第2話 朝日が昇る公園
横に伸びた長方形で茶色いベンチ。所々傷や禿げた痕が目立つが、ペットボトルの水を持つサッパリ女は遠慮なく腰を下ろす。マスカットジュースを持つ金井は目の前の汚れたベンチに躊躇う。金井は彼女の側に座るべきだと理解しているが、座れない自分がいることで焦っていた。目を縦や斜めに泳がす金井にサッパリ女は気付いた。
「ああ。立ちながらでも構いません。私に気を遣う必要なんて全くありませんよ」
「えっ、でも。………はい」
会って間もない赤の他人に軽々しく接していいのか。サッパリ女は「気を遣う必要はない」と承諾してくれたが不安は残る。もし軽々しく接することで、自分をダサい人と認定されるのが怖かった。よって金井は彼女を見下ろしたまま未だ全身から汗が絶えないのである。
「キスしませんか」
「へ?」
「ディープキス」
「え!?」
急に彼女は禁忌を発した。より頭が追いつかなくなる。しかし彼女はクスッと和やかに笑った。
「なーんて、嘘ですよ」
「へ、はあ」
理解は遠のいた。遠のいたおかげで金井の緊張は少し和らいだ。
「いやすみません。どうも緊張が解けてない様子でしたのでちょっと冗談を」
「は、はい…」
自分とは別世界の人間だと金井は悟った。
「名前、何て言うんですか?」
「金井、真琴、です」
「金井真琴、ね。私の名前は不破アカネ」
「アカネさん」
「そんな、さん付けなくて良いですよ。年齢近そうだし」
「いや、でも、まだ赤の他人ですし…」
アカネはきょとんと金井を見つめた。
「そうすか?」
「はい…」
緊張が解けた金井はアカネを半分恐れていた。
(このまま不良っぽい彼女に付き纏うのはリスキーだ)
(ましてやまだ連絡先を交換する程の友達でもない。今すぐこの場を離れるべきだ)と思い至っている暇に女は発する。
「悲しいなあ。久々に可愛いリスと話したかったんだけどなあ」
「り、リス?そんな、可愛いだなんて」
暖房のスイッチを押したつもりで無性に頭が温かくなる。これには金井も去れない。好奇心が動かされ興味を持ったのか金井はアカネに対して質問を投げかけてみる。
「……もしかしてアカネさんってレズビアンですか?」
金井の直球な質問にアカネは意外そうに表情を固める。
「鋭いですね。と言ってもまだ未経験ですけど。ってもしかして引きました?」
「いえ、身近に同性ありの人はいなく何だか新鮮でして、いいなあ。と」
臆病な金井にも、昔から特殊な人には言葉を詰まらせず関わることが可能だった。自分とは別種であろうと同じ社会から爪弾きを経験した仲を実感して、親近感を抱けるからだ。
「ふーん。じゃあ試しにやってみます?」
「え、何を?」
「セックス」
「は!?」
アカネは清々しく頬を横に伸ばして言葉を続ける。
「是非女同士で」
口すらつけていない缶のマスカットジュースは水滴に満ちていた。住宅地から右往左往に蝉が響き渡り、朝日はオレンジ色に2人の全身を染めた。
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