第15話
厳しい冬が終わり、ようやく春が訪れた。凍てついていた大地が解け、あちこちから新芽が顔を出す。暖炉の温もりはまだ必要だったが、日差しは少しずつ力強くなっていた。
冬の間、暖炉のそばで文字を学んでいた子供たちや娘たちは、皆、ひと回り成長したように見えた。特にミリアは、読み書きが驚くほど上達し、簡易な物語なら自分で読めるようになっていた。フィリアやフローラ、ルナも、それぞれの分野で知識を深めている。村全体が、冬を乗り越えて一回りたくましくなったように感じた。
しかし、俺は立ち止まるわけにはいかなかった。冬を越すための食料は確保できたが、村の人口が増えたり、来年以降の収穫量をさらに安定させるためには、より多くの畑が必要になる。
「今年は、もっと広い畑を作りたい」
俺がそう提案すると、村の娘たちは皆、驚いたような顔をした。これまでも俺が発言するたびに驚かれてきたが、今回は特にその反応が大きかった。
「そんなに、広げられるの?」
フィリアが不安げに尋ねる。これまでの畑も、俺が来なければ荒れ果てたままだった場所だ。さらにその奥へと広げるには、途方もない労力がかかるように思えたのだろう。
「大丈夫だ。みんなでやれば、きっとできる」
俺はそう言って、皆の顔を見渡した。鑑定スキルで、村の周辺の土地を再び確認する。以前の畑の奥には、まだ手つかずの広大な土地が広がっている。土質も悪くない。そして、何より、俺には「簡易加工」スキルがある。
翌日から、俺たちは再び畑の拡張作業に取りかかった。冬の間、休んでいた体にはきつかったが、皆の顔には希望が満ちていた。
最初は、背丈ほどの雑草を刈り取り、硬い地面を掘り起こす作業だ。ルナが作った簡易な鋤と、俺が鑑定で見つけた丈夫な木材を簡易加工で強化した道具を使い、黙々と土を掘り起こしていく。
「ここ、ちょっと硬いね!」
マリナがスコップを握りしめて、額の汗を拭った。彼女は最近、力仕事にも積極的に参加してくれるようになった。
「ああ、ここは根が深いな。ゆっくりでいい」
俺はそう答えながら、土を柔らかくするために簡易加工スキルを使う。すると、硬かった土が、少しずつだが柔らかくなっていくのが分かる。このスキルのおかげで、以前よりも格段に効率良く作業を進めることができた。
フローラは、雑草の中から薬草になりそうなものを見つけては摘み取り、ミリアは、大人たちの邪魔にならないように、小さな石を拾い集めてくれる。皆がそれぞれの役割をこなし、協力し合っていた。
何日もかけて、ついに新たな区画の開墾が終わった。以前の畑の倍近い広さだ。土は黒く肥え、春の日差しを浴びて輝いていた。皆の顔には、土と汗で汚れながらも、達成感と喜びの笑顔が浮かんでいる。
「こんなに広くなった!」
ミリアが、新しい畑を走り回る。その笑顔は、この春の訪れを心から喜んでいるようだった。
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