったく、もってまわった陰湿なやり方だ)
俺は心の中で毒づくが、表情には出さない。完全に包囲網を敷かれた今、反論は無意味な言い争いを生むだけだ。
そもそも、俺の立場が悪くなったのはここ半年のこと。海や空での冒険が続き、彼の専門領域である大地から離れた戦闘が続いたからに他ならない。
それまでの二年半、このパーティーの戦闘スタイルは、俺の土属性魔法とユウタの剣技による鉄壁のコンビネーションだった。
俺の魔法は、単に敵の足元を固めるだけではない。彼は敵の足元の地盤構造を瞬時に解析し、最も効果的に動きを封じるための局所的な液状化現象や、関節を固定するための岩石化を引き起こした。
それは力任せの魔法ではなく、精密な地質工学の応用だった。その盤石なサポートがあったからこそ、ユウタは安全に、そして確実に敵の中核を破壊できたのだ。
だが、その貢献も、今の彼らには過去の遺物でしかないらしい。
「ああ、そうだな。確かに最近は海や空が舞台で、土属性しか使えない俺は役に立っていなかったからな」
俺が事実を認めると、チユが『そういうガチな反省、"逆にありえない"から』と追い打ちをかける。
(……なるほど。Z世代のコミュニケーションは複雑だな)
俺は小さくため息をつき、事務的な手続きに移る。
「ケンジ。お前の主張は理解した。追放するならギルドに冒険者カードを返納しないといけない。正式に解雇通知書を書いてくれ」
「ふっ。とっくに準備できてるっつーの」
ケンジが投げつけた羊皮紙を、俺はひらりと掴み取る。
(随分と手際がいいことで。さすが、生前は再生数に命を懸けてるだけのことはある……本当に命をかける必要はなかったとは思うが、それは余計なお世話か)
「一方的に解雇するなら、退職金はもらえるんだよな?」
「そんなのあるわけないじゃん。常識で考えて」
ケンジの冷たい言葉に、ユウタが必死に食い下がる。
「そ、そんな……ケンジ君! それは、今までお世話になったイツキさんにあんまりです!」
「リーダーだからって、俺の"決定"に口出しはさせない」
「うっ!ごぽぉッ……」
「ユウタ。気持ちはありがたい。退職金がないのは分かったよ。さっさと荷物をまとめて出て行くさ。お前にまで気をつかわせてしまって悪かった」
「イツキさん……。本当に、すみません……」
俺はパーティーに背を向け、拠点だった宿屋を後にする。しばらく歩くと、後ろからドタバタと聞き慣れた足音が追ってきた。勇者ユウタだ。
「……イツキさん!!」
「おう。どうした、ユウタ」
「今回の一件、リーダーとして力及ばず、本当に申し訳ありませんでした。これは、気持ちばかりの物ですけど、受け取ってください」
ユウタが差し出したのは、ずしりと重い金貨袋。中には大金貨が百枚。彼の貯金の半分はあろうかという大金だ。
「おい……いいのか、こんなに。ユウタが頑張って貯めた金貨だろ?」
「いいんです! 金貨はまた、俺がクエストで稼げば良いだけですから!」
「……ありがとな。いつかこの借りは返すよ。今までありがとうな、ユウタ」
「それは、俺のセリフです。これから一人で大変だと思いますが、第二の人生、思う存分に楽しんでください!」
「ああ。ユウタも魔王討伐、頑張ってくれ。世界の命運がお前の両肩にかかってるぞ」
「うっ!責任重大……緊張でおなかが痛くなってきました……」
「ははっ! 冗談だ! まあ、無理せず、気負わず、マイペースでな。ユウタなら、絶対にやれるさ」
別れを惜しんで涙ぐむユウタの背中を、俺はポンと叩いて励ます。
(励ますつもりが、励まされてしまったな。本当に、ありがとう、ユウタ)
こうして、"土属性"の俺は勇者パーティーを追放された。
だが、彼の心に未練や恨みはない。むしろ、四十を過ぎて手に入れた、新たな人生の始まりに、静かな期待すら抱いていた。
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