二人が出逢う時

【それはスローモーションのようでした】

そして決行の時は来た。


カンザスシティからマイアミに向け、二人はキティに乗って出発した。



女同士の二人旅。


グレンを想うパトリシアは当然の事、シルビアの心も弾んでいた。



隣に居るのは早くに死に別れた前世の母。

早すぎた別れに、当時は抜け殻のようになっていた。


メアリーやクリス達に支えられ、何とか両親の死を乗り越えたが……望んでいた未来は諦めるしかなかった。



大人になったら母親と旅行がしたい。

親子としてではなく、女同士の旅行がしたい。


そう思っていた。



ティーンでは興味の無かった男の子の話も、大人になれば出来るはず。

恋愛に関する相談も出来るだろう。


父親抜きで女同士の話をしたいと思っていた。

叶わなかったその望みが、長い年月を経て叶えられたのだ。



「ふふ、楽しいわね。」



「ほんと、楽しい旅行よね。」



二人ともハシャいでいた。

あちこちに立ち寄りながら、長距離の旅行を楽しんでいた。


グレンの話をしたり、シャスタの話をしたり。

恋愛話や仕事の話もたっぷりした。


シェンのお詫びに感謝して、彼女は両親との触れ合いをしばし楽しむ──。



「さあ、着いたわよ。んー、絶好の海水浴日和ね。」



ビーチの駐車場で伸びをするシルビア。

駐車場内を見回し、黒のトランザムを発見した。



「パティ、先に行って着替えててくれる?」



「良いけど何で?」



「ちょっとシャスタと連絡をね。」



ウインクされ、セッティングの事だと察するパトリシア。

それならばと了承し、一人で着替えに向かった。


ところがなかなかシルビアがやって来ない。

待ちくたびれた彼女がため息をつき、一足先にビーチを歩き出した。



「すごいわね……。」



初めての海。

その広大さに感動すら覚える。


押しては引き、引いては押し寄せる波の動き。

見ていて飽きないどころか、心が穏やかになって行く。


ふと気づけば、かなりの時間が経っていた。



「やば……シルビア探してるかも、」



焦ってビーチ内を見回すが、彼女らしき女性は見当たらなかった。



「まだ来てないのかしら。」



戻りながら探してみるが、やはり居ない。



「変よね……」



かなり時間が経っているのに姿が見えないなんて──



「もしかして何かあった……?」



事件か事故が起きたのかも知れない。

慌てたパトリシアが駆け出した。


誰かに何かが起きたのか。


シャスタさんに?

それともシルビアに?


まさか……グレンさんに……?



「!」



歩いていた人と視線が合う。

瞬間、周りの景色が緩やかに流れた。


そんなスローモーションの中、目が合ったまますれ違い──互いに振り返り足を止める。


目を見開き、驚いた顔をしている黒髪の男。


パトリシアの体に電撃が走る。

あり得ない感情、あり得ない感覚に捕らわれた。


初めて見る男なのになぜか懐かしい。

久しぶりに再会したような不思議な感覚だった。



「「あの!」」



同時に言葉を発し、気まずくなる。

ごまかすようにはにかめば、相手も同時にはにかんで。


更に気まずくなったところで男が深呼吸をし……



「突然でごめんね。その……俺、君に一目惚れしたみたいで……」



一目惚れと聞いたパトリシアが目を見開く。

その感情はまさしく──



「わ……私……も……」



そこまで言って言葉を飲み込んだ。

実際、自分も彼に一目惚れしていた。


だが、これから会わなければならない人がいる。

その人に会う為、自分はこの地を訪れたのだ。


だから、たとえ一目惚れしたとしても……約束を反故ほごにする事は出来ない。


かぶりを振ったパトリシアが頭を下げた。



「ごめんなさい。私、行かなくちゃ……。」



律儀な彼女が自分の感情を押し殺す。

何か言おうとした彼に背を向けて、その場から急いで逃げ出した。



「待って!せめて名前を──」



だが彼女は振り向かない。

長い金髪を揺らして走り去ってしまった。



「そんな……」



ようやく会えたのに。

俺の……理想の女性に──。



「理想の……」



つぶやき首を振る。

理想の女性は既にいるじゃないか。


今日はようやく彼女に会える日だ。

互いに楽しみにしていた対面の日……。


それなのに俺は──



「最低だな……。」



彼女を想いながら他の女性に惹かれてしまった。

同時に二人の女性を想うのはただの二股でしかない。


いや、さっきの女性は理想の姿をしていただけだ。

見た目より大事なのは中身じゃないか。


彼女の事は忘れてパトリシアに会おう──。



「シャスタさんを探さないと。」



くるりと向きを変え、去った彼女とは逆方向に歩き出す。

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