第15話 理想の夢

「実は、見る夢が現実だったはどうする?」


 変な友人が変なことを聞いてきた。

 それを流しつつ、ビールを喉に流し込む。


「おいおい~、無視するなよ~」


 友人は、ヘラヘラ笑いながら持っている串を動かす。

 下手な指揮者のようだ。


「酔っぱらいの戯言を、本気で聞くわけが無いだろ」

「なら、戯言だと思って流してくれよ~。ほら、夢ってさぁ、妙にリアルな時ないか?」


 思いだそうと目線を上にあげて、友人の顔を見る。


「思い出せねぇわ。覚えてんの?」

「ばっちり」

「こわ」

「その中でさぁ、めちゃくちゃいい夢があってさ~」


 曰く、自分が好きな物しかない夢らしい。


「ミニチュアがある街でさぁ。アメリカとかのストリートっぽいんだよ。それで、街中の至る所にミニチュアがあってさぁ。俺はそこに住んでるんだ」


 あまりに鮮明な夢を語る友人に、意味のわからない気持ち悪さを覚える。

 箸で掴んだ大根を、落としてしまう。


「お? 酔っぱらいぃ。落とすんじゃねぇぞ?」

「皿の上だから、いいだろ」

「まぁ、たしかに。で、何回か同じ夢を見るんだよ」


 ヘラヘラ笑ってた友人が、不意に真顔になる。

 何となく居心地が悪く、意味無くフライドポテトをちまちま食べる。


「おい……」

「同じ夢を、同じ場所の夢を、何回もだ。最近、寝る時間が早くなってきた」

「いい事じゃん」


「15時間も寝てるのにか?」


 思わず、友人の顔を見る。

 無理やり口角を上げて、何とか笑おうとしてる。

 よく見ると、寝てるはずなのに目の下にはクマが見える。


「眠いんだよ、今も。さっさと、寝たい。けれど、次。……次、同じ夢を見たら、俺はもう帰ってこない」

「おまえ……」

「だから、それを知ってる奴がいて欲しかった。俺は、上手くやってるよって」




 数日後、友人は死んだ。

 眠るように死んだとの事だ。

 持病なんてない。

 周りには、なんて言えばいいか分からなかった。

 俺が最期に会ってたから、親にも色々聞かれたけどさ。

 さすがに「夢の中で楽しく過ごしてますよ」とか、言えないじゃん。


 なんでこの話するかって?



 この前、夢に出てきたんだよそいつ。 

 まぁ、楽しそうだった。

 でも、怖いことも言ってたな。


「お前も来いよ、楽しいぞ」


 睡眠時間が、増えてるんだ。

 俺も、夢の世界に行くのかもしれない。




※半分、私の体験談です。理想の夢って怖いですね

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