15 物価高の副作用
「野菜が高いわ。高すぎるわ!」
夕食の買い出しをしていた主婦は、スーパーのキャベツの値札を見てため息をついた。
──1玉 980円。
「これじゃ、家計が持たないわ」
レジの奥で働く青年アルバイトは、その愚痴を聞き流していた。最近は誰もが同じことを言う。
けれど彼は知っていた。
「物価高の本当の理由」を。
彼のバイト先は〈物価調整局〉。
そこでは、全国の物価を「見えないスイッチ」で操作している。
野菜、ガソリン、電気代、何もかも──。
高くするのも、安くするのも、ボタンひとつ。
理由は簡単。
「国民の我慢力」をデータ化して、最も効率よく搾り取る仕組みだった。
耐えれば耐えるほど、さらに値段は吊り上がる。
怒りや不満が爆発寸前になったとき、ほんの少しだけ下げる。
すると人々は「安くなった」と錯覚し、喜んで財布を開く。
アルバイト青年は機械室の前でつぶやいた。
「……今日も設定どおり。キャベツは 980 円」
だがその瞬間、警報が鳴った。
【異常事態発生。国民、予想外の行動】
モニターに映ったのは、買い物客の姿。
彼らは高すぎる野菜をすっぱり諦め、道端の雑草を摘み、SNSで「意外とイケる」と拡散していた。
「キャベツなんか無くてもいい」
「むしろ新しい食文化だ!」
……データにはなかった。
青年の上司は蒼白になって叫ぶ。
「馬鹿な! 消費しなければ、我々の計画そのものが──」
青年は思わず笑ってしまった。
「つまり……物価の正体って、結局は“値札を見る人の気分”だったんですね」
その瞬間、すべての数字がゼロにリセットされた。
──値段は存在しなくなった。
そして世界中の人々は、ただ「欲しいから手に取る」という、かつて忘れていた当たり前の暮らしに戻っていった。
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