第29話 脱出
「はぁ……ふぅ」
爆発と同時に逃れたジンがある倉庫の中にいた。
宇宙船の爆発はジンの姿を一時的に見失わせるためのもの。あのまま倉庫に入って宇宙船を奪ったとて外で出待ちされて宇宙船ごと破壊されていた。だからどこかで姿を消して、宇宙船を奪う時間がどうしても必要だった。
幸いにも姿を消すための絶好の機会が現れた。
無事にその機会をものしてジンは難を逃れた。
とは言っても、今も燃えている宇宙船の捜索が進められると共に倉庫の捜索も行われる。すでに強化服は爆発の影響もあってほぼ壊れかけ。出力も最低値。もはや使い物にならない。もし見つかれば今度こそその時は命が無い。
あまり時間は用意されていなかった。
咄嗟に逃げ込んだ倉庫。
ジンが周りを見渡す。
暗いが下水道で生活していたジンには明るく、細部まではっきりと確認できた。
倉庫の壁面に沿って備え付けられた作業台や棚、工具置き場。小さな作業場もある。
そして、倉庫の中心にあるのは一機の宇宙船。
通常の旅客機とは形が異なる異質なもの。側面に取り付けられている装甲の部品は何のためにあるのか。あまり知識があるわけではないが、ジンが始めて見るタイプの宇宙船だった。
今更、他の倉庫へと場所を移すことはできない。この倉庫にはこの宇宙船一機のみで、これに乗るしかない。
この異質な旅客機に乗ることに一抹の不安を感じないわけではない。
それでも乗るしかないのだから、入り口に繋がっている階段をジンは上がる。
(空いてる……)
入り口に近づくと扉は勝手に開いた。
セキュリティの面で不安を覚えるが、時間が残されていないのでジンはすぐに乗り込む。中に足を踏み入れるとすぐに明かりが点く。
内装は思ったよりも広い。
ただ先ほど破壊してきた宇宙船の豪華絢爛な内装とは異なって、まるで戦闘機の中かのような、実に実用的な見た目をしていた。壁には銃が固定されているし、防護服のようなものがかけられている。
軍用機のようだ。
もしそしてジンが見た事がないのも納得できる。ただ扉にロックがかけられていないのはセキュリティ上どうなのか。ただ今はそういった疑問について考える暇はないので、船内を見て回るよりも先に操縦席の方へと移動する。
(うわ……なんだこれ)
今回の作戦を実行するにあたって宇宙船を操縦できなければ意味がないので、宇宙船についての基本知識は頭の中に入れていたはず。しかし今目の前に広がる操縦桿の景色は全く見たことないものだった。
変なボタン。よく分からないレバー。
(やばい)
制限時間が迫るなか、全く理解できない操縦桿を目の前にしている。
どうやって起動するのかも分からない。それに操縦席から見える光景が全くの暗闇だ。本来ならば操縦席から倉庫の内装が見えて然るべき。しかし何も見えない。起動したら、もしかしたらブラックアウトが解けて見えるようになるのかもしれないが、もし消えなかったら、と考えてしまう。
焦燥感を感じながらジンが操縦桿の中で試行錯誤している頃、倉庫内では警備隊員が捜索を行っていた。
「ったく、どうせ死んでるのに探す意味なんてねえよ」
倉庫内を歩く警備隊員のうち一人がぶっきらぼうに言い放つ。
いくら強化服を着用していようとあの爆発に巻き込まれれば死ぬ。それに警備隊員からの射撃によって強化服はボロボロだった。その上での爆発。死んでいないと考える方が難しい。
今は飛び散った宇宙船の瓦礫をかき集め、肉片を拾い集め、侵入者が死んだという確定的な証拠を集めている。あれだけの爆発。飛び散った肉片はほぼ無く、見つけるのに苦労するだろうが、いずれ見つかるし、どうせ死んでいる。
しかし見つかるまでは捜索を続けなければならない。
警備隊員の男はこの無駄な作業に愚痴を吐く。
だが無理もないことだ。
男は友人や親友こそ殺されていないものの、見知った奴を侵入者に何人も殺されている。全員がこの発着ポートに備え付けられた訓練場と宿舎で生活した仲だ。こんなことをしている場合では無く、すぐにでも心を休ませたい気持ちだった。
「まあそう言うなよ。生きてたら殺さねえといけないからよ」
