第8話 休日大会1回戦

 それから俺は、田花兄妹から大会参加に関する注意事項などを受けて、大会に参加することとなった。お店のレジで大会参加の受付をして、開始時刻まで対戦スペースで待機する。

「郁夫君、大丈夫?」

 すると、彩芽さんが声を掛けてきた。椅子に座る俺を、心配そうに見下ろしている。

「何が?」

「大会初参加でしょ? 緊張してない?」

 どうやら、初めて大会に出る俺のことを気遣ってくれたらしい。

「まあうん……緊張してないって言ったら嘘になるかな」

 彩芽さんの問い掛けに、俺はそう答えた。確かに、大会なんて初めてだから、緊張自体はしている。だけど、それだけじゃない。

「でも、それ以上に楽しみなんだよね」

「大会が?」

「うん。……色んな人とウラノスで遊べることが、今から楽しみなんだ」

 そんな緊張を塗り潰すのは、新たな体験に対するワクワク感。今までウラノスで遊んだのは、子供の頃を除けば彩芽さんだけだ。勿論、彼女とウラノスをやるのは楽しかったけど、今からは見知らぬ人とも遊べるのだ。事前に注意されたように、中には問題のある人もいるだろうけど、それでも楽しみのほうが勝った。

「そっか。だったら、ちょっと安心したかも」

 そんな俺に、彩芽さんはホッとしたようにそう言った。どうやら、大分心配させてしまったらしい。

「じゃあ、頑張ってね。……もしかしたら、大会で当たるかもしれないけど」

 そう言って、彩芽さんが去って行く。……今回の大会は田花兄妹も参加している。もしかしたら、どこかのタイミングで対戦することになるかもしれない。

「それでは今から、ウラノス休日大会を始めまーす!」

 彩芽さんと入れ替わるようにして、店員さんがやって来て大会の開始を告知する。さて、気合を入れて挑もう。



「よろしくお願いします」

「お願いします」

 指定された席に座り、対戦相手と挨拶をする。……田花兄妹から教わった、大会の心得その1。対戦相手との挨拶はしっかりと。丁寧で常識的なコミュニケーションは必須。彩芽さんも対戦中は敬語で喋るようになるけど、それも大会でのコミュニケーションが染みついているかららしい。

「えっと……自分、最近始めたばかりなんですけど」

「あ、初心者の方ですか。分かりました」

 そして、大会の心得その2。初心者であることは事前に申告しておくこと。相手が真っ当であれば、それだけで色々配慮してくれるとのこと。実際、対戦相手の男性(多分大学生くらい)は柔和に応じてくれた。

「それじゃあリーダー公開ですね。僕のリーダーは割とマイナーなんですけど、テキスト確認しますか?」

「あ、はい」

 相手のご厚意に甘えて、リーダーを確認させてもらう。《ノーライフ・キング》……墓地にゾンビのユニットが落ちる度に、相手のライフを削る能力がある。つまり、相手のデッキはゾンビ主体ということだ。

「ありがとうございます」

 相手にリーダーを返して、俺もリーダーを公開する。勿論、相棒である《デザート・ストーム・ドラゴン》だ。

「それじゃあ、先手後手を決めましょうか。じゃんけんでいいですか?」

「大丈夫です」

 じゃんけんをして、相手が先手、俺が後手になる。相手のターンからゲーム開始だ。

「ではコスト1《狂乱の炎》をプレイ。カードを3枚引いて、手札をランダムに3枚捨てます」

 相手がプレイしたカードは、手札を入れ替えるというもの。けれど、ランダムに捨てたら、必要なカードまで墓地にいかないだろうか?

「では、捨てる3枚を選んで下さい」

 相手は3枚引いた後、手札をシャッフルして、伏せた状態でこちらに差し出してくる。イカサマ防止策として、相手が混ぜてこちらが裏向きに選ぶことで、より公平にランダムにカードを選ぶことが出来るという。これも田花兄妹に講習された内容に入っていたな。

「じゃあ、これとこれとこれで」

「じゃあこれらを墓地に置いて……墓地に落ちた《道連れゾンビ》が誘発して、デッキトップを3枚墓地に置きますね。これでターンエンドです」

 墓地に落ちた《道連れゾンビ》の能力で、相手のデッキが墓地に行く。この手の能力は場から墓地に行かないと使えないものが多いらしいけど、これはどこから墓地に行っても能力が使えるらしい。

「えっと……じゃあ、ターン貰いますね。ドロー」

 俺のターンになった。……ゲームでの話し方は、例によって田花兄妹によって矯正された。相手とのコミュニケーションを円滑にする話し方をすることで、余計なトラブルを減らせるとのこと。

