村娘しかいない貧乏村の村人Aに転生したので、村を発展させてスローライフを送ります。
仙道
第1話
目が覚めると、そこは土壁のボロ小屋だった。
埃っぽい空気が鼻腔をくすぐり、古びた藁の匂いがする。何が起きたのか理解できず、俺はしばらく天井を見上げていた。見慣れない木製の梁に、ところどころ蜘蛛の巣が張っている。ここは、俺が昨夜までいたマンションの寝室ではない。
恐る恐る体を起こすと、藁を敷き詰めた粗末な寝床に、見慣れない服を着た自分がいる。麻でできたらしい薄汚れたシャツと、同じく麻のズボン。手のひらを見ると、少しゴツゴツしていて、前世のデスクワークとは無縁の感触だ。
「……夢?」
思わず呟いた声は、驚くほど幼く、そして掠れていた。自分の声とは思えない高音に、心臓が大きく跳ねる。
その時、寝床の端でうずくまっていた小さな影が、もぞりと動いた。
「兄様、起きたの?」
か細い声が聞こえ、そちらに目を向ける。そこには、俺と同じような麻の服をまとった、幼い少女が座っていた。顔色は悪く、頬はこけている。薄汚れた髪が顔に張り付き、その大きな瞳は不安げに俺を見つめている。歳の頃は、せいぜい5、6歳くらいだろうか。
幼女の瞳に映る自分の姿は、やはり幼かった。10代前半、いや、もしかしたらもっと若いかもしれない。顔には土埃がつき、髪はボサボサ。
混乱が頂点に達する。なぜ、俺はこんな場所にいる?そして、この少女は誰だ?兄様、と呼ばれたが、俺には妹なんていない。
「お兄ちゃん、大丈夫?また、変な熱が出たの?」
心配そうに顔を覗き込む幼女の仕草に、ふと、頭の中に情報が流れ込んできた。
俺は、この世界の住人、アレンという名の村人であること。そして、この幼女は、俺の妹であること。両親は数年前に流行り病で亡くなり、俺たちがこの小屋で細々と暮らしていること。
それらの情報が、まるで昔から知っていたかのように、ごく自然に頭の中に収まった。
いや、違う。これは、俺の記憶じゃない。俺は、日本のどこにでもいる普通の会社員だったはずだ。それが、なぜこんな……。
「……ここ、どこ?」
絞り出すように問いかけると、幼女はさらに困った顔をした。
「ここは、私たちの家だよ?兄様、本当にどうしちゃったの?」
幼女の不安げな表情を見て、これ以上混乱させるのは良くないと感じた。とにかく、今は状況を把握するのが先だ。
俺は、どうやら異世界に転生したらしい。しかも、主人公どころか、しがないモブの村人Aに。
ボロ小屋の天井を見上げ、深くため息をつく。途方もない現実を前に、俺の異世界での生活が、静かに始まった。
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