隣を歩く男がため息交じりに注意する。
この男は先の戦いですでに友人を数名失っている。だがこれが普通だ。一人も失わなかったことが逆に奇跡。それほどの被害を生んでいた。もし生きていれば、殺さなければならないと、決意を固める。
重苦しい空気を紛らわすように、一人が倉庫内の宇宙船へと近づいて船体を撫でる。
「それにしても、これはヤバそうだな」
「サイバーテクニカ社のだろ。この前アストラ技研の奴らが話してるの聞いたぞ」
「わざわざ本部じゃなくて
「だろうな」
二人が軽口を交わす。
その時、宇宙船から音が鳴った。
「な、なんだ?!」
「おいおい!?」
排気音が鳴り響く。
鼓膜を押しつぶすような重低音が鳴る。
そして宇宙船の前方。それまで黒塗りになっていた宇宙船の操縦桿に当たる部分が白く透ける。そして映し出されるのは操縦桿を握りながら試行錯誤するジンの姿だった。
「あ、あの野郎! 生きてやがった!」
怒りに身を任せ一人が駆け出す。
もう一人は止めようと手を伸ばすが虚しくも空を切る。
「おい! 待て! まずは増援を――ッチ!」
残された一人は増援を呼びながら先に行く仲間へと着いていく。
その頃、宇宙船の中ではジンが操縦桿と格闘していた。どうにか電源をつけることができたがその次が分からない。操作方法は他の宇宙船と同じだろうが、発進のさせ方が分からない。ただ操縦桿を動かせばいい、というわけではなさそうだ。
発進させることさえできればどうにかなる。
そう試行錯誤していると突如、後ろの入り口が開くと共に警備隊員が入って来る。そしてジンに向けて突撃銃を乱射した。
「あのやろ――」
宇宙船が破壊されてはかなわない。
すでにボロボロの強化服を盾にしてどうにか操縦桿だけを守る。しかしこの体勢では警備隊員を殺すことはできず、同時に武器はすべて破壊されている。対処に迫られる中、弾丸を撃ち切った男が突撃銃を放り出してナイフを握り締め、ジンに飛び掛かった。
ジンもまた、好機だと思いナイフを引き抜く。
すでに強化服は起動しておらず超人的な力は無く、逆にこの狭い船内では動きにくいだけ。しかし男のナイフを避け、逆にナイフをねじ込むことぐらい容易なことだった。
男が突き出したナイフを避ける。
ナイフはジンの真横を通り過ぎ、強化服に突き刺さった。
同時にジンはナイフを男の首に突き刺す。
「くッっそ」
「死ねよこのクソガキッ!」
男は身体拡張者だった。
首元から足にかけて機械化を施している。当然、喉に向けて振られたナイフは甲高い音を響かせながら弾かれる。
勢いのまま男はジンに覆いかぶさった。
元々壊れかけの強化服。体勢を保つのもやっとだったところに強い衝撃を加えられたことによって体が倒れる。その際、操縦桿に背面の装甲がぶつかって火花をあげた。その瞬間、機体が震える。
何やらエンジン音のような音が響くと共に、室内で警報が鳴る。
ジンはそれらのことにも注意を払いつつ、目の前の男にも対処した。
機械化手術を受けた男の腕力は凄まじく、装甲に刺さったナイフをすぐに引き抜いてジンに再度突き刺す。首を振ってジンは避けるが、すぐに横に振り抜いて刃先がジンを追う。
ジンもまたナイフを装甲に突き立てて軸を固めた状態で、男のナイフをぎりぎりで止める――と同時に、空いた片手で男の眼球に指を差し込んだ。カギ爪のような形で男の両眼に指を差し込んで視界を奪う。
痛みと突然の暗闇に驚く音が乱雑にナイフを振り回す。
反って軌道が読めなくなったナイフの太刀筋だが、ジンにとっては関係なかった。
ジンはすでに強化服を脱ぎ棄て、男の背後へと移動しており、後頭部に向かってナイフを振り下ろす。
皮下装甲が埋め込まれていたであろうが、ナイフは貫いて男の脳天に刃先を突き立てる。脳を破壊されたことによって、男は一瞬でこと切れた。
「ったく」
ジンはすぐに男の死体を投げ捨て、強化服の残骸を投げ捨て、操縦桿を見る。
火花をあげてボタンやレバーが壊れていた。
一気に焦燥感が溢れ出す。
もし壊れてこの宇宙船が使えなくなれば逃げる術がなくなる。
