第七話:破滅の序曲
アルバス・蒼月は、ガレオン・岩槌の協力を得て、ゼルファス・闇鋼が聖杯の力を得るために行っていた不正の証拠を集め始めた。王都の地下水路、貴族たちの隠し帳簿、そして闇市場での取引記録。ガレオンが持つ王都の裏社会への深い繋がりは、情報収集において絶大な威力を発揮した。彼らは、ゼルファスが聖杯の力を利用し、表向きは国庫の強化を謳いながら、実際には貴族の財産を横領していたことや、魔物の脅威を過剰に煽り、討伐費用と称して私腹を肥やしていたことを突き止めた。その手口は巧妙で、証拠は隠蔽されていたが、アルバスとガレオンの執念深い調査によって、その全てが明るみに出され始めた。
アルバスは、これらの証拠を巧みに流布し、ゼルファスの評判を徐々に貶めていった。最初は小さな噂話だったものが、やがて確たる情報として王都の貴族たちの間に広がり始める。ゼルファスへの不信感が、静かに、しかし確実に蔓延していく。彼の傲慢な振る舞いと、聖杯の力への過剰な依存が、裏目に出始めていたのだ。
「ゼルファス様の力が、以前より増しているのは確かだ。だが、その裏で、何かがおかしい…」
「最近、やけに王都の財政が逼迫していると聞く。魔物の討伐にかこつけて、私腹を肥やしているのではないか?」
貴族たちの間では、密かにそんな会話が交わされるようになっていた。彼らは、ゼルファスの強大な力を恐れながらも、その不正によって自分たちの利権が脅かされることに、強い危機感を抱き始めていた。
リリス・星砂は、ゼルファスの隣でその変化を感じ取っていた。これまで盤石だったゼルファスの権力が、少しずつ揺らぎ始めている。貴族たちの視線が、以前よりも冷たくなったことにも気づいていた。彼女は、ゼルファスの横暴さに恐怖を覚えるようになっていた。聖杯を手に入れた後のゼルファスは、まるで別人だった。以前の洗練された魅力は鳴りを潜め、彼の中には底知れない欲望と狂気が渦巻いているように見えた。
「ゼルファス様、聖杯の力が、あなたを蝕んでいるわ…」
リリスは、意を決してゼルファスにそう告げた。彼の顔には、常に疲労の色が浮かび、目は血走っていた。彼の内側で、聖杯の強大な魔力が暴走しているかのようだった。リリスは、彼の破滅を止めたいと願った。聖杯の力を奪い取れば、彼を救えるかもしれない。そう考え、リリスは、ゼルファスから聖杯の力を奪い取ろうと試みた。しかし、聖杯はすでにゼルファスの精神と完全に一体化しており、もはや彼の体から離れることはなかった。それは、まるで彼の肉体の一部と化しているかのようだった。
「黙れ! 余計な口を出すな!」
ゼルファスは、リリスの忠告を聞き入れず、激高した。彼の瞳は、もはや理性のかけらも宿っていなかった。リリスは、自分がゼルファスの甘言に騙され、取り返しのつかない過ちを犯したことを痛感し、深い後悔に苛まれる。月影の村を捨て、アルバスを裏切ってまで手に入れたこの王都での生活は、彼女が夢見ていた輝かしい未来とは、あまりにもかけ離れていた。
そして、リリスは、王都でアルバスが暗躍しているという噂を耳にする。最初は信じられなかった。あのアルバスが、こんな危険な王都で。しかし、巷に流れるゼルファスの悪評、そして聖杯の力に異変が起きているという話を聞くうちに、リリスは、それがアルバスの仕業ではないかと疑い始めた。
「まさか…アルバスが、こんなことを…」
リリスの心に、言いようのない恐怖がよぎった。アルバスの存在が、自分たちの破滅を招くのではないかと怯え始める。彼女は、ゼルファスの狂気と、アルバスの復讐心という、二つの巨大な力に挟まれ、身動きが取れなくなっていた。破滅の序曲は、すでに奏でられ始めていたのだ。
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