第二章 闇の帰還
ウィバス
作戦会議室の重たい扉が音もなくスライドして開く。鋭い視線が一斉に入口へ向いた。
「じゃあね、パパ」ルネ・マクスウェルは端末を切ると「……遅れてすみません」と小さく言って、会議室中央の椅子に着席した。
気にせずに参謀と会話するブロドン。呆れたような視線をルネに向けるグレン。実に反応は様々だ。救いだったのはエムランの表情だった。彼は、申し訳なさそうに「遅れてすいません」と言ったルネに微かな笑みを浮かべて手を挙げた。
「来ないかと思ったぞ」
宇宙軍高官のデネファンがルネに言った。彼は若いが、ロマニの補佐を務めている。
「ごめん、遅刻?」
「かろうじてまだだ」そう言ったあと、デネファンはルネの耳元に顔を近づけた。「連絡もメッセージも送ったんだけどな」
「気づかなかったのよ。パパとの話が長引いてて」
ヒソヒソと話す二人。デネファンは仕事以外でルネの個人端末の周波番号を知る数少ない人物だ。
「ペルを安楽死させるかどうかでママと揉めてるみたいで」
「おい、絶対にNOだ」デネファンは声を僅かに大きくする。「まだMr.ペルは生きられる。君のお父さんが安楽死させようって言ってるのか?」
「逆よ。ママが安楽死させたがってるの。充分生きたからって」
デネファンはやっきりとしたため息をついた。
「通信入りました!」
参謀の声。
「繋げてくれ」と、エムラン。
しばらくすると、室内の照明がわずかに落とされ、モニターに映像が映し出された。映し出された映像は分割された9つのコックピット画面。その一つ一つの映像の左上にはArcherと9までのコードが記載されていて、目の前には数隻の未確認艦が確認できる。
「アーチャー1報告を。大統領も映像をご覧だ」
ノイズ。しばらくの沈黙の後、アーチャー1から通信が入る。
『こちらアーチャーリーダー。バルーム宙域に侵入。現在ステルスモードで敵艦に接近中。敵艦との距離3800』
パイロットの声がスピーカーから聞こえると同時に、ホログラムには彼らの機体から中継されたライブ映像が浮かび上がった。宙域は不気味なまでに静かで、点在するデブリの間をぬって進む敵艦隊のシルエットが、ゆっくりと拡大されていく。
「……これは……」ブロドンが眉をひそめた。
映像に映る敵艦は黒鉄色の船体に、正方形の艦体構造をしていた。艦の表面は滑らかで、連合艦のようなブリッジはない。
ルネのくっきりした目が映像に集中する。上下左右に動く彼女の瞳はまるで機械みたいだ。
「ん?!」
「お、おい……」
ルネがデネファンを押しのけて身を乗り出した。周りの視線が一気に彼女に集中する。数秒の沈黙ののち、彼女がぽつりとつぶやいた。「……これ、ウィバスだわ」
「何だって?」ブロドンが眉をひそめる。「何と言った?」
「ウィバスです」
そう言って、ルネは後ろを振り返った。そして多くの視線が自分に集中している事に恥ずかしさを覚えた。
「ウィバス?」ブロドンが言った。「……どうしてウィバスだと思うのかね?」
「ここです」
ルネはモニターを指差した。彼女の細長い指は敵艦の側面に開いた六つの穴を示している。穴は蓮根のように集まっていた。
「これは恐らく排熱口だと思われます。このような形の排熱システムは我々や他の種族では見られませんが、ウィバスの戦闘艦には、例外なくこの排熱口があるんです。あの種族特有の設計です」
ルネの言葉に、室内の空気が一層張り詰めたものへと変わる。ウィバス。連盟が数十世紀前に交戦し、多くの命が奪われたあの戦争を引き起こした種族。銀河を脅かした過去の存在がこうして蘇ってくるなんて誰も想定していなかった。
「アーチャー1、排熱口へさらに接近できますか?」
ルネがマイクに呼びかける。
『人使いの荒いねぇちゃんだ』
モニターから聴こえてきた言葉にルネは眉をひそめた。
そして直ぐに『了解。接近します』とアーチャー1は続けた。
徐々に排熱口に接近する映像。アーチャー1の画面が拡大表示される。
「やっぱり」
手の甲に浮かぶ血管のように、排熱口周辺に張り巡らされた線。線を伝う光の動きが何とも不気味だ。
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