第22話
隣村との交流が始まり、俺たちの村の評判はさらに高まっていった。時折、遠方からわざわざ村の様子を見に来る者や、この村の作物の品質を確かめに来る商人まで現れるようになった。俺は以前と変わらず、畑を耕し、新しい加工品を考え、村の娘たちに知識を共有する日々を送っていた。だが、いつの間にか、俺の立場は当初の「しがないモブの村人A」とはかけ離れたものになっていた。
ある日、村の娘たちが、収穫したばかりのイモヅルの品質について意見を交わしていた。
「このイモヅルは、少し土が多かったみたいだね」とフローラが言う。
「でも、アレンさんが教えてくれた洗い方をすれば大丈夫だよ」とミリアが答える。
その時、ルナが俺の方を向いて言った。
「アレンさん、次はこの畑をどう開墾するのがいいかな?効率的なやり方を知りたいんだけど」
フィリアも続けて、
「新しい布地を織りたいんだけど、どんな繊維が丈夫か、アレンさんに鑑定してもらいたいな」
マリナは、
「次の交易で、どんな保存食を提案したらいいか、アレンさんの意見を聞きたい」
彼女たちは、自然な流れで俺に意見を求め、俺もまた、当たり前のようにそれに答えていた。もはや、俺が指示を出すというよりも、彼女たちが自ら考え、行動し、そして必要に応じて俺に相談するという形が定着していたのだ。
ある日の夕食時、焚き火を囲んで皆で食事をしていると、レイラがポツリと呟いた。
「この村は、まるで一つの大きな家族のようだ。そして、お前は…その父親のようなものだな」
その言葉に、俺は思わずむせた。父親、とは。俺はまだそんな年齢でもないし、そもそも彼女たちと血の繋がりはない。
だが、レイラの言葉に、他の娘たちも頷いた。
「うん、アレン兄様は、何でも知ってるし、いつも助けてくれる」とミリア。
「アレンさんがいなかったら、この村は今頃どうなっていたか……」とフィリアが静かに言った。
「私たちのことを、一番考えてくれているのはアレンさんだもの」とフローラも続いた。
彼女たちの言葉に、俺は少し照れくさくなった。だが同時に、彼女たちが俺を、この村を支える中心だと認識していることを知った。俺は特別な役職に就いているわけではない。だが、皆が俺の言葉に耳を傾け、俺の意見を尊重し、そして俺を頼りにしている。それは、自然に形成された、この村における俺の「村長」としての役割だった。
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