第40話 修理に向けて
いつもの居酒屋のような場所で、ジンとバーンズが運ばれてきた山盛りの料理を食べていた。
「剣闘士になって一戦目。無事勝てたな」
「もっと楽に勝てそうだったけどな」
対戦相手に関しての情報を持って教えてくれれば初撃から死にかけることはなかった、とバーンズを睨む。睨まれたバーンズはたじろぎながらも知らんぷりといった様子で斜め上を見る。
「聞かれないから、もう知っていたものとばかり」
「確かに、俺の方にも非があったのは認める。だが、俺が負けて損するのはお前もだろ」
「まあね。ただ、あれは登竜門だ。あそこまでとはいかないが、今回のような相手はそれなりにいる。お前が有名になればまだ見せていない手の内を使うことだってある。それに対処できなきゃおしまいだ。だからあのぐらいには、事前情報なしで買ってもらいたかった」
「……はぁ」
言っていることは一応正しく聞こえる。納得もできた。
丸め込まれた感は拭えないが、これは自分の不手際として処理するべきか。
「一つ頼みがある」
「お、なんだ?」
「複雑な機械の修理ができるような技術屋を知らないか?」
「複雑な機械? さすがに何かを言ってくれんと紹介しようがないな」
ジンは僅かに悩むが、すぐに答えた。
「宇宙船程度のものだ」
「かなり大きくでたな。仮に宇宙船だとして、修理できる奴なんてそうそういないぞ」
「わかってる。だからすぐにとは言わない。俺の方でも探しておくから、頭の片隅に入れておいてほしい」
「ま、探してはみるが、すぐには見つからねえだろうから、結構待たせるぜ」
「それでもいい。助かる」
「こちらこそ、今日は結構稼がせてもらったぜ」
バーンズが商人らしい笑みを浮かべてジンを見た。
「あんたが良ければ明日にでも試合を用意できる。今日のが随分とよかったからな、ああいう試合をすれば次につながる。どうだ、準備できそうか」
「当たり前だ」
たとえ怪我をしていても、その日に二回試合があったとしても、今日この後に試合があると言われても、ジンは戦いに身を投じることができる。ペースウッドで常日頃から誰かに恨みを持たれ、襲われてきたジンの感覚はすでに麻痺していた。
「試合は明日の夜になるはずだ。また連絡する……ってことで、今日は初戦を無事に勝てたことを祝すとしますか」
「……ああ」
◆
次の日の夜。
闘技場でジンの試合が行われようといていた。
いつものように短剣を持ち準備を行い、バーンズと軽口をたたき合ってからアナウンスと共に闘技場内に入る。聞こえてくるのは歓声と罵倒。やはり罵声の方が多い。
同時に、対戦相手が闘技場内に足を踏み入れる。
昨日とは違って今回の相手はそこまで大きくなく、武装も標準的なもの。
特段威圧感があるわけではないし、何なら弱く見える。
しかし実力を擬態しているという可能性を考慮して、警戒を敢えて引き上げておく。
特徴を持たない相手の方がこれといった弱点が無く強い。
今回の相手はそうなのかもしれない。
いずれにしても、ジンは自分の戦い方で相手を殺す。
そして、試合開始の鐘が鳴り響いた。
◆
「暇だわ、とても暇」
黄金の髪を座席から垂らしながら、褐色肌の妖艶な女性が台座に座っていた。黄金比に見初められたかのような端麗な容姿にきめ細やかな肌。艶を放つ黄金の髪。芸術的なまでの肢体。
もし彼女の座る台座になれる権利が売っていたとしたら、高値で取り引きされていただろう。
台座の僅か後ろに控え立つ侍女は何も言わず、ただ寡黙を貫いている。
「東企業連合もうざいし、暇だし、ここ何もないし! ねぇーアンナ。こんなに退屈だとまた出て行っちゃうわよーわたし」
後ろに控える侍女を横目で見ながら女性がわめく。その様子は妖艶な雰囲気を放つ彼女の印象とは真逆に子供らしいものだった。
侍女は目を伏せたまま諭すように語り掛ける。
「もうすぐで今年の催しとなります。それまでどうかお待ちください」
「もうすぐって……結構期間あるよ?」
「まだ誰を招待するか決めていませんね。幾つか自由枠が残っていますから、キャロル様ご自身でお決めになったらどうですか」
「そうねぇ……でもなんだか……今は面白くないのよね。もっとがっつく、っていうか。今の子たちは退屈なのよねぇ」
「本当ですか?」
「本当よ。だって好きだもん」
「でも最近は御覧になってないので?」
「それはそうだけど、私簡単に動ける身分じゃないし」
「手配、しておきますよ」
「そう? じゃあ代わりに私の仕事終わらせてくれる?」
「それは駄目です」
「えぇー」
キャロルと呼ばれた女性は肘掛けに肘を置いて、顎の少し横辺りに手を置いて頭を支えた。
ため息を
物憂げな視線で豪華絢爛な客間を見る。
「ま、それもいいかもね。久しぶりに見てみようかしら」
「では準備しておきます」
◆
「第一戦! 勝者はノーネーム! これで二戦連続の勝利となります!」
終了の鐘が鳴る。
ジンの足元には今回の対戦相手が転がっていた。
当然が如く、その頭部には短剣が突き立てられている。
(案外……そこまででも無かったな)
昨日戦った相手の方が遥かに強かった。
技術でジンを凌駕し、経験でジンを圧倒していた。しかし今回の相手にはそんなことはなく、技術などいらず力押しだけで十分といえる相手。機体外れもいいところだ。
最初の相手が遥か高みにいたのか。それとも今回の相手のレベルが低いだけなのか。
ジンはその答えを求めるように観客席を見た。
罵倒や興奮が入り混じる中で確かに、納得のようなものが感じられた。
ジンならば今回の剣闘士では相手にならない、そういった雰囲気が感じられる。
まるでジンが勝てたのが当然のことであるかのよう。
これではあまり稼げてはいなさそうだった。
舞台袖にいるバーンズへと視線を移そうとする。その際、ジンは観客席にいる二人組を見つけた。全身を布で覆い隠している二人。なぜだか分からないが、ジンは一瞬だけその二人に視線を釣られた。
しかしすぐに目を逸らしてバーンズの方を見る。
◆
「次は中央闘技場に行きますか」
「もーつかれたからいいや」
日中の表通りであるというのに不自然に誰もいない道をキャロルとアンナが歩いていた。
「いいのですか? 今日の中央闘技場では……」
「眠いしいいよ」
「よかったのですか? あのようなつまらない試合で」
アンナの言葉にキャロルは足を止めて、可愛らしく口元に人差し指を当てて微笑んだ。
「あら? つまらなかったかしら」
「いえ、そういうわけでは……ただ、もっと成熟した戦いならば他でも見れます」
「いいのよ、あれで。それに収穫もあったし。彼が死ななければ面白い配役を用意してあげるつもり」
暗闇に包まれた誰もいない道を二人は軽口を交わしながら、護衛に見守れながら歩いた。
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