第17話 鎮守の杜(怖い話ではないかも)

 手続きの前に聞いて欲しいんだけど。

 私が住んでいた地域には、神社があった。

 そこを囲うように、木が植えられている。

 元々はなかったらしいけど、曰く「それっぽい」という事で植樹された。

 いわゆる「鎮守の杜」かな。

 でも、そんな怖いところって感じはしなかった。

 子どもが遊ぶようなとこだったし。


 学生の時、嫌なことがあって神社に行った。

 お腹減ってたから、肉屋で揚げたてのコロッケを買って食べてた。

 そしたら、声をかけられた。


「それ、なに?」


 女性だった。

 黒くて長い髪に、水色のオフショルに黒のマーメイドスカート。

 vlogでみる、都会のOLだ。

 なんでこんなオシャレな人が?と思ったけど、聞かれたから答えた。


「コロッケ……ですけど」

「あぁ、そっか。ちょうだい?」


 メイクもバッチリ決めたお姉さんが、笑顔で手を差し出してくる。

 赤い唇が、緩やかに口角を上げる。

 

「グロス、おちますよ……?」

「いいの、いいの」


 ティント使ってるのかな?と思って、コロッケを渡した。

 私の隣に座って、大きな口を開けてコロッケにかぶりつくお姉さん。


「あのっ! それ、揚げたてなので――」

「あっつ……!」


 私の忠告が間に合わず、お姉さんはコロッケから口を離した。

 目を丸くして口に手を当てている。


「うわ~、いいね。これが食べられるんだ」

「え? はい……。売ってるんで……」


 変な人だなぁって思った。

 揚げたてのコロッケが売ってないなんて、都会から来たのかなって。

 

「あ、お肉入ってる。……いいね」

「? 入ってるのは当たり前ですけど……」

「? いや、お肉なんて高いしさ」

「そんなに高くはないですけど……」


 私が学生の時だから、1個250円とか?だったはず。

 なんか、ここでおかしいなって思ってさ。

 都会から来てるのかな~って思ったけど、なんか違和感ある。

 服装は、当時の流行だった服装。

 でも、本人の雰囲気がなんか違う。

 金銭感覚も、そう。


「ごちそうさま~。じゃ、帰るかな」


 食べ終わったお姉さんは立ち上がって、背伸びをする。

 彼女は、何かを取りだして操作してる。


「じゃ、会うか分からないけど。またね」


 目の前に突然車が出てきた。

 車というには、小さい。

 1人乗りの……自転車というか、前に教科書で見たトゥクトゥク?みたいなやつだ。

 それに乗り込んで、一瞬光った。

 あまりに眩しくて目を閉じて、次の瞬間には何も無かった。


 怖かったかは、走って帰った。

 で、話しても信じて貰えなかった。

 だから、どうしようかと思って。


「……それが、タイムマシンを使う理由ですか」


 目の前にいる職員は、目を丸くして感心したように声を出してる。


「えぇ。……姿とかって、どうなりますか?」

「その人を探しに行く感じですか?」

「そうですね……」

「ん~、でも難しいっすよ。その人がどの時代から来てるか、分からないんで」

「それでも、気になるので。なんで、来ていたか」


 私は職員の目を見つめる。

 相手はふっと笑いだし、立ち上がった。


「いいですよ。なら、手続きしましょう。服装は……その時代に流行ってた服装を支給します。姿も違和感が出ないようになるので」

「はい」

「あと、出る場所は貴方の記憶で覚えてる場所に出ます」

「なら、場所は……?」

「多分、さっき話してもらったところですね。……まぁ、そう言って別の場所に出るのもあるんで」


 案内された場所は、タイムマシンが止まっている場所。

 乗り込んで準備してる時、職員が窓を叩く。


「あ、名前を名乗るは厳禁ですからね。当時はタイムマシンってないので」

「わかりました」


 そしてたどり着いたのは、例の鎮守の杜。

 自分の姿を見ると、水色のオフショルに黒のマーメイドスカート。

 持っていたバッグから、メイク道具を出して小さな鏡を取りだした。


「……そういうことか……」


 思わず笑う。

 そして、神社にいた女子高生に話しかけた。


「それ、なに?」

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