「コスト1で《ロック・ラット》をプレイしてエンド」

 彩芽さんと対戦したときのことを思い出して、彼女の口調を真似るようにして対戦する。今はまだ序盤だから考えることが少ないけど、後半になるとちょっとしんどいかもしれないな……。

「ではターンを貰います。ドロー」

 そして相手の2ターン目。相手のリーダーはコスト2なので、このターンに出るのだろうか。

「コスト1《死体加工技師》をプレイ。登場時の能力でデッキトップを3枚墓地に置きます。墓地に落ちた《道連れゾンビ》が誘発して、更にデッキトップを3枚墓地に置きますね」

 しかし、相手はリーダーをプレイしない。墓地にカードをひたすら送っている。これは確か、墓地を肥やすという行為だったか。

「そして残ったコスト1で《魂喰らい》をプレイしてエンドです」

 そして、更にユニットを出してターンが終わる。

「ターン貰います。ドロー」

 俺の2ターン目。相手の場にはユニットが並んでいるが、俺の《ロック・ラット》が殴れば、相手は大人しく通すかユニットを差し出すかしかない。ここは殴り得だ。

「《ロック・ラット》で攻撃します」

「通ります」

 攻撃は無事通った。そしてここから更に展開だ。

「コスト2で《ソニック・リザード》をプレイしてエンドです」

 大会前、田花兄妹に指摘されたのは、俺がいつも攻撃前にユニットを出していたこと。ウラノスは攻撃の後でもユニットを展開できるので、出すなら基本的には攻撃後のほうがいいとのことだ。そのほうが、攻撃時にコストが余っている分、相手はこちらが何をしてくるのか読みにくくなり、攻撃への対処を難解にできるとのこと。

「ではターン貰います。ドロー」

 そして相手の3ターン目。ここからどう動いて来るのか。

「まずはコスト2《ノーライフ・キング》を有効化します」

 遂に相手のリーダーが登場。これで、相手のゾンビが墓地に行くと俺のライフが削れるようになる。

「そして《魂喰らい》の能力を起動します。《死体加工技師》を墓地に置き、墓地の《道連れゾンビ》を除外してゾンビトークンを出します。《死体加工技師》が墓地へ置かれたことで《ノーライフ・キング》の能力が誘発してあなたにダメージです」

 そして相手のユニットが能力を使うことで墓地にゾンビが落ち、リーダーの能力で俺のライフが削れる。そして相手の墓地からゾンビが消える代わりに、新たなゾンビが場に現れる。《魂喰らい》は墓地のゾンビを消費して、場のゾンビをトークンに変換する能力のようだ。

「更に《魂喰らい》の能力を起動します。ゾンビトークンを墓地に置いて、墓地の《死体加工技師》を除外してゾンビトークンを出します。《ノーライフ・キング》の能力が誘発してあなたにダメージです」

 更に相手のユニットが能力を使い、また俺のライフが削れる。トークンは場を離れると消滅するが、墓地に行く時は「一度墓地に置かれてから消える」というルールらしく、墓地に行った時の能力の条件を満たすらしい。

「更に《魂喰らい》の能力を起動します。ゾンビトークンを墓地に置いて、墓地の《道連れゾンビ》を除外してゾンビトークンを出します。《ノーライフ・キング》の能力が誘発してあなたにダメージです」

 また相手が同じ行動をする。変化するのは、相手の墓地からゾンビが1枚消えるのと、俺のライフが削れること。……あれ? これ、ヤバくないか?

「《魂喰らい》の能力を起動します。ゾンビトークンを墓地に置いて、墓地の《友引ゾンビ》を除外してゾンビトークンを出します。《ノーライフ・キング》の能力が誘発してあなたにダメージです。更に《友引ゾンビ》が除外されたことで能力が誘発して、デッキトップを3枚墓地に置きます」

 とはいえ相手の墓地には限りがある。そう思っていたら、また相手の墓地が肥えた。マジか……。

「……そして《魂喰らい》の能力を起動してゾンビトークンを墓地に置き、墓地の《魂喰らい》を除外してゾンビトークンを出します。《ノーライフ・キング》の能力が誘発して、何もなければこのままリーサルですね」

「……参りました」

 その後、俺は結局何もすることが出来ず、いつの間にか敗北していた。何だったんだ、今の……?

「対戦ありがとうございました」

「……ありがとうございました」

 俺の初大会最初の試合は、なんだかよく分からないままに終わるのだった。

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