「クソがッ!」
ジンが叫ぶと同時にフロントガラスが割れた。
「――っく――が」
外にいる警備隊員が撃ち込んできたのだ。
窓が壊されれば宇宙空間を飛行できない。
直後、硬く閉じられていた倉庫の正面入り口が開かれる。自動で開閉されるその扉の先には何十と待機した警備隊員の姿。そして高性能であろう強化服と武器を携えた企業傭兵の姿。
「クソがァ!」
先ほど殺した男の死体を窓から投げ捨てると、その一瞬、驚きで止まった敵の隙にジンが操縦桿を握り締めた。同時に訳も分からず取り合えずボタンを押し込む。すると突然に機体の一番近くにいた警備隊員の体が浮いた。
まるで無重力状態かのような状態。
(浮い……反重力機構か)
思いつきで今度はその隣にあったボタンを押し込む。
すると今度は、宙に浮いて手足をバタバタと揺らしていた男が突然地面へと叩きつけられた。死体はプレス機にでもかけられた後のようにぺしゃんこになって跡形もなくなる。
「重力機構……なんだこれ」
この宇宙船に対しての疑念を強める中、倉庫のゲート前で待機する企業傭兵や警備隊員が今の光景を見て動きを止める。一方でジンは操縦桿を握り締めると、一気に前へと押し出した。
すると機体は前へと動き出す。
見よう見まねで覚えた操縦方法を実践する時だ。
すると機体は速度を上げ、倉庫のゲートへと近づいた。同時に、弾丸が機体に向かって放たれる。外へと逃がしてくれる気はないようだ。しかしもう機体は進み始めた。
ゆったりとした加速ではない。
一瞬で飛び立てる速度まで加速する。前へと進み始めた機体は一瞬にしてゲートをくぐり外へと飛び出す。だが、企業傭兵がまだ飛び立っていない機体に飛び乗ってフロント部分から操縦桿を握るジンに向かって銃を向ける。
だがジンも咄嗟の判断で反重力機構を作動させ、乗って来た企業傭兵をまとめて上空へと放りだすと共に、今度は重力機構に切り替えて押しつぶす。強化服の性能もあってどうにか生きているが、もう動けない。
ジンは上昇を始めようと操縦桿を引っ張る。
だが同時に、まだ残っていた一人の企業傭兵が飛び乗ってきた。ジンは再度反重力機構を作動させる。だが重力機構への切り替えをしようとしたタイミングで火花が上がった。
反重力機構は作動しなくなり、企業傭兵が再度機体に乗った。
幸いにも反重力下で空へと投げ出された時に武器を手放して銃はなかった。しかし強化服という最大の武器を敵は保有している。対してジンはナイフのみ。
ジンが対処へと移ろうとしたその一瞬で、敵はジンの何倍も早く動く。
気がついた時にはすでに首を掴まれていた。
「――っが」
そのまま企業傭兵は拳を振り下ろす。
ジンは避けることができず拳を顔面で受けた。高性能な強化服。殴られでもすれば頭は吹き飛んで死に至るのが普通。しかしジンは頭が吹き飛ばされることなく、死んですらもなかった。
拳が命中したジンの頭部は鉄のような物質に包まれていた。
首元まで伸びた鉄のような物質は次第に首を掴んでいた手を侵食する。強化服が正常に稼働しなくなり、企業傭兵はすぐに手を離した。だが、その一瞬でジンは再度、反重力機構を作動させる。
企業傭兵はそのまま空中へと投げ出された。
今度は重力機構への切り替えはせず、ジンはそのまま飛び立つ。
機体は宙に浮き、加速を経て一瞬で最高速に達する。
このまま宇宙に出るか。
しかし窓が壊れた今の状態では。
時間をかければ敵機が襲い掛かってくる。
ジンが思慮を巡らせていると再度エラー音が鳴った。
もうすでに何回もなっているし、さっきも鳴っていた。というよりずっと鳴っていた。
しかし今新しく鳴ったエラー音はそのどれもと区別がつかない。
「まずいか」
次第に早く、大きくなるエラー音にジンが汗をかきながらボタンやレバーを押し込んだり引いたりして対策を試みる。
しかしいずれも意味が無く、エラー音は大きくなり続ける。
「やば―――」
そして次の瞬間、機体は淡い光に包まれた。
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