9 未来万博の迷子


 百年に一度の「未来万博」が開幕した。各国が誇る技術と文化を披露するこの祭典は、文字通り「未来」の見本市だ。今年の目玉は、時間を越えた展示である。来場者は専用のゲートを通り、未来の都市や百年前の街並みを体験できるのだ。


 私は取材で会場を歩き回っていたが、ふと小さな女の子が泣いているのに気づいた。迷子らしい。係員を呼ぼうとしたが、女の子は私の腕をぎゅっと掴み、震える声で言った。


「おかあさんを探して。あの未来館の中で、はぐれちゃったの」


 未来館――つまり、時間を移動する展示館だ。私は仕方なく彼女を連れて館内へ入った。

するとそこは百年後の大都市。空を走る電車、光る樹木、人工知能が案内をしている。女の子は辺りを見回し「ここじゃない」と首を振る。


 次に百年前ゾーンへ入る。蒸気の匂いが立ち込め、紳士淑女が行き交う。

女の子はやはり「ここでもない」と呟いた。


「お母さんは、どの時代にいるの?」

「わからないの。だって、まだ生まれてないかもしれないから」


 その答えに背筋が寒くなる。もしや彼女は展示物の一部なのでは? だが泣き顔はあまりに生々しい。


 あちこち巡り、やっと「現在ゾーン」に戻った。すると、一人の女性が駆け寄ってきた。私と同年代に見えるが、女の子とそっくりだ。


「やっと見つけた!」

女性が抱き上げる。

「よかった、ありがとう!」


 安心しかけたその時、館内アナウンスが流れた。


『お客様にご案内いたします。現在ゾーンに展示しておりました〈未来の娘と母〉のペアは、本日で終了となります。触れ合った方は速やかに出口へお戻りください』


 私は呆然とした。展示物? しかし彼女らの笑顔はどう見ても血の通った親子だった。女性は私に深く頭を下げた後、娘を抱いたまま出口のゲートへ消えていった。


 そして私は気づく。ポケットの中に一枚のチケットが入っていることに。それは「次回百年後未来万博・招待券」。日付は、私がとうに生きていないはずの年。


 ――未来博覧会では、展示を「体験する」のではなく、「体験させられる」側になることもあるらしい。


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