暗闇の世界

俺が生まれた場所――そこには母のぬくもりも、赤ん坊の泣き声もなかった。限りない光に包まれ、しかしその周囲には闇が渦巻く、不確かな何かの中に立っていた。限りない静寂の中、声が響いた。


「名前はエリサ。君は英雄の欠片――これから悪魔の神となる存在。君には二つの選択肢がある。彼と歩むか、それとも影の中から守るか。」


俺は沈黙の末、決意を口にした。


「影から見守り、守ります。」


俺は目立たず、しかし確かに彼を守る存在となる。それが、俺の歩みの始まりだった。


時は流れ、運命は牙をむいた。俺は純粋ではいられなくなり、社会からは『悪魔』と呼ばれた。だがそんな俺が選んだ道はひたすらに静かで誇り高い守護だった。


運命に拒絶されても、俺の決意だけは変わらなかった。なぜなら――守るべき人物がいたからだ。


闇に紛れ見つめた彼と、銀髪の少女――リラ。彼女の存在は俺の心を刺した。胸の奥がざわめき、嫉妬とも慈しみとも言えない感情に駆られた。


本来なら彼女を消し去る力もあった。だが俺にはそんな権利はない。俺の使命は、ただ“彼”を護ることだけ。


俺は夜の支配者、闇の中の審判者として表舞台に立った。貴族の横暴を打ち砕き、領民を守るために剣を抜いた。だがそれを目撃した人々は叫んだ。「悪魔だ!」と。


火炙りの中でも、俺は笑顔を浮かべる遺体を思い出していた。子どもたちの涙。俺は人々を救った。だがその名は、“悪魔”の名を冠してしまった。


ある日、ついに彼――タカゲ・タクオと対峙した。刃を受ける覚悟は決めていた。だが、そこにあったのは――剣ではなく、“抱擁”だった。


「私は知っている。君は悪魔かもしれない。でも、心は違う――人を救おうとする君を、私は信じたい。」


初めて涙が溢れた。重く垂れた角を抱きしめながら、俺は救われたような気がした。


その夜、俺は誓った。 「彼のそばにいることを。たとえこの身が闇に染まっても…」


剣では守れないものを、俺は、肌で守り続ける。影となって。夜風となって。彼が知らぬうちに。


戦禍に見舞われた王国。彼の叔父が倒れ、祖父すら瀕死。だが俺は密かに救い続けた。孤独の中で、俺は夜の影となり続けた。


社会から忘れられた“悪魔”――でも俺には彼を守るという使命があった。


祖父の死を機に人々は再び俺を糾弾した。「悪魔の仕業だ」と。だが彼の最後の言葉が、俺の胸に突き刺さった。


「お前の存在を彼には教えられない。教えたら…彼は壊れる。」


俺は傷つきながらも、誓った。「俺はこの秘密を守る」と。


今、俺は断崖絶壁の下で夕陽を見つめる。風が髪を撫でる。


昔の言葉が、心に反響する。


「差異は罪じゃない。希望を消さぬこと――人は二つの選択を強いられる。諦めるか、戦い抜くか。そしてその答えは、常に己の内にある。」


俺は今も影の中にいる。社会に、世界に否定されても。でも――


俺はエリサ。光の背後に潜む影。彼が抱いた痛みも、笑顔も、静かな夜も――全てが俺と共にあった。


俺は歴史には残らない。詩にも、像にも、記録にも――だが俺はいた。そして彼を――タカゲ・タクオ、その人を、愛していた。


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